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偽善者と渡航イベント 三十月目
偽善者と船員集め その10
しおりを挟むこっそりと呼んでいた、『エニアグラム』の裏メンバーたちが居る場所へ向かう。
構成するメンバーは三人、彼らはそれぞれ異なる暗さをした黒い装束を身に纏う。
「さて、と。全員集まってくれたようで何よりだよ。分かっていると思うが、発表された公式イベントにクランとして参加してもらいたくこの場に呼んだ」
黒い二刀流の剣士リヴェル、合法PKを可能とする【暗殺王】のチズ、そして俺もまだ名前を知らない陽炎の暗殺者。
彼らは眷属というわけではないが、さまざまな形で利害が一致している協力者。
眷属では実行することのできないようなことを、彼らにはよくやってもらっている。
「で、今回は何をすんだよ……こいつらは全然話さねぇし、俺が代表して聞くぞ?」
「他の妨害、そしてこっちを妨害してくる奴らの始末だな。イベント中ずっとやってほしいわけじゃないから、暇な時だけ警戒してくれればいい。その気になれば、俺はどんなことでも一人でできるからな」
「……要らねぇじゃねぇか」
「けどまあ、俺はそこまでやらない。可能な限り、祈念者同士の揉め事は自分たちでやるのが一番だと思うからな。それに、出番がある方がいいだろう?」
祈念者にもログインする時間というものがあるので、おそらく襲撃が可能だとしても何らかの制限か防衛策の用意が可能だろう。
それでも可能でさえあれば、何かしらのトラブルを被る可能性がある。
俺はそのすべてに対応し、彼女たちが楽しめる状況を用意したい。
仮に彼女たちが防衛もするなら、彼らには別の場所で働いてもらうとして……まあ、決して他者の介入によって、楽しむことができないというのは許しがたいのだ。
「さて、今回の報酬だが……まあ、正直いつもアイテムばっかりってのもな。もちろん、お前たちがそれ目的なのは分かっているが、他にもやってみようという試みだ」
「具体的に言えよ」
「──力で捻じ伏せる。俺に勝ったら望むモノをくれてやる。だから負けたら、イベント報酬以外はタダ働き……なんてどうだ?」
この場合における何でも、とは本当にありとあらゆるすべてを許容する。
彼らはそれを知っているし、その前提条件の過酷さも分かっていた。
「……本気か?」
「そうだなぁ、俺は縛りプレイで挑む。知っての通り、俺が本気を出せば嫌味でもなんでもなく無敵だ。だから──俺は魔法をいっさい使わない、なんてどうだ?」
武器を使うか魔法を使うか、それともその両方を選ぶか。
自由なこの世界ではありとあらゆる選択肢が取れるが、究極的に言えば三つしかない。
俺はその選択肢を自ら二つ除外し、彼らに有利な状況を作った。
もちろん、それでも俺には勝つことができるという自負があるのだが。
「勝利条件は俺の胴体に一撃を入れること。ただし掠らせるとかそういうレベルじゃなくて、一般人だったら致命傷なレベルを……これでいいんじゃないか?」
「まあ、失うものは何も無いしな……そっちの二人はどうだ?」
【……ご命令とあらば……】
《そうですね、よろしければぜひ》
「ってわけだ。うちの雇用主の胸、一度ばかり借りさせてもらうぜ」
俺はこれ以上何も語らず、ただ武器を用意して構える。
相手は二刀流の剣士と暗殺者、ということで短剣を二本にしておいた。
リヴェルは背負っていた剣を二本抜き、暗殺者たちもそれぞれ黒塗りの短剣を握る。
互いに準備ができたと判断したとき──俺たちは勢いよくぶつかり合う。
◆ □ ◆ □ ◆
結論から言えば、俺は勝利した。
残念ながら圧勝では無いものの、体に致命傷と呼べるような攻撃はいっさい受けることなく戦闘を終える。
「お疲れ様。俺の勝ちだから、今回はタダ働きしてもらうぞ」
「……お前、マジで何なんだよ。このチームならもしかして、とか思ったんだぞ?」
「連携はともかく、影から狙ったり死角に潜まれるのは想定済みだしな。加えていえば、お前らが使っているアイテムの大半は俺の既知にある物だ。やることもなんとなく分かるし、応用もすぐに理解できる」
リヴェルたちは頑張ったが、今回の縛りは割と緩かったからな。
思考系スキルで既知の情報を基に行動を予測し、対処していくだけで良かった。
特典アイテムは所有していなかったので、それも俺を楽にしている。
……PKしても奪えないから、直接挑みに行かないと得られないんだよな。
「全身を特典で包んで、極級職と固有スキルでごり押しすればあるいは……ぐらいだと思うぞ、俺のレベルは。理論上できるにはできるが、可能な限り不可能に近いんだよ」
「自分で言うか、それ?」
「言わないと、誰も彼もが化け物としか言わないからな。だからこそ縛りプレイで、本当の自分は凡人だって認識しないといけない」
力を付けるための縛りプレイだが、それと同じくらい本来の自分を認識するためのものでもある……{感情}を得なかった俺は、間違いなく何かしらの不自由があるはずだし。
そんなこんなで、俺は彼らを無償で働かせることに成功した。
……まあ結局、何かしらの形で報いる気ではいるけどな。
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