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偽善者と渡航イベント 三十月目

偽善者と渡航イベント前篇 その08

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 夜ももう間もなく明ける。
 俺とPKたちによる戦いも、日の出と共に幕を閉じることができた。


「どんどん来ていたPKたちも、もう来なくなった。そろそろ引き上げ時だな……」


 一度は凄腕たちが集まっていたのだが、もう残っているのは残党たち。
 俺も追加で従魔たちを呼ぶ必要も無くなっており、魔力回復に努めて瞑想中だ。

 そんな俺の傍に侍り、警戒を続けているのは闇泥狼ダークマドウルフの王個体。
 すでに夜明けが近いため闇の泥は生成していないが、身に纏う泥は健在だ。


『それで、これからどうする?』

「一度全員送還した後、また迷宮踏破に専念するつもりだ。鉱石と木材の迷宮は確保できたけど……お前が分体に守らせている場所はまだまだあるだろう?」

『中は見ていないが、迷宮と思わしき数ヶ所に配置はしてある。指示通り、壊されたら向かう予定だったが、誰も来ていない』

「PKたちはこっちに集中していたし、初めの内は出ようとした奴らは狩られていたはずだから仕方ないってことか? まあ、俺としては好都合だ。さて……もう夜も明けた、次の場所に行くとしよう」


 硬質化した泥を座席代わりにして、闇泥狼の背に乗って移動してもらう。
 PK狩りはそれなりに楽しかったが、やはりまだまだ物足りない。

 だからこそ、『黒鍵魔剣』の力を使ってまで直接参戦したわけだし。
 縛りで自分を追い込むと言っても、楽しさが欠けては面白くないのもまた事実。


「いっそのこと、今みたいな使い方以外でやるべきかな──こっちを使うみたいに」


 黒い魔本とは別に、白い魔本を浮かべる。
 使ってほしいと常日頃から言われているものの、やはり頼り過ぎるのはなぁと全然呼びだしていなかったからな。

 迷宮の環境や規模によっては、頼った方が楽しいかもしれないと考え直してみた。
 眷属の都合もあるので、全員を呼ぶわけにはいかないがな。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 迷宮『一綿の大畑』


 次に訪れた迷宮は、おそらく帆やロープなどに使う布素材を集める場所なのだろう。
 広大なその迷宮は、迷宮の名前通り一面の綿畑で構築されていた。

 なんというか、今回の迷宮は単純に規模が広すぎて苦労しそうだ。
 海は地平線の彼方まで見えるというが、それと同じくらいの広さみたいだし。

 迷宮を探るスキルも、迷宮の踏破条件を探れるわけではない。
 どうやら、まだ誰も居ない迷宮みたいなので……うん、この方法にしようか。


「──“召喚:ノア”」


 これまでとは違い、種族名ではない固有の名前を使って召喚する。
 そうすることで、特定の存在を呼ぶことができる……イアの使う召喚はこっちだな。

 黒い魔本から選び、呼びだそうとした存在のために召喚陣が構築される。
 だがそれは、明らかに人を呼びだすような小ささではなく──大型の施設サイズだ。

 そして、やがて向こう側の了承が得られたのか召喚が行われた。
 ゆっくりと現れるのは──船……いや、箱舟である。

 呼ばれた召喚陣から、そのまま浮かび上がり空の上。
 しばらくしてその動きが止まると、何者かが箱舟から飛び降りてここにやって来る。


「──私を呼んだかな、魔王君」

「まあな。さっそくで悪いが……この畑、全部焼き尽くしてくれるか?」

「いきなりだね……迷宮の中みたいだから、それ自体は構わないけど。もしこれを外でやるって言うなら──」

「言わない言わない。やりたいなら別だぞ、お前って魔王なんだからな」


 全身真っ白、トーガっぽい長い布をその身に纏う長髪の女性。
 付喪の精霊であり、創造者たる神代の民の名を継ぐ……偽りの魔王。

 一時期は荒れに荒れていたが、まあ俺と契約して以降は世界を股に掛けて飛んでいる。


「それじゃあ、頼めるか?」

「了解した。少し待ってほしい、すぐに準備して砲撃を始めよう」


 彼女の姿が一瞬で消えると、そこには小さな宙に浮かぶ球体が残る。
 精霊としての彼女の姿なのだが、それはふわふわと宙を舞って箱舟へと還る。

 やがてしばらくすると、箱舟に変化が生じ始めた。
 かつてはさしたる武器も持っていなかったのだが、今は違う。

 俺が宇宙へ行き、星の海へ至った際お土産で貰った『超越種スペリオルシリーズ』たる『宙艦』の部品。
 それらはすべてノアに渡して、箱舟の強化に費やしていた。


「おおー、始まったよ」


 譲られた『宙艦』のパーツなので、おそらく本体とまったく同じとは思えない。
 だがそれでも、『超越種』のパーツなのでそれなりに使えるとは考えていた。

 ──その予想は裏切られた、いい意味で。

 空から放たれた一発の砲弾。
 宇宙でも使える仕様にしているからか、音も無くその手順すべてが魔力で行われる。

 宇宙って空気は無いから火薬使えないよなと思いながら、流れ星のように落ちる砲弾の行き先を眺める。

 綺麗な軌道を描き、地面に到達する砲弾。
 そして、爆発──なんだかよく分からないが、俺の視界は真っ赤に染まった。


「……えっ?」


 アニメや漫画でありがちな爆発のエフェクト、それを数十、数百倍に強化したような破滅的な光景。

 これが現実世界だったなら、俺は間違いなく熱量だけで死んでただろうなぁと察することができる大火力。


「……え゛っ?」


 口から零すことができたのは、小さな問いだけだった。
 宇宙って……こんな火力が無いとやってけないのか、なんて思いながら。


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