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偽善者と渡航イベント 三十月目

偽善者と渡航イベント前篇 その02

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 海湾都市


 港町は都市級だった。
 まあ、今回のイベントで祈念者たち全員が拠点にする場所なので、それぐらい大きくなければいけないということなのだろう。

 街の至る所で造船が行われれ、賑わいもそれなりにある。
 祈念者たちは活動を始め、なんとか船を製作してもらおうと尽力していた。


「さて、ある程度クランメンバーも集まったことだし、これから拠点を確保しよう。何かいい意見のある奴は居るか?」

「ハッ! では、俺がご主人様にこの街一番の家を確保してきます!」

「で、具体的にその方法は?」

「もちろん、殺してでも奪い取る……うひゃあ!」


 ダメなヤツには躾がいるだろうということで、重力魔法で土下座をさせた。
 関節部分に横方向の重力を掛けると、より上手く膝カックンみたいにできるぞ。

 本人はご満悦、何やらありがとうございますとか言っている。
 純粋なオブリを除き、この場の誰もがドン引きといった空気を醸し出していた。


「可能な一番はもう大手のクランが取っている。やっぱり早め早めにイベントへ参加したメンバーが居て、交渉もして確保できるだけ部屋を確保してある。もちろん、殺して奪おうとしたら普通に犯罪者だろ」

「僕もそれには賛同できないかな? ほら、いちおうPKKな断罪者って扱いだし」

「……そこまで知っていて、アンタはいったい何をしていたのよ」

「何も? ほら、俺がやるなら何でもできるからな。洗脳でも、買収でも、それこそ海上ホテルを作ることだってできる。でも、アルカはそれじゃ満足しないだろ?」


 憎たらしい、と顔が物語るアルカなので、俺の予想は間違いない。
 ユウはそんな俺たちをニマニマと笑い、他の者もいつものことかという表情だ。

 土下座をしている奴はキレそうだが、そこはさらに重圧を掛ければ無言になった。
 むしろ、恍惚としているコイツを後でなんとかしないといけない。


「祈念者が取れる拠点確保の方法は三つ。一つ、この街で何らかの方法で確保する。大手クランは金、他の奴らは今依頼を受けて貢献度を上げて何とかしようとしている」

「私たちもそれをすればいいの?」

「二番煎じだからな。それに、良い施設の方が自然回復量とかは増えるだろうが、最低限拠点として機能するだけなら、どこでもいいだろう? 実際、その方法を取る奴らは場所さえ借りられればいいって考えだし」

「じゃあどうするのよ」


 ティンスの質問はごもっとも。
 だがまだ一つ目しか言っていないので、その後も聞いてもらいたい。


「二つ目は野宿、というか外のフィールドで最低限必要なことを済ませる。簡易拠点ぐらい、大半の祈念者は持っているからな。都市で受け入れられない数が居ても、問題ないって判断なんだろうな」

《野宿、ですか……できないわけではありませんが、あまり好き好んでやりたいとも思えませんね》

「だからこその三つ目だ。まあ、これは絶対に選ばないと思うけどな。だからこの中で、好きな物を選べってことになるな。それじゃあ、多数決を取ることにして……三つ目を説明しよう」


 わざわざここまで引き延ばしたうえで告げた三つ目の方法、物凄く嫌そうな顔をする奴ばかりだったとだけ言っておこう。

 それから多数決を取り、彼女たちはそれぞれの方法で拠点を確保することに。
 シャインは三番を選んだが、俺がそれをダメだと言って他に行かせた。


「まあ、三つ目はエクストラモードだから。シャイン以外、どうせ誰もやらないとは思っていたさ」


 だがお陰で、彼女たちはなんとしても拠点の確保をせねばと頑張っているはずだ。
 ……さて、俺はそろそろまだ来ていない眷属のお迎えでもするか。


  ◆   □   ◆   □   ◆


「──三つ目は俺が魔法でなんとかする。具体的には不眠不休で活動できるようにして、そもそも寝なくてもいいようにするわけだ。食事はまあ自分で確保してもらうが、拠点の確保よりは楽だろう?」

「……よくもまあ、そんな鬼畜外道でブラックな方法を思いつくわね。誰も頷かなかったでしょう? そんな方法……アレを除いて」

「そうだな、アイツだけは普通にそれでいいとか言ってたな。むしろ、ずっといっしょに居られるとか言ってたぞ……本当、どうしてああなったんだか」

「どうしても何も、どう考えたって100%あんたのせいじゃない」


 外套を被り、周囲からその相貌を見られないようにしている少女。
 皮膚の所々に蒼玉色サファイアの鱗が生えた彼女──イアは、俺にジト目を向ける。


「まあ、それに関してはワタシもごめんよ。たぶん、最後には二つ目を選ぶでしょうね」

「なんだ、野宿でいいのか?」

「ワタシには従魔がいるから、そこまで警戒はしなくてもいいのよ。あんたが作った魔道具もあるし、むしろ襲ってくる方が不憫よ」

「……まあ、あの竜ルビーもいるからな。そりゃあ勝てんわな」


 ずいぶんと成長して、今では立派に……図体だけは大きくなっている。
 まあ、竜の進化は尋常ではなく時間が掛かるので、まだ幼体と成体の間ぐらいだがな。

 図体が大きくなったことで、能力値もそれなりにある。
 そこにイアの竜人&召喚士としての補正が入るので、並大抵の相手は一捻りなのだ。

 そんな竜に加えて、他にも頼もしい従魔が彼女に寄り添っている。
 大人数でPKが攻めても、さして問題にはならないだろうよ。


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