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偽善者と渡航イベント 三十月目
偽善者と渡航イベント前篇 その06
しおりを挟む迷宮『至高の鉱山』
お次に訪れたのはエベレスト級にそびえ立つ、いと高き山だった。
一定の高さで色が変わっているのが特徴、もちろん上に行けば行くほど高品質だ。
今回の迷宮、ボスは山頂に居る。
そこへ向かうための方法は二つで、外側から行くか内側から行くかだ。
ただし、空を飛ぶことはできないので、外から向かう場合は普通に登山関連のスキルかアイテムが必要になる。
内側の場合は階層ごとにボス戦が必要なのだが、外部から行けば最終戦のみで済む。
なので俺が選ぶのは、当然ながら外側からの挑戦である。
「──“召喚:釈迦蜘蛛”」
そのために必要なのは、急勾配な壁だろうと登ることができる存在。
それをすでに、俺は迷宮で生み出したうえで契約を交わし、黒い魔本に登録していた。
呼びだしたそれは、八本足の蜘蛛だ。
ただしその背中に、仏像などでよく見る光背と呼ばれる物が描かれている。
「それじゃあ、俺を運んでくれ」
『ギィー』
背中に乗ると、まずは俺を糸で縛らせた。
そのままだと垂直立ちをした際に堕ちてしまうので、その配慮である……傍から見たら捕食でも、粘着糸ではないので間違いない。
そんなこんなで、俺は登山を始める。
私服で特に装備も整えずに挑むなんて愚行そのものだが、スキルや魔法がある以上それも許されていた。
「──“多重召喚:壁這蛇”」
だがまあ、蜘蛛一匹に任せていては心許ないのもまた事実。
実際、もうすでに山登りを阻むように魔物が出現し始めている。
そこで用意するのが、壁を這って動くことができる蛇たち。
蜘蛛と共に俺が支援魔法で強化すれば、山頂のボス以外はなんとかなるだろう。
◆ □ ◆ □ ◆
思いっきり過程は端折り、俺の現在位置はすでに山頂だ。
幸い、そこまで強力な魔物は配置されておらず、あくまで妨害用といった感じだった。
登山ルートの中でも、現実でもできる登山と断崖絶壁をクライミングするルートで分岐しており、後者の方は妨害がメインなんだろうと俺は思っている。
まあ、そんなことはさておき、今は山頂に居るボスとの戦闘だ。
俺がここに来た時点で、ソレは動き出していた──山が剥がれ、胎動する。
「なんというか、山といえばゴーレムって結構安直だよな。まあ、こんな環境で動ける奴もそういないだろう」
事前に語った通り、この山はエベレスト級の山……当然、高度もそれと同じくらいだ。
つまり、空気なども薄くなっているため、普通の魔物が活動できなくなっている。
これ、内部から来た奴らにボス戦をやらせる気がないのでは?
内側は迷宮特有の環境調整で、一定の温度や空気が確保されているはずだ。
それが山頂に着た途端、突然大きく狂うのだから発病率も高まるだろう。
相手はそれを気にしない無機物、戦いは苦戦すること間違いなしだ。
「──“召喚:骨竜”」
対する俺は、酸素不要なアンデッドの一種である骨竜を呼びだす。
死霊術も、ある種契約なので緩い縛りな今回は使うことができる。
黒の魔本越しに強化を施すと、目の前で動き出したボス──『合金傀児』に向けて攻撃するよう命令を下す。
骨の強度を上げたので、金属製のゴーレムが相手でも戦うことができている。
爪や歯も強化しているため、引っ掻きや噛み付き攻撃などもしていた。
だが、本来ランダムなこのゴーレムの構成物質が厄介だ。
運営側で何かしたのか、使われている鉱石に特徴的な物をいくつか見つけられた。
「マジで心金とか真銀、芯銅まで使われているのか。自動回復の天治癒石まであるし、簡単には倒せないみたいだな」
金銀銅で異なる性能を持っている『シン』シリーズに加えて、天治癒石までセットだ。
他にもいろんな鉱石が使われているため、骨竜がぶつかる度に鉱石の力が発動する。
たとえば聖石、そして浄化石。
加工すれば闇属性やアンデッドへの特攻効果が得られる鉱石、それが含まれているため特定箇所の攻撃を受けると大ダメージだ。
俺にできるのはせいぜい、魔法で浄化や破壊がされないように支えることだけ。
あとは残していた釈迦蜘蛛や壁這蛇を用いて、対応が面倒な妨害をするぐらいだ。
「まあそもそも、俺自身が参加していれば余裕で勝てるのにな……でも、こういう状態になることも想定して、従魔たちを器用に動かせるようにならないとな」
かつて、魔導で呼んだ軍師と戦った時のように、采配できる才能を磨いて損は無い。
今回もまた、武器系のアンデッドや契約した尋問の黒い魔剣を呼べばすぐ戦える。
それでも戦わず、見届けた。
そしてそれは形を成し──
===============================
≪迷宮守護者『アロイゴーレム・カスタム』が討伐されました≫
《達成者には初回討伐報酬として『合金の詰め合わせ』が贈られます》
《攻略後特典として、各ポータルの使用が可能となります》
《ポータルの使用は討伐者のみに適応されますので、ご注意ください》
《討伐者が迷宮権限を保有していることを確認、踏破済みの迷宮を支配することが可能となりました》
《条件適合により、『至高の鉱山』を支配可能です──実行しますか?》
〔はい〕 〔いいえ〕
===============================
どうにか討伐することに成功した。
まあ、そもそも支援魔法を使っている時点で敗北自体はありえなかったのだが。
「時間が掛かるだけで、最終的に勝つのは俺なんだよな。数で押せるし、魔力も全然消費してなかったから」
なんてことを言いながら〔はい〕を押して迷宮を支配する。
これでまた一つ、運営から迷宮のプレゼントを受け取ることができた。
使う支援魔法にも制限を入れていたので、さして消耗していなかったのだ。
従魔を一度送還して、俺は支配した迷宮から去るのだった。
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