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偽善者と渡航イベント 三十月目

偽善者と渡航イベント前篇 その15

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 造船所の建築に関しては、俺が主導としてやることになった。
 都市の方には交渉済みだが、独りでやる代わりに最終工程以外干渉しないらしい。

 相手側が何を言いたいかというと、ユニーク種が出た際の責任を取れというわけだ。
 また、保険などもいっさい無い、完全な自己責任という形で了承を貰っている。 

 なので俺は造船所を造る大工たちに、最低限必要な物を聞いただけ。
 残りは全部俺がカスタマイズして、一から造船所を築く予定だ。


「まず──“軍勢召喚レギオンサモン動骨スケルトン大工カーペンター”」


 通常の召喚とも、一定数の召喚を行う多重召喚とも異なる軍勢を呼びだす召喚。
 多重召喚よりも大量に召喚できるので、今回の用途には最適だろう。

 なお、召喚士ではあるがイアがこれを使うことはない。
 彼女は名を与えた従魔と契約しており、多重召喚も軍勢召喚も名持ちには使用不可だ。

 ……正確には、一部の個の存在に執着を持たない存在ならば可能ではあるが。
 だが少なくとも、彼女の従える従魔にはそういった存在が居ないからな。


「それじゃあ大工諸君、さっそく俺のために働きたまえ」

『…………』

「ねぇ、それってどうやっているの?」


 イアの目の前で繰り広げられる光景、それは骸骨たちが建築作業を行うというもの。
 素材回収組に持ってこさせた素材を加工して、どんどん造船所を組み上げていった。


「魔本の仕掛けだな。イアの物と違って、俺の方は眷属の能力も組み込んである。擬似的に職業を付与できるのもその一つだな」

「……なんかズルいわね」

「ズルって言われてもな。どうせ使わないだろ、そんな機能。変更不可だぞ、おまけに従魔の存在そのものに干渉するわけだから、どういう悪影響があるか分からない」

「要らないわね、それ」


 とある職業が保有する、配下に職業を付与することができる能力。
 本来の職業性能に比べると劣化しているのだが、何もないよりは優れた個体になる。

 眷属の中にその職業に就いているヤツが居たので、それを再現して組み込んでいた。
 条件は俺が知っている職業で、能力内容を把握していること……それだけだ。

 まあ、代わりに職業能力以外の補正はゼロだし、能力もさらに劣化している。
 だがそれでも、職業名らしいことはできるので問題ない。


「俺がこれを使うのは、後腐れない全部を魔力で構築した契約召喚だから。召喚の都度リセットできるようにしたから、カスタマイズできるだけだ」

「ふーん、必ずしも名前を付けることがいいわけじゃないのね」

「そりゃあ名前を付ければ結びつきが強くなるし、個を確立するから絆を育むことができる。こういうことができないなら、普通に名前を付けた方がいいと思うぞ」


 もちろん、名前を付けない召喚士も居るんだけどな。
 自爆特攻とか、好感度度外視な残虐な戦い方をする奴なんかは。

 うちで言うと、ネロが該当する。
 ……アイツがいちいちアンデッドに個別の名前を与えるような、殊勝な奴だったはずが無いからな。


「にしても、凄いわね……職業が設定できる魔物なら、どんな個体でもできるの?」

「普通は無理だぞ。俺のヤツは職業能力に加えて、予め職業ごとに必要そうな知識をインストールしてあるんだ。あくまで、再現しただけだから追加で組み込み放題だ」

「……知識って言い方、いろいろと怖いわ」

「戦闘データ、一般知識……まあ、その職業で何ができるかを眷属たちが纏めてくれたモノを送信している。要は高級AI付きだ」


 お陰様で骸骨たちによる建築作業は順調に進んでいる。
 これはあくまで、造船ではなく造船所の建築だからできていることだが。

 大きさで言えば、定番の東京ドームくらいというたとえが相応しいだろうか。
 生産神の加護持ちなので、目視だけである程度の距離感は掴めるので間違いない。

 そんな施設が海に隣接して築かれつつあるが、やはりユニーク種は動かなかった。
 あくまでも、船だけを壊すという行動原理が刻まれているのだろう。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 それから動骨スケルトンたちは頑張って、一時間もしない内に造船所を築き上げた。
 なので最終工程を大工たちにやらせて、ようやく造船所は完成する。

 ……物凄く驚いていたよ、短時間で造ったことにもそれが動骨によることにも。
 舐めていたことを謝罪して、何かあったら手伝うことを約束してくれた。

 そして俺たちはようやく、船の製造を手掛け始める……ことになったのだが。


「イア、アレがここでの製造を阻む敵だ」

「…………ずいぶんと、デカいわね」

「全祈念者と自由民を相手取って、この後海の守護者を気取るユニーク種だ。レイドバトルでも、かなりの高難易度だろう」


 海に潜むユニーク種だが、その存在を確認するだけなら簡単にできる。
 動骨たちに船を造らせ、鑑定で船と定義づける状態になれば勝手に出てくるからだ。


「──『海忌源生[シーノウン]』、アレを倒さないと外に出れないのね?」

「そういうことだ。しかしまあ、今はほぼ無敵だから無理だぞ」

「……さすがに分かるわよ。触手一本だけでこれなんだから、いったいどうやって少数精鋭で挑むのかしら」


 船の残骸が並ぶこの場所、つい先ほどまでと大きく地形が変わっていた。
 中央でぱっくりと引き裂かれた船の大地、そこにそびえ立つ一本の触手。

 そう、[シーノウン]は触手を生やしたユニーク種……と認識されている。
 名前の通り、その全貌は『海のみぞ知るシーノウン』というヤツだ。


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