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偽善者と裏切る者 二十九月目

偽善者と魔族前線基地 その16

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「……もう無理、しばらくはもう何もしたくないな」


 要塞に帰還して、俺は与えられた個室で倒れ込んでいる。
 ユウからの逃亡、アルカからの脱走によって精も根も尽き果てていた。

 なお、この場には俺も含めて三人。
 残った二人は俺を見て……何やら、少々落ち込んでいるようだ。


「これが、私を圧倒した死霊術師なのか……失望を覚える以上に、何やら虚しさを覚えてしまうな」

「騎士にしてはよく言う。だが、それは私も同意だ……私など、殺されたのだぞ?」

「魔族に同意されても嬉しくはない。だが、私も似たようなものだ」


 そこまで言われると俺もへこむ。
 実際、俺と同じ状況に追い込まれて、生き残れる可能性はそう高くはない……なんなら英霊たちでもある程度苦戦しただろう。

 お陰様で、生死の狭間を彷徨うレベルでスキルの育成をすることができた。
 大量のスキルも手に入ったし、ノゾムとして活動するときも役立つな……主に逃亡時。


「ところで、アレからどうなったんだ?」

「──祈念者の妨害はあったものの、撤退時の死傷者はゼロに抑えられた。被害はそれでも甚大であったがな」

「アンデッドたちに関しては、特に問題なく移動できた。聖職者たちも現れていたが、例の魔法が効いていたようだな」

「やっておいて正解だったな。ふぅ……結構アレ、魔力使うんだぞ?」


 アレ、とは“聖気耐ブーストレジ性強化スト・ホーリー”のこと。
 単純な聖属性への耐性ではなく、ありとあらゆるアンデッドを浄化させる要因を防ぐために用意したこの魔法。

 配置していたアンデッドの魔法使いでは使えなかったこの魔法を、俺は全アンデッドに通しながら縛りプレイを行っていた……体の方は暇をしていたからな。

 それ自体は[屍魂の書]を介せば可能なので、保険としてやっておいた。
 クラーレたちも居ただろうし……うん、成功してくれて何よりだ。


「たとえ聖職者が居ても、浄化されることなく生き残れるアンデッド。人族側からすれば恐怖であり、魔族側からすれば期待すべき存在だ。仕掛けさえ知らなければ、これでアンデッドの発生条件まで警戒するだろう」

「……聖気で保護していようと、問答無用でアンデッドにできるのか?」

「まあ、不可能じゃない。手間も時間も掛かるが、そこを度外視すれば可能だ。つまり、死体を処置して放置……なんてことはできなくなるわけだ」


 祈念者は死に戻りがあるので平気だが、自由民であればそうせざるを得ない。
 死体を持ち帰る必要が生まれれば、それなりに面倒だろうな。

 まあ、こっちの世界ならアイテムボックス的なモノがいっぱいあるので大丈夫だが。
 それでも死体の確保、そして運搬をしなければいけないというのは後に引きずるはず。

 放置するならアンデッドにするし、防護処理だけなら引き剝がしてアンデッド化。
 持っていくならそれでよし、俺は何にも困らないのだからイイこと尽くめだろう。


「敵にすれば恐ろしくて、味方であれば心強い。そんな死霊術師になれば、どちらからも目を向けられるだろう。どうだ、しっかりと考えられているだろう?」

「……そうだな、おそらく貴様が挙げたようなことが実際に行われるだろう。アンデッド化とは、避けたい事象だからな」

「そういうことだ。さて……うん、そろそろ魔力も十二分に溜まったかな」


 寝転んだ姿勢から起き上がり、伸びをしてから体を解し始める。
 何をしているのかと訝しむ二人だが、俺にもちゃんとした理由があった。


「我が騎士よ、私の目的は過去に語った通りだ。しかし、それはここで魔族として成り上がるだけでは成し得ない。何を言いたいのか分かるな? ……そう、しばらくの間、私はここから姿を消すことになる」

「その間、あの空間にずっと居ろと?」


 ああ、死霊魔法“死屍蒐集ゴーストコレクト”の空間か。
 一時的に意識を失わせたうえで突っ込んでいるので、気にはならないと思うが……そういうことではなくて。


「単純な話だ。私はその間、元隊長に代役を務めさせる。それを行う術があり、それをする必要があるからだ。いちおう、こちらでその監視役も出すがな」

「ちょっと待て、私がか? さすがに、私と貴様とでは違いが多すぎるぞ」

「術があると言ったであろう。その詳細はいずれ、しかしほぼ確実に周囲から気づかれることは無いだろう」


 存在、魂魄から偽るつもりなので。
 死霊術師としての仕事は、それができるアイテムを渡しておけばいい……ネロと共同開発したアイテムをいくつかな。

 監視役も、俺の{多重存在}である順番でミアとディオにやってもらう予定だ。
 彼女たちは俺と違って、ちゃんと職業にも就ける……適役だろう。

 問題は騎士だ。
 互いに契約を交わしているとはいえ、野放しにしている間に魔族を殲滅……なんて展開になっていたら大変だろう。


「それでどうする? 騎士として、仮初の主である私についてくるか。それともこの地で魔族を監視し、何ができるのかを考えるか」

「追従して、私に何ができる?」

「何も。ただまあ、自由で居られる場所を用意するつもりではあるが」

「そうか……ならば、私はこの地に残ろう」


 うん、まあ自由と言っても迷宮都市に放置するつもりでいたが。
 あそこには魔族も居るが、話し合える知性ぐらいは持ち合わせている。

 なのでどちらでも良かったが、どうせならここで元隊長のサポートでもしてもらえるといいなぁと思っていた。

 ……次に来るとき、どうなっているのか今から楽しみだよ。


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