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偽善者と渡航イベント 三十月目

偽善者と船員集め その07

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 なんだか、二人ずつ呼ぶことが決まりみたいになりつつある交渉。
 ユウが連絡を入れて数分、これまた二人組がやってくる。


「ご主人様、ただいま来ました!」
「……まあ、呼ばれたから来たけど。話って何なのよ?」

「シャイン、とりあえずソファに座れ。イアも、話も座ったらするから」


 黒い鎧を纏うシャインと、体の所々に蒼玉サファイアの鱗が生えたイア。
 彼女たち(?)をまずは席に着かせ、改めて説明を行った。


「──イベントねぇ。まあ別に、参加すること自体は構わないわよ。ただ、あんたといっしょにっていうのは……」

「おい、ご主人様のご意向に逆らうのか?」

「黙りなさい、変態。ワタシはその、ご主人様とやらと話しているの。あんたがそこにとやかく言うのは、それこそご意向に逆らうってことじゃないの?」

「くっ……!」


 いやいや、論破されないでくれよ。
 イアが俺を拒否しようとするのは、なんとなく分かっていた。

 アルカ同様、俺への反発心が強いからだ。
 出会った頃の第一印象から、彼女にはだいぶ嫌われていた気がするからな……まあ、それをどうにかするのが交渉である。


「イア、どうしたら参加してくれるんだ?」

「そうねぇ……今は特に条件を課さないわ。だから、そのうちワタシの願い事を叶えてもらえるかしら?」

「内容によるんだがな……たとえばあるアルカみたいに、死ねとかいうのはなぁ」

「それも魅力的な提案だけど、それはアルカに譲ってあるからまた別の時に。もっと他に頼みたいことができたら、その時に言うわ」


 命の危機に関わらないのであれば、別に構わないというのが本音だ。
 しかし、一人の願い事を叶えるとなら、他の者にも同様のことをしないといけない。


「その願いの規模が分からないから、簡単にYESとは言えないな。だからそうだな、俺からも一つ提案をしてもいいか?」

「提案?」

「単純に、貢献度だな。イベントがどういう感じでランキングとかをするか知らないが、眷属に頼んで何らかの形で判定をしてもらってみる。その順位が高い順に、規模のデカい願い事ができるって感じだ」

「……悪くないわね。最悪、些細な願いが浮かんでもそれを叶えてもらえるみたいだし」


 周りを見てみるが、そこまで否定的な表情は見えない。
 何やら企んでいる奴も混ざっているが……そこはまあ、そのうち対策を考えよう。


「じゃあ、参加ってことでいいか?」

「いいわよ……って、ユウはどうしたの? 急に残念そうな顔をして」

「最初は師匠がみんなを口説いていたんだけど、全然それが聞けなくなっちゃって」

「……どういう思考なのか分からないけど、少なくともワタシはごめんよ。それに、そういうのって、人に見られながら聞かされるものでもないじゃない」


 少し外套に付いたフードを深く被り直し、そんなことを言うイア。
 周囲はなぜかニマニマ……理由はさっぱりだが、女性同士分かることがあるのかもな。


「シャイン、分かるか?」

「さぁ、何のことでしょうか?」

「だよな……あっ、そうだ。お前は参加するのか?」

「無論! ご主人様のご命令とあらば、どのようなことでも致す所存です!」


 シャインがそういうことは、予め分かっていたことなので、再度確認する。
 こいつはMでTSな変態だが、それでも複数人の女性を要するクランの長だからな。


「あの子たちはどうするんだ? こういうクラン単位で参加するイベントなら、やっぱりいっしょに参加したいんじゃないか?」

「ご安心を。そう言われると思い、このような物を持っていけと」

「魔道具? ああ、メッセージ系のヤツか」


 記述した内容を投影し、手紙のように使うことができるアイテム。
 内容を消せば再度書けるバージョンは、貴族とかが重用しているとかしてないとか。

 お高いモノだと、特定の魔力波長じゃないと開示できないが……今回の物はお安め、一回切りの平民仕様だ。


「えっと、何々……『こちらのことはお気になさらず。私たちは、シャインさんとの共同作業を見せていただければ充分です』っと。いろいろと濁しているけど、まあ向こうが問題ないって言うならそれでいいか」


 悪意ではないが、言葉の裏々に何らかの企みを感じる文面だった。
 彼女たちはシャインの変化を受け止めた連中だし……たぶん、そういうことかな?

 まあそれも、ゲームだからという認識が強いからだろう。
 仮初の出会いだからこそ、受け止められるわけで……現実だったら殺されてたな。


「実際の所、お前はどう考えているんだ? 本心を語れ」

「……好かれて、悪い気はしません。俺のダメなところを見て、それでもいっしょに冒険してくれていますから」

「まあ、クランの在り方なんて場所それぞれだしな。ここがバラバラなのと同じように、そこが拠り所な奴らもいるか。もし協働できるなら、そのときは少し手伝うとしよう」

「はっ、ありがとうございます!」


 出会った当初は生意気なガキという印象しか持てなかったが、ずいぶんと変わったモノだよな……この変化は俺だけじゃない、彼女たちの影響でもあるのだろう。

 そんな風に上手く纏めたかったが、結構無理があるよな。
 俺とシャインで手伝いに行った暁には……間違いなく、ネタにされるに違いない。


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