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偽善者と渡航イベント 三十月目
偽善者と渡航イベント前篇 その01
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「青い空、白い雲、そして遠くに見える港。俺たちが転送されたのは、何もない砂浜」
おそらくここがスタート地点なのだろう。
周囲をキョロキョロしてみたら、真後ろに大きく『スタート』と書かれたゲートを見つけることができた。
「港町で船を手に入れて、そしたらここに一度戻ってくる必要があるわけだ。うん、みんな物凄い勢いで急いでいるな」
俺と同じような判断に至った祈念者たちがいっせいに、港町へ急行している。
なんだか、初ログイン時のことを思い出す懐かしい光景だ。
「──さて、『エニアグラム』に所属する者たち。全員揃っているか? ……って言っても、誰も居ない虚しい現状だな」
このイベント、現実だと平日のお昼からスタートしている。
休みを自己責任で取りやすい社会人や大学生ならともかく、高校生以下の学生はな。
うちのクランはそんな学生ばかりで構成されているので、スタートと同時に参加できたのは俺だけだった。
……現実での俺の扱いをふと思ってしまうが、まあその辺りはGM姉妹たちに太鼓判を押されているので気にしないでおこう。
「えーっと、まだイベントに行かない奴らは海のチェックかな? なんか、弾かれているみたいだが……なるほど、強行突破はできないようにしてあるのか」
俺も視界内転移で奥に行こうとしてみたのだが、パチンと拒絶されてしまった。
感覚的には、そこに至るまでの線を引こうとしても、途中で掻き消される感じだな。
なので最悪、本気で強行突破をすれば行けないわけではないだろう。
だが、それをすれば目立つし、ペナルティが課せられるはずだからな。
「まだ運営神と戦う気は無いし、大人しく素材集めでもしに行きますか」
大きく分け、祈念者の取った行動は三つ。
大半の祈念者が港町へ向かい、ごく少数の祈念者が海を調べ始め、残った祈念者たちはフィールドで素材集めを始めている。
当然だ、情報と素材の入手難易度は後者の方が高くなる可能性があるからだ。
参加者が多ければ多いほど、素材集めで苦しむなんてこともあるからな。
「まあ、今回は大丈夫だろう。所々に迷宮の反応もあるし、運営謹製の無限リポップで素材回収ができるようにしてあるだろうから」
迷宮を見つけるスキル、そしてそれを補正する称号もあるのですぐに発見できた。
その反応は、各素材が集まっている場所ごとに確認できる。
それはそれで、迷宮を求めて諍いがあるかもしれないが……そこは運営がどういう風に設定しているのか、お手並み拝見だろう。
◆ □ ◆ □ ◆
「よし、この辺でいいか」
あれから俺は場所を移動した。
祈念者がすぐには向かえない場所へ俺もまた急ぎ、あることをするために準備を行っている。
「運営デザインのユニーク種も観測したし、少しぐらい混ざっていても誰も文句は言わないだろう──“解放”」
さて、ここで突然豆知識。
召喚士系の従魔師は従魔を魔力に還元して保存できるが、調教師系統の従魔師はそれをすることができない。
例外は【友愛調教姫】であるカナみたく、従魔を保管できる空間を持っている者のみ。
ならば普通の従魔師はどうするのか……アイテムを使って保存しているのだ。
アイテム名は『封石』。
魔力の宿った鉱石を加工することで生成できるアイテムなのだが、この場合は空間系の鉱石が必要となる……だいぶお高めだぞ。
「今回も人造で悪いが、特典が手に入るだけマシだと思ってほしいな」
本題に入ろう。
俺はそんな鉱石を、神鉄鉱と合成して一つの封石を創り上げた。
ちょうど夢現祭りで出した小さな球体だ。
最上級の素材を使い、生産神の加護持ちという最上位の職人が加工した封石。
中に保存できる魔物の強さも、尋常ではないレベルまで可能となっていた。
「目覚めろ──[アズルジャア]」
キョキョキョキョキョ! と鳴き声を上げる鳥が宙を舞う。
封石から解き放たれ、自由となったのは俺が生みだした人造のユニーク種。
やはり、俺は偽善者なので頑張った人にご褒美ぐらいは用意したかったのだ。
なのでそもそも頑張る必要性として、このユニーク種を用意することにした。
本来、ユニーク種は封石に入れられないのだが……そこはまあ、生産神の加護持ちにはその制限を無視した技術を知る術もあるということで。
「創造者として命じよう、敵対する者は殺していい。だがそうでない者はアイテム……特に素材を重点的に破壊しろ。あとは望むままに暴れ続けろ」
再びキョキョキョ! と叫び、どこかへと飛び去っていく[アズルジャア]。
すでに採取は始まっているのだ、どこかで狩りを始めたのだろう。
祈念者たちは素材を集め、船を造るべき尽力していく。
それを阻むようにして、立ちはだかる複数のユニーク種。
そこに俺の[アズルジャア]も加わり、これから祈念者たちがどのような行いを始めるのか……そこに偽善が関われるかも含めて、楽しみにさせてもらおうじゃないか。
「──まっ、それとこれとは別で俺もイベントを少しは楽しまないとな」
いろいろと仕込んでいる内に、もう学生たちもログインできる時間になっている。
俺は港町に向けて移動を始め、他のクランメンバーたちと合流するのだった。
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