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偽善者と渡航イベント 三十月目
偽善者と船員集め その05
しおりを挟む「あっ、お兄ちゃんにユウお姉ちゃんとアルカお姉ちゃん!」
「……えっと、どういう状況なのかしら?」
「まあ、いろいろとあってな。ささっ、ともあれ座ってくれよ」
現れた少女たち、ティンスとオブリを歓迎して席に座らせる。
ティンスの方は、手錠で繋がっている俺たちに気づいたようだが……説明しないとな。
「ユウがやらかして、俺は祈念者の眷属全員と話をしないとこれが取れない。そのためにも、俺と少し会話をしてくれ」
「そういうこと。まあ、誰でもないメルスからの頼みなわけだし、別に異論は無いわよ」
「はい、私もお兄ちゃんたちとお話がしたいです!」
「ありがとうな。それじゃあ、最初は雑談からしようか。本題にすぐ移るってのも、少し味気ないからな」
それから少し、話をした。
最近は異界関係のエリアを求めて、いろんな場所へ向かっているそうだ。
まあ、妖精といえば妖精界。
オブリがより強くなるためには、単純な進化だけではなく、そういった特定の場所に赴く必要もあるだろう。
祈念者の中には、辿り着いた者もいるらしく、その情報を基に探しているそうだ。
俺も手伝いたかったのだが……残念ながら断られてしまった。
「メルスは、そういう場所がどこにあるのか分かっているのかしら?」
「まあ、探そうと思えばな。次元魔法はあらゆる壁を取り払うから、隠されている亜空なども見つけることができる」
「……だからよ。メルスも、そんなネタバレだらけの冒険に、何を求めるの?」
「気持ちは分からんでもない。俺も初見で死ぬことばかりやってきたし、そもそも眷属の大半が俺を殺せるからな……まあ、楽しみたいなら、後でこうしてまたその結果でも教えてくれよ」
ある意味、今の俺の在り方こそが冒険でもあるからな。
……殺されないような振る舞いってのも、本来なら大変なんだぞ。
俺の場合は武具っ娘がいるから、命を懸けずとも良いだけのこと。
そもそも、それだと途中で死んでいたかもしれないけどな。
「──さて、そろそろ本題に移るか。なんとなく分かっているとは思うけど、運営公式のイベントが始まることになる。それでまあ、二人にも参加してほしい」
「「…………」」
「って感じでやっていく予定だ。ユウとアルカの時は、いろいろと口説いたりしたんだけど……って、急にどうした?」
「「なんでもな(ー)い」」
突然、顔を逸らす二人。
特にオブリなど、わざとらしく「つーん」と口で言いだしているし。
えっと……これってもしかして、そういうことなんだろうか?
判定のために視線を左右に向けると、その両方で首を縦に振る少女たちを見てしまう。
「オブリ」
「つーん」
「……眷属の中で、お前は一番若い。年齢もだが、眷属になった順番もだ。ティンスと共に、力を求める姿に俺は応えた、それは、オブリに期待していたからなんだぞ」
「つ、つーん!」
どうやらお気に召したようで、少しだけ機嫌がよくなるオブリ。
なぜか、アルカの視線が冷ややかなものになるが……まあ、気にせず続けよう。
「俺が島に居る頃、オブリは俺の願いを聞いてスキルを集めて来てくれたな。オブリぐらいの年の子には、難しいことだったと思うんだが……でも、オブリならできるって信じてたよ。そして、本当にやってくれた」
「つ……」
「オブリは立派な子だな。だから、今回のイベントでも俺の力になってほしい」
「お兄ちゃん!」
飛びついてくるオブリ。
今の俺は手錠が付いているので受け止めることもできず、かといって受けるわけにもいかないので第三の選択肢を取る。
精気力の性質を弄り、足元に粘着性を。
そして自分の周りは軽く、自身は重くしてオブリから受ける衝撃を緩和する。
「オブリ……そんなに感極まってくれるのは嬉しいんだが、今はちょっと大変なんだ」
「ご、ごめんなさい」
「いや、悪いのは全部ユウだから。オブリは何にも悪くないぞ」
「あはは、オブリちゃんは気にしないでね」
浮遊スキルでも使ってくれたのか、俺を押し倒そうとする力が弱まっていく。
そのまま浮遊した状態で、元居た場所へと戻っていった。
「とりあえず、オブリは参加でいいか?」
「うん!」
「そっか、じゃあ次は……」
「──私も参加するわ。だからその、わざわざ言わなくてもいいから」
少々頬を赤らめた吸血鬼の祈念者は、そう俺に伝える。
まあ、たしかにそれもそうなんだが……隣のお二人は納得がいかないようで。
「うーん、ならこうしよう。参加ってことで今はいい。ただ、イベント中に何らかの形で言うって方向で。二人っきりなら、そこまで嫌がらなくてもいいんじゃないか?」
「そういう問題じゃ……まあ、別にメルスが言いたいならそれでもいいけど?」
「はいはい、物凄く言いたいです。だから、楽しみにしておけよ」
「期待しない程度に待っているわよ」
上手くお茶を濁したな。
純真無垢なオブリはまだしも、少々乙女な時期なティンスにはこの羞恥プレイは耐えられなかったか。
さて、それでも二人との交渉は終わったということで……次の眷属を呼ぶとしよう。
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