1,885 / 2,518
偽善者と渡航イベント 三十月目
偽善者と渡航イベント前篇 その16
しおりを挟む船の墓場であるこの場所が、ユニーク種である[シーノウン]によって破壊された。
まあとはいえ、それは予め分かっていたことなので対策もバッチリだ。
指定した時間に、状態を戻す。
時魔法と常駐魔法の重ね技を使って、破壊された痕跡は瞬時に巻き戻された。
「──さて、建築を続けるか」
「ちょっと待って。いや、さっきのアレを見たでしょ?」
「視たけど続けるぞ。何度も言うが、船さえ造らなければ動かない。アレはそういう制約の下に存在しているからな」
「……いろいろと知っているのがムカつくけど、だからこそじゃない。ワタシたちは今、その壊される船を造っているんだから」
イベント内容が船に乗ってとある場所を目指すという物なので、まあそれは当然だが。
ここで船を造る以上、[シーノウン]対策は必須とも言えよう。
「まずはおさらいだな。アイツは現在、一定数の船が完成するまでほぼ無敵状態になるよう祝福が掛かっている。まあ、条件クリアをしないと倒せないボスと同じ仕組みだ」
「……にしたって、アレは強すぎ」
「場所のせいでもあるな。あのユニーク種は船に対する特攻付き、他のユニーク種が外で素材を壊しているのと似た感じだ。だからここで暴れるなら、大地も非常に壊れやすくなるってわけ」
なんせ名前が『海忌源生』だし。
船乗りたちの海に対する恐れとか、その具現化とも呼べる存在などを力にして暴れることができるのだろう。
触手の形をしていたのも、クラーケンがそうした想像の中に含まれているから。
まだまだ、他の形状を使って翻弄してくるだろうな。
「まあだからこそ、ここで造船所を造ることができるわけだが……うん、造船所自体のレベルもだいぶ上がったな。あとは結界構築装置とか、防衛装置を展開しないと」
「……なんでそんな物が」
「うーん、まあ前の攻城戦イベントのヤツをそのまま組み込んだみたいだし。お陰で前に複製したヤツもそのまま使えるよ」
複製した装置は、ギーの【武具魔法】で再現すれば一時的に置いておくことができる。
それらを今なお働く『動骨』たちに組み込ませて、対策を整えていた。
「イア、お前の従魔とシャインでしばらくの間は防衛をする。お前自身はどうする? 従魔に指示を出すでもいいし、オブリとティンスの所に行って、船大工を呼んでもいい」
「普通に防衛するわよ。そっちは念話でもすればいいわ」
「あとは素材組の招集をして、こっちに徹させれば問題ないか。じゃあ俺は、そろそろ別の場所に行くとしよう」
「何処に行くのかしら?」
行っておかないと、それはそれで面倒になりそうだな。
素直に迷宮に行くと伝え、俺はこの場を後にした。
「……とりあえず、連絡ね。間違いなく何かやらかすだろうし」
聞きたくは無かったが、なんとなくそんな声が聞こえた気がする。
……とりあえず、全力で隠密行動をすることにしよう。
◆ □ ◆ □ ◆
MISSION:アルカから逃げ延びろ!
うんまあ、そういうことだった。
イアは眷属全員に連絡したので、実際には素材回収を行っていた眷属全員に警戒しないとならないが……一番はやはりアルカだ。
今も空から魔力の糸を張り巡らせ、俺の居場所を探っている。
気配を隠せる従魔でも見つかりそうだったので、今は魔術で身を隠していた。
「くっ、いったいどうすればいいのか……考えるまでも無いか──“召喚”」
今の俺は契約召喚士(仮)。
オブリの言葉でまたしばらくは反省しているので、眷属の力を頼ってみることに。
昔はフェニやレミルとも契約していたが、それは無職にされたときにリセットされた。
まあ、今は全員が白い魔本を介して契約をしているが……今回は別。
それとは別に契約を交わしている眷属を、召喚するつもりでいる。
使うのは白い魔本の方だが、眷属召喚が肉体ごとなのに対してそちらは魔力体だけ。
「──“眷属召喚:ユラル”」
魔法陣が投影され、呼びだされるのは若葉色の髪を持つ少女。
服装も自然を思わせる緑色の物で、精霊や妖精を思わせる。
──まあ、樹聖霊だから当然だけど。
「メルスンが頼ってくれるなんて……うん、なんだか感慨深いね」
「たまに呼ぶだろ?」
「うん、すごーーーくたまにね」
「……そんなにスパンが長かったか?」
問いにはすぐさま首を縦に振って答える。
自覚しているようで、やはり待たされる側的には結構長いように思えたのかも。
「うーん……すまな、かった?」
「全然悪いと思っていないというより、どこがどう悪いのか分からないって感じかな?」
「そんな感じ」
「メルスンは本当、自分のことっていうか意識して考えないこと以外は頭悪いよね」
まったく否定できないな、それ。
なので返答することもできず、ただただ乾いた笑みを零すことしかできない。
「さて、メルスンをからかうのはこれくらいにするとして……」
「おい」
「事情は上を見たらなんとなく分かったよ。あの娘もあの娘で、メルスンのいったいどこがいいんだか……気持ちは分からないでもないけど、メルスンなのにね?」
「その俺をどうからかいたいのか分からないのは止めてくれ。それよりほら、今は逃げる方法を考えてほしい」
逃げ場は森の中。
アルカから逃げるために、聖霊様の御力を借りようではないか。
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?
破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。
そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。
無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる
そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた…
表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと
イラストのurlになります
作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
俺と異世界とチャットアプリ
山田 武
ファンタジー
異世界召喚された主人公──朝政は与えられるチートとして異世界でのチャットアプリの使用許可を得た。
右も左も分からない異世界を、友人たち(異世界経験者)の助言を元に乗り越えていく。
頼れるモノはチートなスマホ(チャットアプリ限定)、そして友人から習った技術や知恵のみ。
レベルアップ不可、通常方法でのスキル習得・成長不可、異世界語翻訳スキル剥奪などなど……襲い掛かるはデメリットの数々(ほとんど無自覚)。
絶対不変な業を背負う少年が送る、それ故に異常な異世界ライフの始まりです。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる