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偽善者と渡航イベント 三十月目
偽善者と渡航イベント前篇 その14
しおりを挟むイアが選んだ方法は、とてもシンプル──造船所と交渉を行い、最終工程だけなんとかしてもらうというやり方だ。
海湾都市の造船所は、空間属性で拡張しているからこそオンリーワンになっている。
だが造る船が一隻だけなら、別にその技術が無くとも困らない。
だが造船所も船大工同様、条件付きで成長することができるシステムだ。
なのでいっさいこちらの住民が関与していない造船所は、大した補正も付かなくなる。
……というわけで、最後の部分にだけご協力いただこうというわけだ。
「必要なのは造船所を置く場所だな。つまりは土地探し、この問題をなんとかしないといけないわけだ」
「……あんたなら、できるの?」
「ふっ、愚問だな。ただまあ、方法は全部非合法だしクレームの嵐だ。ただ、土地が買えないわけじゃないからどうにかなるだろう。先に土地を買ってから造るって方法、今回はできないみたいだし」
「そうみたいね。前提クエストをクリアしないと、土地すら買えないなんてね……この後開拓もされるらしいわ」
まあ、どれだけ頑張ろうと祈念者全員を集めたイベントを補うことは難しいだろうな。
だからこそ、より多い場所を確保してどうにかしようとしている。
それに便乗するには、少しばかり時間が足りない……それなりの物を造るならな。
というわけで、すぐになんとかするための方法を考えているわけだ。
「前提クエストもいろいろあるよな。普通に不動産で出されるヤツ、商業ギルドから受けられるヤツ、もしくは地主と直接交渉。俺としては三番しか無いと思うぞ」
「それにしたって、全然見つからないから困るのよ。このバカも、少しぐらい働いてくれればね……」
俺がイアと話している間、まったく反応していなかったシャイン。
……いやまあ、最初の方は盛り上がっていたが、魔法で黙らせました。
「シャインは暗躍の方が向いているからな。まあ、これからやることに対する批判を黙らせるにはちょうどいいだろう」
「……そうね。それぐらいならまあ、こいつでもできるのかしら?」
「やるときはできるヤツ……なんだろうな。ともかく、今は俺とお前でやってみよう。もしそれでダメなら、コイツに任せてみるってことで」
たしかにシャインはドMだ。
しかし、今もなお彼(女)についていくクランメンバーが居て、しっかりとクランが管理できているのもまた事実。
出会った当初はだいぶバカっぽかったが、いちおうは才ある存在に違いない。
何度も言うが、本来は『選ばれし者』の一人としてナニカを背負う存在だったし。
魔法を解除して、精神魔法で恍惚状態から強制的に引き戻す。
……これで性癖とかも戻せたら、どれだけ楽だったことやら。
「シャイン、話しは聞いていなかっただろうから説明してやる。これから俺たちは、造船所を造るための場所を手に入れる。お前は護衛として、影に潜んでイアのサポートだ」
「……ご主人様のご命令とあらば」
「納得がいかなさそうだが、俺も同行するから俺の影に潜んで──」
「仰せのままに!」
物凄い勢いで俺の影に、“闇迅脚”を利用して潜り込むシャイン。
死角への移動以外にも、成長したら潜り込めるようになるのだ。
しばらくはこれでいいだろう。
俺とイアは計画した通り、海湾都市のある場所に移動するのだった。
◆ □ ◆ □ ◆
そのある場所とは、俺が先ほどティンスやオブリたちと訪れた残骸が並ぶ跡地だ。
ここは潮の流れで船が辿り着く、墓場のような場所である。
「究極的に言えば、造船所は無くてもいいけどな……説明した通り造船所にしなきゃいけない以上、ここでやってみようと思う」
「でも、どうしてここなの?」
「シンプルにここは誰の土地でもない。だから地主との交渉は不要だし、そもそも土地でもない。あくまで船の残骸が積み重なって地面っぽくなっているだけだしな。他の祈念者も気づいてはいるが、何もしてないだけだ」
「それを占領しているわけね」
占領と言っても、残骸の広がるここはそれなりに広いので分譲地みたいにできる。
自由民たちは使い方に困っているらしいのだが、それも時間の問題だしな。
「ここは海に近い……というか、海の一部だからな。しばらく造船作業に勤しむと、おそらくユニーク種が出てくる」
「…………はっ?」
「現状、海に居るユニーク種が出航を阻む設定なんだろう。だからここで船を造ると、途中で破壊される」
「…………じゃあ、なんでここで?」
当然の質問だ。
もちろんイアも、俺が力を出せば造作も無いこと自体は理解している……俺が協力しないからこそ、どうするのかと聞いている。
「とりあえずシャイン、それと従魔に防がせてみよう。造船所はたぶん壊されないから、船を造って偽装しながらやればどうにかなるだろう」
「……それ、本当に上手くいくのかしら?」
「やるだけやって、失敗しても別にいいだろうよ。どうせ最終的に、アルカが戻ってきて魔法連射で防衛してくれるだろうし」
「…………それもそうね」
本当、うちの眷属ってこういうときに頼りになる奴ばっかりなんだよな。
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