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偽善者と裏切る者 二十九月目
偽善者と自己紹介 その50
しおりを挟む夢現空間 居間
「──つまり、お姉ちゃんも居た方が良かったということですね」
「どうなったらそうなるのか分からないが、まあたしかに居てくれた方がよかったかもしれないな。とはいえ、別に誰がと指定するつもりはないぞ。誰が来てくれていようと、俺の活力は溢れていたわけだし」
「そういうわけではありません。お姉ちゃんは、いつだっておとーと君の味方なんです。だからメルス君が苦難にぶつかっていたら、そのお手伝いをしてもいいと思うのです」
「……そういうものか? いやまあ、そうしてくれるのは嬉しいんだけどな。それって、自立できないでズルズル行くパターンになりかねんよ。とことん甘やかすことが上手いからな、お前たちって」
今回やっていたことを話していたのだが、彼女の結論は一味違っていた。
嬉しいには嬉しいんだが……もしもの時のことを考えると、やはり独りでやらないと。
「メルス君、そもそもそんな過程からして無意味なんですよ? おとーと君とお姉ちゃんは一心同体……いえ、同体異心なんです。体が別の場所にあろうと、心が通っている以上決して分かつことはありません」
「言っていることが無茶苦茶だろ……」
「無茶でもお茶でも、お姉ちゃんの中で理屈が通っているから問題ありません! 私は私であるために、姉としてメルス君を支えたいだけですから」
まあ、彼女の想いは全力で伝わってくる。
ある意味偽善において、重要な役目を果たしてくれていた彼女だからこそ、こうした何かを抱いているのかもしれない。
それが何か、何を以ってその考えに至ったのかはすべてが謎だ。
それでもいいのだろう……年下(0歳)の姉というのは、なかなかに新鮮だがな。
「──それじゃあ、そろそろ始めようか。第五十回の自己紹介を!」
「ふふっ、結構続いていますね。メルス君がいろんな子と仲良くなってきた、その証みたいなものですね」
「まあな。ゲストはこの方──【謙譲】の武具っ娘であるトーさんです!」
「メルス君のお姉ちゃんです!」
何はともあれ、五十回も放送していることになるこの企画。
いずれは二週目も放送したいな……なんてことを思いつつ、インタビューを始めた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「問01:あなたの名前は?」
「トー、メルス君のお姉ちゃんです」
「問02:性別、出身地、生年月日は?」
「お姉ちゃんで、おとーとと同じ場所、生まれたのはおとーとよりも先です」
「……真面目にな。出身と生年月日は、今はまだ不明だな」
「問03:自分の身体特徴を描写してください」
「銅色の髪が少し天然で盛り上がっているけど、綺麗に纏めてあります。それで、この緑玉の目でおとーと君をしっかりと見てます」
「最後の説明が少し要らなかったのと、もっとも肝心なこと。天使だから白い翼が生やせることを言ってくれよ」
「メルス君が一番大切ですから」
「問04:あなたの職業は?」
「【解放英雄】、メルス君が奴隷さんたちを解放し続けた功績が反映された職業です」
「問05:自分の性格をできるだけ客観的に描写してください」
「おとーと大好き!」
「…………何も言うまい」
「問06:あなたの趣味、特技は?」
「趣味はメルス君の役に立つこと、特技もメルス君が喜びそうなことですね」
「たとえば?」
「受肉してからは、掃除やお洗濯、料理をしています」
「問07:座右の銘は?」
「『我事において後悔せず』!」
「……うんまあ、いいんじゃないか?」
「おとーと君、諦めないで!」
「…………はい、次行くぞ」
「問08:自分の長所・短所は?」
「長所はメルス君が好きなこと、短所は自分から率先して行動できないことですね」
「割と動いていると思うけどな」
「メルス君に関することならば。でも、それ以外だと私は基本的に謙ることが多いんですよ?」
「問09:好き・嫌いなもの/ことは?」
「好きなものはメルス君が好きなもの。嫌いなものはメルス君が嫌いなもの、そしてメルス君を嫌うものかな?」
「問10:ストレスの解消法は?」
「メルス君に会っていれば、ストレスは感じませんよ?」
「捌け口になれているなら、それはそれで嬉しいよ」
「問11:尊敬している人は?」
「創作物の話になってしまいますが、姉キャラはいいものです」
「お姉ちゃんに任せなさい、とかか?」
「そうですね……メルス君に頼られるためにも、姉力を磨いていきます」
「問12:何かこだわりがあるもの/ことがあるならどうぞ」
「姉力を磨くために、たまにそうしてメルス君の記憶を本にしたものを読んでいますね」
「…………」
「だからメルス君の趣味もバッチリです」
「問13:この世で一番大切なものは?」
「おとーとであるメルス君、そしてそんなメルス君を肯定してくれた人たちです。だからこそメルス君は、今のメルス君なんです」
「問14:あなたの信念は?」
「どれだけ謙り譲ろうとも、メルス君の傍に居続ける……これだけは守り抜きます」
「問15:癖があったら教えてください」
「癖……メルス君としばらくいないと、メルスニウムが枯渇してしまいます」
「メルスニウムって何ッ!? というか、それどういう効果があるんだよ」
「精神安定が主な効果ですね」
「問16:ボケですか? ツッコミですか?」
「もちろんツッコミです!」
(……ツッコミ待ちなんだろうか?)
「問17:一番嬉しかったことは?」
「メルス君が私の声に答えてくれた時です」
「問18:一番困ったことは?」
「全然お姉ちゃんを頼ってくれない、まったく困ったおとーと君だったことです」
「あはは……」
「問19:お酒、飲めますか? また、もし好きなお酒の銘柄があればそれもどうぞ」
「あまりメルス君も好きじゃないみたいですし、私もあまり飲んでいません」
「問20:自分を動物に例えると?」
「ライオン……でしょうか。メルス君を支えて、養っていきたいです」
「問21:あだ名、もしくは『陰で自分はこう呼ばれてるらしい』というのがあればどうぞ」
「お姉ちゃん以外ありません!」
(ちなみにカナタやアイリスからは、その前に『自称』が心の中で付けられているぞ。他には『ブラコン(仮)』もあったな)
「問22:自分の中で反省しなければならない行動があればどうぞ」
「いえ、特には? しいて言うのであれば、より早くメルス君のお姉ちゃんとしてメルス君の前に現れたかったです」
「問23:あなたの野望、もしくは夢について一言」
「真のお姉ちゃんに、誰もがそう認めるお姉ちゃんになることです!」
「……まあ、頑張ってくれ」
「問24:自分の人生、どう思いますか?」
「まだ生まれて間もないですが、姉として生きていきたいですね」
「常人が聞いたら、異常を疑う発言だな」
「周りがどう言おうと、メルス君が受け入れてくれる限り私はお姉ちゃんです!」
「問25:戻ってやり直したい過去があればどうぞ」
「メルス君が生まれる前に生まれて、メルス君のお姉ちゃんになりたいです」
「問26:あと一週間で世界が無くなるとしたらどうしますか?」
「メルス君といっしょに居ますよ」
「問27:何か悩み事はありますか?」
「全然おとーと君が頼ってくれません、メルス君、どうすればいいですか?」
「さ、さぁ……どうだろうな?」
「問28:死にたいと思ったことはありますか?」
「いえ、そういったことはまったく」
「問29:生まれ変わるなら何に(どんな人に)なりたい?」
「今と同じく、お姉ちゃん志望です!」
「問30:理想の死に方があればどうぞ」
「こう、メルス君をお姉ちゃんとして守りながら……でしょうか?」
「俺が弟なら、姉には長生きしてもらいたいけどな」
「──老衰で。おとーと君が手をギュッと握る感じでお願いします」
「問31:何でもいいし誰にでもいいので、何か言いたいことがあればどうぞ」
「私はメルス君のお姉ちゃんとして、すべての女性に物申します」
「問32:最後に何か一言」
「おとーと君が欲しくば、まず私を倒してからにするが良い!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「はい、カット……何言ってるんだよ」
「いいですか、メルス君。これはとっても重要なことです。眷属はともかく、他所の女の子は念入りな調査が必要なんですよ?」
「他所って……まあ、たしかにやることが増えて手が回らなくなった部分もあるよな」
「はっ、まさか──!」
祈念者の眷属ばっかり増えてたしな……さてさて、どうしたものやら。
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