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偽善者と渡航イベント 三十月目

偽善者と渡航イベント前篇 その16

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 船の墓場であるこの場所が、ユニーク種である[シーノウン]によって破壊された。
 まあとはいえ、それは予め分かっていたことなので対策もバッチリだ。

 指定した時間に、状態を戻す。
 時魔法と常駐魔法の重ね技を使って、破壊された痕跡は瞬時に巻き戻された。


「──さて、建築を続けるか」

「ちょっと待って。いや、さっきのアレを見たでしょ?」

「視たけど続けるぞ。何度も言うが、船さえ造らなければ動かない。アレはそういう制約の下に存在しているからな」

「……いろいろと知っているのがムカつくけど、だからこそじゃない。ワタシたちは今、その壊される船を造っているんだから」


 イベント内容が船に乗ってとある場所を目指すという物なので、まあそれは当然だが。
 ここで船を造る以上、[シーノウン]対策は必須とも言えよう。


「まずはおさらいだな。アイツは現在、一定数の船が完成するまでほぼ無敵状態になるよう祝福が掛かっている。まあ、条件クリアをしないと倒せないボスと同じ仕組みだ」

「……にしたって、アレは強すぎ」

「場所のせいでもあるな。あのユニーク種は船に対する特攻付き、他のユニーク種が外で素材を壊しているのと似た感じだ。だからここで暴れるなら、大地も非常に壊れやすくなるってわけ」


 なんせ名前が『海忌源生カイキゲンショウ』だし。
 船乗りたちの海に対する恐れとか、その具現化とも呼べる存在などを力にして暴れることができるのだろう。

 触手の形をしていたのも、クラーケンがそうした想像の中に含まれているから。
 まだまだ、他の形状を使って翻弄してくるだろうな。


「まあだからこそ、ここで造船所を造ることができるわけだが……うん、造船所自体のレベルもだいぶ上がったな。あとは結界構築装置とか、防衛装置を展開しないと」

「……なんでそんな物が」

「うーん、まあ前の攻城戦イベントのヤツをそのまま組み込んだみたいだし。お陰で前に複製したヤツもそのまま使えるよ」


 複製した装置は、ギーの【武具魔法】で再現すれば一時的に置いておくことができる。
 それらを今なお働く『動骨スケルトン』たちに組み込ませて、対策を整えていた。


「イア、お前の従魔とシャインでしばらくの間は防衛をする。お前自身はどうする? 従魔に指示を出すでもいいし、オブリとティンスの所に行って、船大工を呼んでもいい」

「普通に防衛するわよ。そっちは念話でもすればいいわ」

「あとは素材組の招集をして、こっちに徹させれば問題ないか。じゃあ俺は、そろそろ別の場所に行くとしよう」

「何処に行くのかしら?」


 行っておかないと、それはそれで面倒になりそうだな。
 素直に迷宮ダンジョンに行くと伝え、俺はこの場を後にした。


「……とりあえず、連絡ね。間違いなく何かやらかすだろうし」


 聞きたくは無かったが、なんとなくそんな声が聞こえた気がする。
 ……とりあえず、全力で隠密行動をすることにしよう。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 MISSION:アルカから逃げ延びろ!


 うんまあ、そういうことだった。
 イアは眷属全員に連絡したので、実際には素材回収を行っていた眷属全員に警戒しないとならないが……一番はやはりアルカだ。

 今も空から魔力の糸を張り巡らせ、俺の居場所を探っている。
 気配を隠せる従魔でも見つかりそうだったので、今は魔術で身を隠していた。


「くっ、いったいどうすればいいのか……考えるまでも無いか──“召喚サモン”」


 今の俺は契約召喚士(仮)。
 オブリの言葉でまたしばらくは反省しているので、眷属の力を頼ってみることに。

 昔はフェニやレミルとも契約していたが、それは無職にされたときにリセットされた。
 まあ、今は全員が白い魔本を介して契約をしているが……今回は別。

 それとは別に契約を交わしている眷属を、召喚するつもりでいる。
 使うのは白い魔本の方だが、眷属召喚が肉体ごとなのに対してそちらは魔力体だけ。


「──“眷属召喚サモン・ファミリア:ユラル”」


 魔法陣が投影され、呼びだされるのは若葉色の髪を持つ少女。
 服装も自然を思わせる緑色の物で、精霊や妖精を思わせる。

 ──まあ、樹聖霊だから当然だけど。


「メルスンが頼ってくれるなんて……うん、なんだか感慨深いね」

「たまに呼ぶだろ?」

「うん、すごーーーくたまにね」

「……そんなにスパンが長かったか?」


 問いにはすぐさま首を縦に振って答える。
 自覚しているようで、やはり待たされる側的には結構長いように思えたのかも。


「うーん……すまな、かった?」

「全然悪いと思っていないというより、どこがどう悪いのか分からないって感じかな?」

「そんな感じ」

「メルスンは本当、自分のことっていうか意識して考えないこと以外は頭悪いよね」


 まったく否定できないな、それ。
 なので返答することもできず、ただただ乾いた笑みを零すことしかできない。


「さて、メルスンをからかうのはこれくらいにするとして……」

「おい」

「事情は上を見たらなんとなく分かったよ。あの娘もあの娘で、メルスンのいったいどこがいいんだか……気持ちは分からないでもないけど、メルスンなのにね?」

「その俺をどうからかいたいのか分からないのは止めてくれ。それよりほら、今は逃げる方法を考えてほしい」


 逃げ場は森の中。
 アルカから逃げるために、聖霊様の御力を借りようではないか。


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