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偽善者と渡航イベント 三十月目
偽善者とスキル昇華説 中篇
しおりを挟むとりあえず、スキルはそのレアリティを高めることができることが分かった。
上がるとできることが増えたり、元の能力の性能が上がることもあるそうだ。
だが今回の目的である[眷軍強化]の強化を行う場合、それはあまり意味がない。
なぜならすでに、最上級である個有スキルなのだから。
「それでもリュシルには分からないわけだ。さて、ならどうすればいいのやら」
「……謎が多いだけで、何も助言ができないわけではありません」
「へぇ、そりゃあいい。なら、何か教えてもらおうかな」
上からな言い方ではあるが、実際には教えてもらうのは俺の方。
しかも、彼女には凡人にも分かるレベルに噛み砕いて話してもらう……助かります。
「先ほども話したように、条件を満たすことで力が昇華される場合がございます。すでに最上位である個有スキルですが、それが無いとは限りませんよ」
「となると、何らかの形でそれを満たせばいいわけか……まあ、進化でなくとも変化や能力の追加でも、眷属のためにできることは増えそうだからイイか。具体的に、何をすればいいと思う?」
「そうですね……やはりスキルの本質がメルスさんと言う主と眷属を繋げることにある以上、その数を増やすことが最適化と。あるいは数ではなく質、何らかの形でその繋がりを強化する必要があるかもしれません」
「……繋がりって、いったい何をすれば深まるものなんだか」
そうですね、と考えていたリュシルの顔が突然沸騰したように真っ赤になる。
おやおや、いったい何を考えたのやら……ここでマシューとアイコンタクト。
「開発者、いったい何をお考えに?」
「ひぇ!? そ、それは……その、やっぱりより密接な関係になる以上、方法は限られていると言いますか……」
赤い顔がさらに紅く。
うん、とっても可愛い……ちなみにナニがとは言わないが、二人の夢に干渉した経験はあります。
「なるほど、ごもっともで。それでは、さっそく創造者にお話ししましょう。どのような方法で、より深く交われるのかを」
「ま、交わる…………ってマシュー、もしかして私をからかっていますか?」
「まさか、そのようなことは。純粋に、御二人の話に協力すべく尽力しております」
どのように、と言わない辺りがさすがはマシュー……略して『さすマシュ』だ。
口論では勝てないと察したのか、咳払いをして話を戻すリュシル。
「こ、コホンッ! し、質の方に関してはもう充分でしょう。それに、それが条件であれば、アマルさんたちにも同様のことをしなければいけません」
「……それは嫌だな。俺、別に否定はしないけど自分がヤるビジョンは見えないし」
「ですので、狙うのは数です。『軍』がスキル名にあることから、百人は必要かと」
「百人……意外と多いな」
こちらには自由民と祈念者の違いは無いと思うので、少しは楽になるが……それでもまだまだ足りていない。
作業的に眷属を作れば簡単だろう……が、それは俺が[眷軍強化]に求めた在り方とは違うのでNOを選ぶ。
「成長させるには、まだまだ先が長いというわけか……」
「メルスさんが眷属にする方を選ぶ以上、それは仕方がありません。気長にやって、いつの間にか進化している……なんて考え方をした方がいいかもしれませんね」
「仕方ないか……なら、別の話題にしよう」
「まだ何かありましたか?」
当初の予定はここで頓挫したので、この調査欲を別のことで埋めることに。
ちょうど話で出ていた、スキルの格上げなどピッタリだろう。
「スキルの昇華……なのかな? それで俺のメインスキルである{感情}をより強くすることはできるか?」
「……例のスキルですね。こちらも、私ではどうすることもできません。[眷軍強化]とは別方向に、{感情}もまた私が知り得る情報では理解できないことが多いですし」
「まあ、創造に大神が関わっている可能性が高いからな……こっちもスキル的にはカンストしているが、これはこれでいちおうの強化条件は分かっているんだよな」
七つの<大罪>と<美徳>、そして<正義>を内包する{感情}スキルだが、他にも接続しているスキルが存在する。
それだけではなく【知識】や【智慧】、そして【信仰】や【忠義】など……俺ではなく眷属が持つ一部の固有スキルと、なぜか何かが共有されているのだ。
「これもどれだけ数があるか分からないが、全部集めるか一定数集めれば変化があるかもしれない。知っていて接続していないのは、ヴァ―イの【貪食】ぐらいか……つまり、過去の人物が持っている可能性もあるわけだ」
「それを私に調べろと? 童話の魔本に関する文献も無いわけではありませんが、それがメルスさんの求めるスキルかどうかまでは分かりませんよ?」
童話の魔本は祈念者にしか入れないように設定されているが、別に自由民が読めないわけではない。
正史に関する内容が記述されているが、効果がいっさい分からない謎の魔本……そういう扱いを受けており、あまり注目されていなかったそうだ。
それでも一部のマニアックな学者たちは、それを調べて過去の歴史を紐解いたりもしていたらしい……その中に、もしかしたらスキルのヒントがあるかもしれないからな。
「まあ、保険だよ。暇なときに、思い出してくれたらやってくれ。俺も俺で、いちおういろんなことをやってみるつもりだ」
「……それなら構いませんが、あまり無茶をしてはいけませんよ」
「了解っと。じゃあ、リュシルとマシュー。行ってきます」
「気を付けてくださいね」
「行ってらっしゃいませ、創造者」
二人の言葉を背に、俺は図書室を去る。
……さて、またスキルに関する何かでも探りに行きますか。
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