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偽善者と渡航イベント 三十月目
偽善者と渡航イベント前篇 その05
しおりを挟む迷宮『深緑の森林』
今回の縛りは従魔召喚……ではない。
カナを見て思いついたものではあるが、さすがにそのままでは味気ないだろう。
何より、従魔だけでは対処できない可能性があるので、もう少しだけ緩めにしてある。
「──契約した対象の召喚。これなら、少しは楽に戦える。まあ、神器と眷属の召喚もある意味契約だからできるんだけど、これは無しにしないとな」
取引や約定、主脈と呼ばれる方法でパスを繋げることができる。
それらを総称して『契約』であり、交わすことでパスを恒常化させるのだ。
黒の魔本[コンヴォシオン]を捲り、魔法陣から従魔を呼びだす。
そもそもこの魔本、従魔以外の契約を交わした奴らも登録してある。
「さて、まずは召喚だな──“多重召喚”」
現在、俺は迷宮に来ていた。
場所としては周囲を森に囲まれる中、一際大きい樹の洞の中からスタートしている。
この迷宮は程よく緑が生い茂り、森林伐採がされていない綺麗な森といった感じだ。
巨大な魔物は使えないし、環境に合わせた魔物を用意するべきだろう。
そんなわけで、あまり大きな従魔を使うようなことはしない。
俺が呼びだしたのは複数体の人形……ただし所々赤いし、勝手にケタケタ笑っている。
「殺れ──『殺戮人形』たち」
『!』
笑みを止めて一瞬、俺の方を見る。
だがすぐに再び笑い始めると、迷宮に潜む魔物たちを殺し始めた。
この迷宮『深緑の森林』は、名前から分かる通り主に木材を確保するための迷宮だ。
奥に行けば行くほど品質は高く、その方位で異なる木の品種や環境が用意されている。
なので祈念者たちは、立ちはだかる魔物を倒しながら安全を確保し、より奥深くで木々の伐採をしなければならない。
……まあ、品質に応じた制限が設けられていて、クランの規模などで一定本数までしか所持できないように設定されていたけど。
「それでも、俺は【強欲】であらゆる所持数制限とかを無視できるから、その気になれば関係なく集められるんだけどな。とりあえずは、一本ずつ集めて踏破しよう」
真円状のドーム型迷宮なので、迷宮核の守護者と戦うには仕掛けを解かねばならない。
それをクリアするための殺戮人形、要はアイツらが必要な仕掛けなのだ。
俺自身は何もしないで、一定時間ごとに魔本越しにバフを施すぐらい。
読書で時間を潰し、それぞれの方位に向かわせた人形たちが果てに着くのを待つ。
「よし、着いたみたいだな……それじゃあ、お前らやっちまえ」
この迷宮の八ヶ所に、通常よりも硬くて大きい木が配置されている。
その木々に傷を付けること、それがこの迷宮におけるボス戦への挑み方だ。
殺戮人形たちが指示通りに持っている武器で木々に傷を付けると、突如俺の居る中央の樹が激しく揺れ動きだす。
まあ、普通なら最奥のどこかに居るはずなので、それを目撃することは難しい。
しかし複数人で挑めば、結構簡単だ……根が地面から起き出て、ゆっくりと動き出す。
「ボスだから名前が分かるな……えっと、名称は『エルダートレント』か。うん、終焉の島の奴の通常個体だな」
激しく体を揺らすと、魔力を通して鋭利な刃と化した葉っぱを飛ばしてくる。
それらは地面に突き刺さっているうえ、半ば減り込んでいた。
貫通性能もある遠距離行動、それを耐久型の魔物が持っているという面倒臭さ。
根っこは近づく相手に自動反撃もしてくるので、なおのこと倒しづらい。
──まあ、普通ならな。
「最初から洞の内側で待機しているヤツがいるなら、簡単に倒せるんだよな。それじゃあ終わらせるとしよう──“召喚”」
戦闘が始まる前、つまり動き出す前に洞は塞がれて脱出不可能になる。
内部に居ても、迷宮の外へと繋がる道が消えるので逃げられない。
だが、内部に居ても死ぬわけではない……そして、そこで何かをするまでは気づかれないのだ。
「目覚めろ──『灼熱巨人』」
赤色の世界、異世界人の姉弟が築いた迷宮で運用されていた巨人型の魔物を召喚。
洞の内部で呼んだため、体はぎゅうぎゅうだが、強化魔法で支援して強行突破。
エルダートレントの体を突き破り、おまけに内部から焼き焦がしていく仕様。
ボスとしての生命力が、物凄い勢いで減っていく様子が見て取れる。
なお、俺もまた洞の中に居るので被害は甚大のように思えるが、そこは対策済み。
水精霊を呼びだし、体表に水を纏わせている……かなり魔力を使っているけどな。
だが、契約相手はだいぶ前に造った人造の最上位精霊なので格や性能は高い。
時間経過でだいぶ定着しているし、使い勝手が良くなっているんだよな。
===============================
≪迷宮守護者『エルダートレント』が討伐されました≫
《達成者には初回討伐報酬として『最高品質木材の詰め合わせ』が贈られます》
《攻略後特典として、各ポータルの使用が可能となります》
《ポータルの使用は討伐者のみに適応されますので、ご注意ください》
《討伐者が迷宮権限を保有していることを確認、踏破済みの迷宮を支配することが可能となりました》
《条件適合により、『深緑の森林』を支配可能です──実行しますか?》
〔はい〕 〔いいえ〕
===============================
俺や眷属が迷宮を踏破すると、このような文面が表示される。
条件は迷宮核に触れる、もしくは核の無い迷宮なら迷宮守護者を倒した場合だ。
すでに【迷宮主】ではないが、迷宮権限は後付けすることができる。
レンにそれを付与してもらったので、俺単独で踏破してもこれが表示されるのだ。
「とりあえず〔はい〕を選択っと……さて、次の迷宮に行こうか」
支配した迷宮に関しては、レンがどうにかしてくれるだろう。
俺はどんどん迷宮を踏破して、祈念者が間接的干渉ができないようにしていくだけだ。
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