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偽善者と裏切る者 二十九月目
偽善者と魔族前線基地 その14
しおりを挟むアルカに背を向け、ただひたすら走る。
逃げるか戦うかを選ばされ、ここで後者を選ぶのはバカか隠し玉の持ち主だけだ。
アルカがここに居る以上、ありとあらゆる手段を用いて俺を殺すだろう。
仮に俺が何か隠している手札を切ったとしても、必ず時間を掛けて対策を用意する。
努力をすることができる天才であるからこそ、念入りに準備をしたうえで緊急時でも対応することができる……もしもの可能性を無くすのではなく、出させたうえで潰すのだ。
「──お前と真面目に戦えるのは、俺が圧倒的勝者であるときだけだからな! 無理、普通に無理! こんな所に居られるか、俺は部屋に帰らせてもらうぞ!」
「……部屋ってどこよ。それに、逃がすわけないじゃない──『不可逆の一方通行』」
「なんだか知らんが、さっさと逃げないとやばい予感が……あべしっ!」
逃げようとした俺を阻むナニカ。
壁にぶつかったというか、殴られたうえで跳ね返された……という感じだろうか。
「内容は言わないわよ。普段のあんたならすぐ分かるでしょうけど、今ならそうもいかないでしょう? ……非常に不服だけど、まずは一勝することを大切にするわ」
魔眼で力の流れを観測しようとしても、よく分からない。
基本俺は凡人なので、アルカのオリジナル魔法なんてすぐには暴けないのだ。
「ここに居るのが嫌なら、さっさと死んで去ればいいじゃない──『割れない泡沫』」
「俺は、死んだら大変なことになるの!」
「……関係ないわ。まっ、最悪蘇生してあげるから安心して死になさい。回復魔法も使えるから──『消えない朧火』」
「そもそも死にたくないんだよ!」
《血管強化、内臓強化、感覚強化、呼吸、見切、持久走、行動予測、射線把握、解析、警戒──“回避”》
だが、ユウの時よりも強く感じる死の予感に、俺はスキルの大量習得に成功する。
凡人であるからこそ、足掻きに足掻き続けている証拠なのだろう。
少しでも早く、そして長く逃げられるように強化できる部分はとことん強める。
そして目を凝らし、新たに得たスキルも重ねてアルカの魔法一つひとつを視ていく。
魔法名を唱えているが、それと同じくして思考詠唱で大量の魔法を展開している。
わざと声に出すことで、威力向上と意識を向けさせるという目的があるのだろう。
感覚を研ぎ澄まし、その攻撃すべてを避け続ける。
呼吸スキル、そして瞑想スキルなどでそれらに必要な身力を回復しながら。
(この膠着状態は、俺の身力が持つ間しか続かないんだよな。新しく得たのはいいけど、俺がただのアンデッドだったら、もしくは普通の魔物だったら死んでたぞ……いや、もう死んでいるけどさ)
アンデッドジョークを考える余裕はあるのだが、それも身力をすり減らして確保しているもの……パッシブのヤツじゃ、アルカの展開の速さに間に合わないからな。
もし俺がただのアンデッドなら、当然攻撃に対応できなくて死んでいた。
ただの魔物だったとしても、外部の魔力を集められずに死んでいただろう。
アンデッドで無ければ、使用済みの魔力や死で生成される瘴気を還元できなかった。
アンデッドだったからこそ、行動の制御で失敗しても痛覚を無視して動けている。
集めた魔力を生命力や精気力に還元し、必要に応じて適時使用していく。
弾幕ゲーさながらのピンチ状態を、延々と繰り返していった。
「……意外と持つわね。いいえ、それでこそあんたよね」
「さて、どうしてだろうな。でも、とりあえず仕組みは分かったぞ」
「まあ、あれだけ時間があれば当然かしら」
最初の魔法『不可逆の一方通行』は、望んだ方向にしか動けないようにするものだ。
ただし、それは指定した領域と外の間でしか発動されない。
俺が縦横無尽に動けていることから、一方通行にも制限があることは分かっていた。
ベクトルの反射などではなく、あくまでも本当に一方通行にしたかったのだろう。
──アルカと俺、互いに進路は打ち破らないと生まれないようにしたのも、そのため。
「……俺って、そこまで殺されないといけない理由があったか?」
「あるとも言えるし、無いとも言えるわね。これは私のケジメ、あんたは私の鬱憤を晴らすサンドバックとも言えるわね」
「なんとも【傲慢】なこって。そういえば、アルカはそっちの適性もあったな」
「ユウに【憤怒】は似合わないわよ。むしろそれは、私にピッタリだった。なら、このどうしようもない【憤怒】を、あんたはすべて受け入れる責任があるのよ」
俺、あんまり責任って言葉好きじゃない。
少なくとも、『責任=死』だと言うのであれば、誰も肯定したがることではないと思うのですが。
アルカの髪が、瞳が真紅に染まる。
その手に握った長杖が同じ色で輝き、彼女の想いに応えることを示していた。
「さぁ、死んでちょうだい。私の本音、全部聞きなさい」
「……悪いが俺は死にたくない。そして、聞き上手でもないんだ。悪いが他を当たってくれると助かる」
「──いいから、大人しく聞きなさい!」
彼女の背後で渦巻く七大属性。
その一つひとつが、俺を消滅させるに足り得る火力を秘めている。
本当に不味い……それでもなお足掻くからこそ、スキルはより磨かれるのだ。
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