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偽善者と渡航イベント 三十月目
偽善者と渡航イベント前篇 その03
しおりを挟むイアは一度海湾都市に向かい、他のクランメンバーと合流するらしい。
なので俺は一度別れると告げ、再びスタート地点の浜辺を目指す。
「どうしてよ?」
「あんまりイベントには関わらない方がいいと思ってな。少なくとも造船に関して、祈念者で俺に勝てる奴はいない」
「……たしかに、勝てそうにないわ」
「【生産神】に就いていたし、今も生産神の加護持ちな俺だからな。【傲慢】でもなんでもなく、純粋に優れているんだよ」
そのことに関しては、俺が供給するアイテムの恩恵にあやかっている彼女たちがよく分かっているだろう。
まあ、俺が船を造ることは無いというのも行かない理由だが。
何より……行ったら偽善をして、誰かのイベントが無くなってしまうからな。
「そうだ、ついでだし伝言を頼めるか? 合流するんだから」
「……まあいいけど。それで、いったい何を伝えてほしいの?」
「それはだな──」
内容を伝えて、俺とイアは解散する。
それからしばらく、浜辺にやってきた俺は知人を見つけて挨拶をしていた。
「よう、久しぶり」
「……うわぁ」
「おいおい、その態度は無いだろう? それよりほら、変装した方がいいだろう?」
『──それで、いったい何の用だい?』
目だけを覆うタイプの仮面を着け、瞬時に服装などを変える少女。
傍から見たら彼女は成人男性で、誰もその正体を見抜くことはできないだろう。
「知り合いを見つけたから挨拶しただけ……なんて言っても納得はされないか。まあ、弟子になったヤツの近況が聞きたくてな。お前は俺の眷属じゃないから、今回も誘わなかったから気になってたんだ」
『おや、私は仲間外れかい?』
「普通に眷属になるならすぐやるのに、わざわざ【強欲】付きが欲しいって強請っているのはお前だろ。わざわざ解除するのも面倒だし、しばらくはそのままだぞルサード」
現在、祈念者でもっとも成功率の高い窃盗犯である怪盗『ハンドレッド』。
その正体であり、極級職と固有スキルの双方を発現させている強者『ルサード』。
彼女は俺の持つ【強欲】の眷属結晶を狙っていて、それを奪うまで弟子であると誓いを立てている。
まあ、彼女自身の適性は極めて低く、後天的な成長もあまり見込めない。
そのためいつになるのやら、と思うが面白そうなのでそのままにしていた。
『師よ、一度試させてもらえないかな?』
「まあいいけど──ほれ」
取りだしたのは金色の結晶。
内側で眷属の証であるエニアグラムが浮かび上がるそれに、彼女は手を伸ばす。
しかし、結晶は反応しない。
適性がある者が近くに居ると、その適性度に応じた輝きを放つんだけどな。
「はい、残念。またしばらくは、【強欲】獲得のために頑張ってくれよ、お弟子さん」
『くっ、だがいずれ……!』
「本気で悔しがるのは良いが、抑揚が出ているから冷静になれ」
『なんのことかさっぱりだよ』
彼女の怪盗としての立ち振る舞いは、精神状態が不安定になると地が出てしまう。
なので抑揚などが読み取れるときは、彼女なりに感情が揺らいでいる時だ。
おそらく彼女なりに頑張って、多少は反応があるかもと思っていたのだろう。
その結果が絶無、皆無でもなくいっさい変化が無かったことがショックだったんだな。
「さて、弟子よ。せっかくだからそんなお前に一つ、命令をしよう」
『悪いがお断──』
「そうか……もしかしたら【強欲】の適性が上げられるかもしれない、そういうことを頼もうとしていたんだがな。まあ、それなら別のヤツに頼むとしよう」
『ま、待て!』
おや~? といかにもな笑みを浮かべて彼女の方を向く。
俺がどういう気持ちなのか察したらしく、とても苦し気に唸りだす。
『うぐぐ……命令に、従、います』
「う~ん? よく聞こえなかったな……外から音は遮断してやるから、もっと大きな声で言ってもらいたいな~。あと、仮面も外してほしいかな~」
《──“遮音結界”》
「くっ……外道が」
なんで仮面を外させるだけで、そんな女騎士と相対したオークの所業みたいに言われなければならないのか。
音漏れ防止だって、彼女に配慮して用意してやったのに……解除してもいいのかな?
「……………………さい」
「うん?」
「命令に従いますから、私に【強欲】を手に入れる力を貸してください!」
「はい、よくできました。それじゃあ、アイツと合流したら、命令を実行してもらおう」
そもそも俺がここに来たのは、彼女ではなく予め時間指定をしていたメンバーと合流するためだ。
なのですぐにここから移動はせずに、彼女ともう一人連れていくことに。
「まあ、紹介はしよう。こちらは某有名な怪盗のルサード」
『やあ、どうも』
「そしてこっちは、殺しに殺しまくって超級職の【暗殺王】に就いた人だ。いちおう雇用になっているから、弟子よりは立場は上だと思うぞ」
《よろしくおねがいします》
急に念話が届いたせいでピクッとしたが、祈念者は[ウィスパー]で感覚そのものはすでに掴んでいる。
それから二人でしばらく話すと、いつの間にやら仲良くなっていた。
……怪盗と暗殺者、よく分からない間柄でも仲良くなれるんだな。
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