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偽善者と渡航イベント 三十月目

偽善者と渡航イベント前篇 その10

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 造船ドックは街の至る所に在るが、祈念者という需要に比べると圧倒的に数が劣る。
 しかしどうやら、イベントエリアにおける造船ドックはちゃんと対策済みらしい。

 一種の個別サーバー、一つの造船ドックで複数の船が造れる仕様のようだ。
 世界観的に説明すると、空間魔法で隔てているらしい。

 ……いやいや、空間魔法なんて貴重なモノが全部の造船ドックで使えるわけないから。
 だがまあ、誰も喜ばない真実なので気にする必要は無いが。


「まあ要するに、造船ドックを自作しようとしても同じようにはならないってことだな。だから俺が手伝おうにも、できるのは素材集めか船大工探しぐらいだ」

「──それで、船大工探しを手伝うために私たちのところに来たと?」

「オブリがおつかいをしているのは見た。たぶん、二人がその担当なんだろうなって思って来たんだが……ダメだったか?」

「……まあ、構わないわよ。見ての通り、オブリは大喜びだしね」


 俺たちが温かな目で見つめる先には、嬉しそうに舞い踊る妖精がいる。
 朗らかな笑みに、俺たちの顔も思わず緩んでしまっている気がした。


「そういうわけだ。何か俺にできることがあれば、とりあえず言ってみてくれ。今の俺は召喚士みたいな縛り中だから、人海戦術とかできるぞ」

「……なら、一ついいかしら?」


 オブリのおつかいは、宛て先が分かっていないらしい。
 だからこそこうして依頼され、達成すれば協力してくれるんだそうだ。

 渡されたのは一つの指輪、その持ち主を見つけて渡してほしいというもの。
 妖精由来の宝石が埋め込まれており、だからこそオブリに依頼したんだとか。


「つまり、俺も探せばいいわけか」

「そうね。何か無いのかしら、こう探し物用の魔法とか?」

「あるにはあるが……それ、ズルとかにならないか?」

「……本当、メルスって便利よね。オブリと話して、一定時間過ぎても見つからなかったら多少強引に探す予定だったのよ。だから別に、その方法で構わないわ」


 基本的に戦闘系の物しか魔法は所有していないが、今回のヤツは魔術だ。
 凡庸性が高いのが売りな魔術なので、暇潰しでネタ的な魔術を作っていた。

 ──ちなみにそのとき歌っていたのだが、当然某夢の中まで物探しをする歌である。


「オブリ、張り切ってるな」

「そりゃそうよ、メルスや私たちのためになることができるって。ずっとこの調子だし、私もつられて張り切っているわよ」

「……なんか、悪いな」

「気にしないで。それに、メルスと会わなくてもこのゲーム自体はやっていたんだから。もちろん、今のみんなといっしょに居ること自体に楽しめているとは思えないけど」


 ティンスとオブリは俺が見つけ、スカウトした眷属。
 その頃は適性とかもさして気にせず招いていたが、二人はちょうど適性を持っていた。

 ティンスは現実世界でのイジメに耐えて、【忍耐】の適性を。
 オブリは子供ながらの献身を続けた果て、【救恤】の適性を。

 二人の事情は眷属になってもらった後に聞いたが、どうにもやるせなかった。
 ……現実世界の俺には、偽善を行うだけの力が無いんだからな。

 まあ二人とも、AFOでの経験を以って変化を生みだしたらしいけど。
 共に状況は打開し、クラスメイトともある程度よい関係を築けたらしい。


「……まあ、最初に出会えた眷属が二人で良かったと思うよ」

「急にどうかしたの?」

「シャインみたいなヤツとか、アルカみたいなヤツが眷属だったら苦労していただろう。前者は過剰に崇めそうだし、後者は思いっきり殺しに来そうだし」


 シャインの方は、本人の気質もあるが俺が悪いところもある。
 もちろん、フェニに手を出そうとしたのでこちらも手を緩めなかっただけだが。

 アルカはまあ……うん、これも本人の気質の影響か。
 いずれにせよ、気を緩められない相手だということに変わりない。


「ふふっ、そうね。ならメルスは、私たちのことをどう思っているのかしら?」

「……友達以上家族未満、ってところか? 自由民の眷属以上には思えないが、結構優先したい人物には入っている」

「まっ、下手に好きだとか言われても困るものね。私もオブリも、家族と同じくらいメルスや他の人たちが大切だと思っているわよ」


 俺が[眷軍強化]を生みだしたのは、繋がりが欲しいと願ったからだ。
 分かち合うことのできる、嘘偽りがあろうとも共に居られる間柄……家族を求めた。

 祈念者の眷属はその域まで達していないものの、好ましく思っている。
 シャインやアルカも、アレではあるがそれでも含まれているぞ。


「ティンス、正直俺はお前との距離感を測りかねている。オブリみたいに思いっきり年下というわけでもないし、そもそも今の俺ってどういう状態なのか分からないし」

「ええ、留年はしていそうよね。もしくは退学扱いかしら?」

「……まあ、そういうことだ。なんだか眷属たちにいろいろと言っているし、ティンスにせっかくの機会だから聞いてみた。俺とお前はどういう間柄なんだろうか?」


 改めて、俺は眷属の主という立場以外の繋がり方が分からない。
 分からないモノは聞いた方がいい……というわけで、教えてくださいな。


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