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偽善者と渡航イベント 三十月目

偽善者とスキル昇華説 前篇

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 眷属の数は、俺が[眷軍強化]を行うことで増やしている。
 個有スキルは進化するので、いずれは変化すると思っていたが……いっさい変化せず。

 すでにカンストしているはずだが、何一つ変わらないまま年単位で経過している。
 途中からぶっ続けでこの世界に居る以上、それもさすがにどうかと思う。


「まあ、進化条件が同じくSPを注ぎ込むことならもう詰んでいるけどな」


 本来の習得方法を知らないし、そもそも俺以外の個有スキルの保持者を知らない。
 俺の場合、SPを999消費することで得たのだが……他の方法はあるのだろうか?


「それは追々考えるとしようか。問題は、眷属を増やすかどうかって話だな。これ、というヤツが見つからないし、別にそういう目的で探しているわけじゃないからな」


 眷属とは俺にとって家族であり、時に偽善以上の優先度を誇る者たちだ。
 まあ、その構成メンバーの九割以上が女性なのは……俺の趣味嗜好が関わっているが。

 だが別に、いっさい男性を受け付けていないわけじゃない。
 加えて、行為……じゃない、好意を向けてくれなくてもいいと思っている。

 俺を全肯定してくれる者はたくさんいるので、これ以上居ても俺が甘やかされるだけ。
 なら、そうじゃない否定的な考えをぶつけてくれる眷属が居てくれてもいいと思う。


「結局、それでも簡単に眷属を見つけることなんてできないんだけどさ……仕方ない、とりあえずまずはスキルの進化について調べてみようか」


 眷属は全員が優秀もしくは天才なので、大抵のことは聞けば教えてくれる。
 なので今回も、眷属たちを頼って問題を解決してもらおう。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 夢現空間 図書室


「──分かりません。というより、そもそも私にも謎が多いのですから」

「だからこそ、調べていると思ったんだが。そうじゃないのか?」


 最初に訪れたのは、ありとあらゆる本を蔵書……したいと思っている図書室。
 ここ、蒐集すればするほど、なんだか大きくなっているんだよな。

 そんな不思議部屋の管理人になっている、魔人族の学者であるリュシル。
 オッドアイ、灰色の髪をした合法ロリ……属性もりもりな彼女に訊いてみることに。


「……なんだかメルスさんから、邪念を感じたような気がするんですけど」

「うーん、リュシル可愛い。マジ最高……みたいなことを想ってた」

「か、からかわないでください! そそ、それよりも、スキルの話です!」


 バンッと机を叩き、その反動で痛みを覚える顔がなんとも……。
 後ろに付き添っていたメイドのゴーレム、マシューもアイコンタクトで同意している。

 そうして俺とマシューが心を通い合わせている間に、落ち着きを取り戻したリュシルは自分に回復魔法を施す。

 お茶を飲んで心をさらに静めて、改めて会話を続ける。


「まず、私の個有スキル……のように設定されている[神代魔法]。おそらくこれは、メルスさんが同名のスキルを創造した際に、その影響を受けて得たモノだと思われます」

「それまでは変化が無かったのか?」

「むしろ、メルスさんと接触するまでは。あの場所は外界から遮断されていたため、変化も受けられなかったのでしょう」


 リュシルは神様云々を調べ、異端の領域まで手を伸ばした結果──封印された。
 後ろに居るマシューも、その番人役を強制的にやらされていたものだ。

 そんな事情があるから、彼女は俺の眷属になって外へ出た。
 そして、自分のステータスに有った神代の魔法が統合されたことに気づいたらしい。


「そもそも複数人が所有している以上、名ばかりの個有です。それに、所以も何もないスキル名ですので、あくまでレアリティという観点から属しているのでしょう」

「……まあ、凄いことは分かった」

「分かりやすく言うと、個有スキルということにしてあるだけのスキルなのです。その方が他の干渉を受けづらく、隠匿しやすい……だからこその個有スキルです」


 すぐに思考系のスキルを展開して、情報の処理を行う。
 凡人な俺の脳内コンピューターは、何度再起動しても理解に苦しんでいる。

 なのでスキルに頼って強引に納得し、話を続けないと。
 あえて思考加速スキルのみを使い、その中でどうにか答えを見つけ出す。


「…………ええっと、なら本来の個有スキルはもっと特殊ってことか?」

「はい。メルスさんの[眷軍強化]。他者とあらゆるものを共有し、他者同士をも繋げることができる力。言葉にしてみればとても単純ですが、とても恐ろしい能力ですよ」

「本人の前で恐ろしいとか言うか?」

「……経験値は無尽蔵に供給され、適正の無い魔法でも使い放題。さらに、距離の概念の無い念話もありますし、何よりその恩恵をすべての眷属が受けることができる。要は、誰でも『超越者』になれることを意味します」


 人族が種族の限界を超え、限界突破した存在が得られる称号『超越者』。
 祈念者でも真っ当な方法で辿り着いた者はいないその領域に、簡単に行けるわけだ。

 なるほど、今の眷属たちの戦闘能力を共有できるのだからたしかに強い。
 また、情報戦でも念話が使えるのだから便利だろう……まさに隙なしだ。


「いちおう、過去にもその詳細が不明なスキルはいくつかあります。あらゆる能力を容姿と共に模倣する力、属性の相剋を無視して一方的に弱点を相手に付与する力……ですがこれらは、固有スキルと認識されています」

「どっちもある意味、同じようなものだし。別にいいと思うけどな」

「私たち学者のような研究者で無ければ、自分以外のスキルなど気にも留めないですし、それも仕方がありません。ただ、あえてそうしている可能性が高いのです」

「……まあ、『固有』と『個有』だしな。俺の世界の字だと同じ読み方ができるし、意味も似たようなものだ。けど、それなら他の階級の意味っていったい」


 一般、固有、伝説、神話、超越、個有。
 スキルにも階級が存在するし、それは鑑定眼でもしっかりと記されている情報だ。

 なので、ある意味正しい情報のはず。
 ならばどうして、わざわざ固有と個有にのみそんな仕掛けが施されているのやら。


「もともと八割の人間は、固有スキルや固有職、固有種といったものに関わりもなく死んでいきます。その二割の中で、伝説や神話に語り継がれるだけのことをしたからこそ、スキルの格が上がります」

「……大衆の認識か?」

「それもあります。その功績が刻まれることで、力は昇華されます。仮説ですが、それは【勇者】や【魔王】にも該当します。相反する彼らは、その片割れを倒し続けることで、力を高めているとのことですから」

「そういう話は俺の世界でもあったな。条件達成で覚醒認定して、真の力が解放される展開は定番だ」


 他には魂を捧げるとか、まあいろいろあったよな……少なくとも、俺のようにいつの間にかチート級とか、そういう感じではない気がするな。

 ──さて、話はまだまだ続くな。


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