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偽善者と渡航イベント 三十月目
偽善者と船員集め その06
しおりを挟むオブリ、そしてティンスとの交渉は終えたという扱いになった。
……ティンスが後回しになったので、またいずれ話し合いはすることになるんだが。
ともあれ、俺とアルカ……そしてユウの手錠を外すためにも、眷属との交渉をしなければならない。
「それで次に呼ばれたのが、私たちというわけですか」
「お久しぶりです、メルスさん」
「おう、久しぶり。眷属になった順番的にはだいぶ後だが、出会った順で言えば前の方だからな。少し前倒しで呼ばせてもらった」
白衣や薬品の香りなど、科学者然とした格好になってきているノロジー。
こう、立ち振る舞いから聖性を醸し出している聖女のセイラ。
眷属としての経験は浅いものの、彼女たちもまた『ユニーク』から眷属になった強者の面々だ。
「それでまあ、先にユウに連絡してもらったとは思うが……」
「なぜ二つあるのかは分かりませんが、その手錠を見れば分かります。大方、ユウがメルスさんをからかったのですね」
「そういうことだ。それでまあ、俺は全祈念者の眷属と話すことを強いられている。内容はイベントへの参加、ただしこっちのクランメンバーとしてのだな」
「事情は理解しました。では、その手錠を外すためにも、お話をしましょう」
いろいろと、当たり障りのないことを二人と話していく。
ノロジーなら科学の話だし、セイラであれば信仰の話など。
何でもいちおうはできるからこそ、多種多様なことをやっている俺。
そのため深い話はできずとも、浅い話であればいくつかレパートリーがある。
「魔法と科学の融合ですが、ある程度形にはできています。ただ、現状では私の知覚範囲内に限定されていまして、それを他者が実行することが難しい状態です」
「解体スキルと同じ仕組みかもな。一定の距離で、スキルがあるからこそ魔物は自動処理されないで残る。科学現象も、ノロジーのスキルがあるから、擬似的に再現できている」
「仮説としては挙げられています。ただ、その根拠が強くなくてですね……」
「他にスキルの所有者が居ないから、調べられなかったわけか。共有だと、それが誰のモノなのかって疑問になるし……習得している人数は?」
ノロジーの固有スキルである化学……改め科学魔法は、物理現象を引き起こす。
シンプルではあるが、このファンタジー溢れる世界でも可能というのが脅威なのだ。
竜など、巨体でも空を飛ぶ種族は魔力で理屈を押し通してそれを可能にしている。
だが彼女のスキルで作用を及ぼしたとき、竜は最悪、いきなり墜落するのだ。
まあ、ソウを見たら分かると思うが、魔力への抵抗力が高いので、あんまり通じないんだけど……しっかりと条件を満たせば、できないわけでもないんだよな。
「で、神様の話だが、具体的にどういう神を崇めるとかはあるのか? 前にも忠告はしたけど、運営神は例外を除いて止めた方がいいと思うぞ」
「それは元より。私が祈りを捧げるのは、善性そのもの。この世界の形ある神ではなく、心に宿る人それぞれの神なのです」
「……まあ、俺もそこにとやかく言うつもりはないさ。ただ、神様にとって信仰は糧だ。特定の神に祈らず、振りまくようなやり方だと必ず目を付けられる。知っている神様を紹介するから、庇ってもらうといい」
「メルスさんの御心遣いに感謝を」
生命体からの信仰は糧となって、神気を生成する量に比例する。
だからこそ邪神だって、魔物でも何でも使い信仰させて神気を得ようと企む。
まあ、もっとも効率よく神気を稼ぐだけの信仰を得たいのであれば、やはり人族から祈れるのが一番なんだが……現在はその多くを運営神が牛耳っているからな。
「──さて、そろそろいいか。イベントでの協力、してくれるか?」
「……ごめんなさい。やっぱり『ユニーク』の方を支える必要がありますので」
「同じく。あちらには、救いの手を差し伸べる方が多くいますので」
「そっか。まあ、今回切りってわけでもないからな。今度、また別のイベントがあったらいっしょに参加してほしい」
「はい、もちろん」
「そのときは、ぜひ」
もともと所属しているクランがあるのだ、そちらに協力してもなんらおかしくない。
むしろ、思いっきりこちらで力を振るう方がおかしいのだ。
視線を左右に向けると、片方は俺が何を考えているのか分かったのか目を逸らす。
ただ、もう一方は自覚がないのか、ただこちらをジッと見ていた。
「口説き、失敗したわね。もっと情熱的にやれば、案外落とせるかもよ」
「情熱的って……アルカ、お前そういうのが好みなのか?」
「ば、バカ言ってんじゃないわよ! ただ、な……なんとなくよ!」
「あー、うん。参考にはさせてもらうよ」
ニマニマしているユウはアルカが軽く叩いていたので、俺からは何もしない。
代わりに考える……情熱的って、具体的に何をすればいいのか。
「考えても分からないな……ユウ、また次の眷属を呼んでくれるか?」
「はーい。師匠、僕も情熱的な方がいいと思うからね」
「そう言われてもな。何を言われても、俺はありのままを伝えることしかできないぞ」
「……うん、それが一番効くと思うよ」
何のことだかさっぱりだが、ありのままでいいようだ。
そのことを心に留め、次の眷属が来るのを待った。
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