上 下
1,870 / 2,518
偽善者と渡航イベント 三十月目

偽善者と渡航イベント前篇 その01

しおりを挟む

 イベントエリア


「青い空、白い雲、そして遠くに見える港。俺たちが転送されたのは、何もない砂浜」


 おそらくここがスタート地点なのだろう。
 周囲をキョロキョロしてみたら、真後ろに大きく『スタート』と書かれたゲートを見つけることができた。


「港町で船を手に入れて、そしたらここに一度戻ってくる必要があるわけだ。うん、みんな物凄い勢いで急いでいるな」


 俺と同じような判断に至った祈念者たちがいっせいに、港町へ急行している。
 なんだか、初ログイン時のことを思い出す懐かしい光景だ。


「──さて、『エニアグラム』に所属する者たち。全員揃っているか? ……って言っても、誰も居ない虚しい現状だな」


 このイベント、現実だと平日のお昼からスタートしている。
 休みを自己責任で取りやすい社会人や大学生ならともかく、高校生以下の学生はな。

 うちのクランはそんな学生ばかりで構成されているので、スタートと同時に参加できたのは俺だけだった。

 ……現実での俺の扱いをふと思ってしまうが、まあその辺りはGM姉妹たちに太鼓判を押されているので気にしないでおこう。


「えーっと、まだイベントに行かない奴らは海のチェックかな? なんか、弾かれているみたいだが……なるほど、強行突破はできないようにしてあるのか」


 俺も視界内転移で奥に行こうとしてみたのだが、パチンと拒絶されてしまった。
 感覚的には、そこに至るまでの線を引こうとしても、途中で掻き消される感じだな。

 なので最悪、本気で強行突破をすれば行けないわけではないだろう。
 だが、それをすれば目立つし、ペナルティが課せられるはずだからな。


「まだ運営神と戦う気は無いし、大人しく素材集めでもしに行きますか」


 大きく分け、祈念者の取った行動は三つ。
 大半の祈念者が港町へ向かい、ごく少数の祈念者が海を調べ始め、残った祈念者たちはフィールドで素材集めを始めている。

 当然だ、情報と素材の入手難易度は後者の方が高くなる可能性があるからだ。
 参加者が多ければ多いほど、素材集めで苦しむなんてこともあるからな。


「まあ、今回は大丈夫だろう。所々に迷宮の反応もあるし、運営謹製の無限リポップで素材回収ができるようにしてあるだろうから」


 迷宮を見つけるスキル、そしてそれを補正する称号もあるのですぐに発見できた。
 その反応は、各素材が集まっている場所ごとに確認できる。

 それはそれで、迷宮を求めて諍いがあるかもしれないが……そこは運営がどういう風に設定しているのか、お手並み拝見だろう。


  ◆   □   ◆   □   ◆


「よし、この辺でいいか」


 あれから俺は場所を移動した。
 祈念者がすぐには向かえない場所へ俺もまた急ぎ、あることをするために準備を行っている。


「運営デザインのユニーク種も観測したし、少しぐらい混ざっていても誰も文句は言わないだろう──“解放リリース”」


 さて、ここで突然豆知識。
 召喚士系の従魔師は従魔を魔力に還元して保存できるが、調教師系統の従魔師はそれをすることができない。

 例外は【友愛調教姫】であるカナみたく、従魔を保管できる空間を持っている者のみ。
 ならば普通の従魔師はどうするのか……アイテムを使って保存しているのだ。

 アイテム名は『封石ジェム』。
 魔力の宿った鉱石を加工することで生成できるアイテムなのだが、この場合は空間系の鉱石が必要となる……だいぶお高めだぞ。


「今回も人造で悪いが、特典が手に入るだけマシだと思ってほしいな」


 本題に入ろう。
 俺はそんな鉱石を、神鉄鉱と合成して一つの封石を創り上げた。
 ちょうど夢現祭りで出した小さな球体だ。

 最上級の素材を使い、生産神の加護持ちという最上位の職人が加工した封石。
 中に保存できる魔物の強さも、尋常ではないレベルまで可能となっていた。


「目覚めろ──[アズルジャア]」


 キョキョキョキョキョ! と鳴き声を上げる鳥が宙を舞う。
 封石から解き放たれ、自由となったのは俺が生みだした人造のユニーク種。

 やはり、俺は偽善者なので頑張った人にご褒美ぐらいは用意したかったのだ。
 なのでそもそも頑張る必要性として、このユニーク種を用意することにした。

 本来、ユニーク種は封石に入れられないのだが……そこはまあ、生産神の加護持ちにはその制限を無視した技術を知る術もあるということで。


「創造者として命じよう、敵対する者は殺していい。だがそうでない者はアイテム……特に素材を重点的に破壊しろ。あとは望むままに暴れ続けろ」


 再びキョキョキョ! と叫び、どこかへと飛び去っていく[アズルジャア]。
 すでに採取は始まっているのだ、どこかで狩りを始めたのだろう。

 祈念者たちは素材を集め、船を造るべき尽力していく。
 それを阻むようにして、立ちはだかる複数のユニーク種。

 そこに俺の[アズルジャア]も加わり、これから祈念者たちがどのような行いを始めるのか……そこに偽善が関われるかも含めて、楽しみにさせてもらおうじゃないか。


「──まっ、それとこれとは別で俺もイベントを少しは楽しまないとな」


 いろいろと仕込んでいる内に、もう学生たちもログインできる時間になっている。
 俺は港町に向けて移動を始め、他のクランメンバーたちと合流するのだった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?

破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。 そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。 無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた… 表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと イラストのurlになります 作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)

虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

処理中です...