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偽善者と渡航イベント 三十月目

偽善者と船員集め その04

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 ユウの策略によって、俺とアルカはその手首に錠が付けられていた。
 強制的に手は絡めたまま固定され、その状態で居続けることを強いられている。

 俺もアルカも、それは望んでいない。
 だからこそ、アルカも俺のアイデアを了承した……つまりだ──


「あのー、師匠もアルカも。どうして、こういうことをするのかな?」

「「…………」」

「無言は怖いなぁ、なーんて。ははっ……ごめん! ごめんって、悪かったよ! だから僕も巻き込むのは止めてぇ!」

「「絶対にやだ」」


 何をしたかといえば、ユウにも手錠を嵌めただけのこと。
 彼女が決めた通り、俺が全祈念者眷属と交渉を終えるまでそれは外れない。


「というか師匠、なんで持ってるの!?」

「ふっ、俺はもともと生産職でもあったんだぞ。構造は全部把握できるし、俺には特別な魔法もある……さすがに物質化は難しかったが、一時的にこの手錠と同期させた偽物を創るぐらいはできるさ」

「だからって、なんで師匠と……アルカとでもよかったんじゃ」

「間接的にだと、その影響もあんまり無かったんだからしょうがないだろ。あくまで本物と俺の両方に繋がる必要があったから、お前も反対側に繋いだんだよ」


 傍から見れば、俺たちは仲良く三人で歩いているように見えるだろう。
 存在偽装で俺たちということは分からず、手錠も認識を弄って見えないようにしたが。

 それでも三人組が横に並んで歩いている、という事実までは変えられない。
 なので普通、誰かしら絡んでくるが……その心配はしなくて良いのだ。


「あのー、アルカさん。そこまで威圧しなくても大丈夫だと思うけど?」

「……何が?」

「ほら、魔力が漏れてるから。これ、最悪衛兵さんとか呼ばれちゃうよ!」

「安心しなさい、ユウ。ちゃんと一定距離で霧散するようにしてあるわ。それに何より、私からじゃなくコイツから放たれていると思えるように調整しているから」


 それ、俺が大丈夫じゃないヤツ!
 俺も俺で必死に周囲の認識を誤魔化しているので、通報とかにはならないと思うが……早く目的地に着きたいよ。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 クランハウス『エニアグラム』


 前は場所を隠されたが、結局のところ眷属たちと創ったクランの本拠地は街に在った。
 ただ、なぜかアルカの魔力由来のアイテムが無いと入れない仕様……。


「俺、入れる気あった?」

「あるわけないじゃない。そもそも、本当なら今回も転移で行くつもりだったわよ……けどこれ、転移使えなくするのよね」

「……ははっ、ごめんなさい」


 ユウの手錠は魔力を散らすため、魔力を魔法として使うのが難しくなる。
 なので前回同様、転移で行くという手段は無しになっていた。

 クランハウスの中には、まだ誰もいない。
 そりゃそうだ、呼ぶまでは待機していてくれと予めユウが連絡していたからだ。

 ……俺がアルカと話して、手錠を掛けるまでの間にやっていたらしい。


「で、改めて来たわけだが……いろいろと内装が変わってるな」


 前に来た時の記憶を[世界書館]から引っ張り出したが、やはりなんというか……女の子らしさがあるというか。

 一部、男物もあるにはあるが、割合的には9:1ぐらいの差があるし。


「イベントの余りポイントとか、家具に注ぎ込んでるんだよ。師匠の作る家具は……凄すぎて、なんだか使うことをためらうし」

「そうか? まあ、憩いの場って感じがしていいと思うぞ……俺にはちょっと、落ち着かない感じがするがな」

「……だから入れたくなかったのよ」

「僕は別にいいと思うけどな。師匠って、ぬいぐるみ作りも上手いし」


 そういえばユウには買収で作ったことがあるな……うん、よく見たらその時に提示したグラのぬいぐるみが有るや。


「まあ、それに関しては一先ず置いておくとして……誰から呼ぶかだなー」

「傍から聞いてたら、もうクズだよね」
「そうじゃなくてもクズじゃない」

「失礼だな、いやマジで。眷属にした順番ってのは、もうお前ら二人をやっちゃった以上通用しないわけだし……どうしようか」


 そんなことどうでもいいとか、そういうわけにはいかない。
 俺にだって心の準備が要るし、全員が全員了承するわけでもないのだ。

 だがユウの定めた罪状に、全眷属と書かれた以上はやらざるを得ない。
 ……他の言い方だったら、もっと多かったかもしれないな。


「別にいいじゃない、その順番で。眷属とかじゃなくて、出会った順にしなさいよ」

「……まあ、それならギリギリか? 知らない間に会ったとかはともかく、ユウとアルカの順番が違うってのもあるけど、そこ以外は特に気にならんか」

「……嫌な物を思い出したわね。ちょっと殺してもいいかしら?」

「そんな離席してもいいか、って訊くのと同じ軽さで俺を殺そうとするんだよ。そもそも今の状態じゃ、それもできないだろう」


 アルカの魔力は乱されているので、俺を殺し切ることはできない。
 それを分かっているのか、舌打ちをして結局そのままを貫く。


「じゃあユウ、呼んでおいてくれ」

「えっと、僕が最初でアルカが次……だったの? なら、次は誰なの?」

「どっちなんだろう……まあ、二人とも一気に呼べばいいか」


 そうして伝えると、ユウがその二人に連絡してくれる。
 それからしばらくして、彼女たちがクランハウスに足を踏み入れた。


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