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偽善者と渡航イベント 三十月目

偽善者と渡航イベント前篇 その12

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 探し物の魔術を使うことで、指輪探しは進展していた。
 近づけば近づくほど分かるので、俺たちはただ歩くだけで目的地を知ることができる。


「──そっか、オブリたちはいろんな所で頑張ってくれているんだな。俺はいつも、偽善ばっかりで何にもやってないのに」

「え? お兄ちゃんがいつも凄いって、ミントちゃんが言ってたよ? カグちゃんも、それにニィナちゃんだって……」


 祈念者の眷属と自由民の眷属、決して知り合っていないわけじゃない。
 互いに同じ場所(俺の創造した世界)に来ることがあるので、まあ当然だな。

 オブリは子供枠……みたいな感じに所属する子たちと仲がいい。
 俺も実際、オブリが挙げた子たちから彼女の話を何度か聞いている。


「お兄ちゃんは、誰かのために頑張っているから支えたいって。私も、お兄ちゃんのために何かしたいよ? でも、お兄ちゃんは全然頼ってくれないから……自分から頼ってもらえるように頑張るんだ!」

「オブリ……!」


 子供の純粋な想いというか……いやまあ、前に一度ストレートに言われたけど。
 ただ、共にスキル習得を行うためだったのに、ニィナとも最近は行ってなかったな。

 ……本当、何度言われてもそれが芯まで響かない奴だよ、俺は。

 それから話を変えて続けることしばらく、少しずつ魔術から伝わる反応が高まる。
 そろそろ着くだろうと考えていると、特定の距離に目的地があると魔術が告げてきた。


「──っ。魔術に反応があったな、そろそろ目的の場所に着くぞ」

「本当かしら? でも、ここって……」

「だからこそ見つからなかった、そういうことだろうな」

「……分かったわ」


 前に居たティンスも、俺の言葉に周囲をより注意深く探し始める。
 俺たちが居る場所は街の外れ、大量の船の残骸が並ぶ跡地だ。

 ──まあ、そういうことなのだろう。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 結論から言えば、オブリに依頼を出した船大工は協力することになった。
 今回は彼女たちの努力の結果なので、俺が行ったことはそこまで説明せずともいい。


「──幽霊を使役して、連れてくるとかありなのかしら?」

「だからこそ、最上位の評価を出してもらえたんだからいいだろう? それに、ちゃんと成仏してたってことは、これも運営が想定した攻略方法なんだろう。わざとらしいフラグもあったから間違いないさ」

「でも、お兄ちゃんのお陰でとっても嬉しそうだったよ。やっぱりお兄ちゃんは、凄いんだなぁ」

「まあ、そうね。メルスが居なかったら、あの人も悩んだままだったわ……感謝するわ」


 二人はおつかいクエストを受ける前から、船大工と交流していたようで……短い時間とはいえ、その繋がりもあって気持ちが分かったのだろう。

 俺は今回一度切りなので、まあそこまで感情移入はできなかったが。
 しかし二人の影響を受けて、それなりに計らいをしてしまったな。


「これからは二人で頑張るんだから、きっと俺たちのクランで乗る船もきっと凄い物になるんだろうな。となると、他の所がどうなっているか気になるな……」

「素材の方は結構集まっているみたいね。ただ、少し気になることが……」

「気になること?」


 そう話すティンスは、俺が全眷属に配布している『Wifone』を操作している。
 おそらく[掲示板]にアクセスして、何かしらの情報を得ているのだろう。


「なんでも、素材を一定数持っていると襲撃されるらしいのよ」

「襲撃? なんだ、PKか?」

「そうじゃなくて……ユニーク種が出てくるのよ。そういう能力を持っているんでしょうけど、一番厄介なのは鳥型のユニーク種ね」

「…………へぇー」


 運営が用意したユニーク種が、素材集めの妨害を可能としていたのは知っている。
 だが、まさかそんな彼らを超えて一番厄介者にされているとは……なぜだろうか?


「他のユニーク種は、素材のあるフィールドでしか現れない。でも、その鳥だけは街以外のどこにでも現れる。それに、素材を持ち合わせていないと装備まで破壊される……お陰で挑んだ人たちから苦情の嵐みたいよ」

「挑んだ奴? つまり、襲われない奴もいるわけか」

「そうみたいね。でも、やっぱりユニーク種には挑みたくなるものよ。どこでも現れるってことはつまり、どこにでも逃げられるってこと。素材を壊されるだけ壊されて、何もできないまま終わるんだから大変よね」

「……そういうことか」


 予め命じたので、敵対しない者は素材のみの破壊をしていたのだろう。
 だが、それ以外は自由にしていた……それでも逃亡だけで殺しはしていないのか。

 どうやら[アズルジャア]なりに、何かしらの成長があったようだ。
 意図して殺さず破壊のみを続け……その先に何があるのやら。


「お前たちはどうする? そんなユニーク種が居るって知って」

「別に気にしないわ。そりゃあ厄介な相手かもしれないけど、メルスの作ったアイテムがあれば大半のことはできるし」

「まあ、それがお前たちにできる最低限の配慮だからな」

「……最大限の配慮、のはずだけど。メルスの場合は、こっちの方で充分だわ」


 チート性能の装備ばかりだしな。
 うん、俺としてもそこまで大量生産をして配る気は無い。

 それにしても[アズルジャア]、改めて思うがちゃんと働いているのか。
 ……どうかアルカに気づいたら、全力で逃げてくれよ。


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