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偽善者と裏切る者 二十九月目

偽善者と魔族前線基地 その13

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 騎士との会話を終えて、俺は再び戦場に向かった。
 もちろん、先ほどと同じように憑依を使っていちおうは誰にもバレないように。

 まあ、念のため安全に脱出できるように細工はしてある。
 俺が居ること自体、ユウから聞いているだろうし油断はできないのだ。

 ちなみに、彼女たちが居る以上油断もしていられない。
 必要な制限解除──新規スキル習得を可能にしたうえで、この地に降り立った。


「さて……今回は『屍赤帽子アンデッドレッドキャップ』か」


 魔小鬼から派生進化する個体で、種族として赤い帽子を被っているのが特徴だ。
 ちなみに進化条件が大量の血を浴びていることなので、その由来はお分かりだろう。

 そんな個体がアンデッド化し、少々位階ランクが下がったのがこの死体。
 瘴気に侵され、弱体化しているが……まあ多少は使えるだろう。


「また体を動かして、それから一暴れしていこうか」


 今回来ているのは南の戦場。
 東に現れた俺を警戒しただろうし、その帰還先である北にも目を付けたはず。

 まあ、そう差し向けていることに気づいて南にも西にも意識は向けているだろうが……そこまで考えれば多少は混乱するはず。

 さっきバレたのはやり過ぎたからで、ある程度行動に制限を設ければバレづらい。
 派生や進化したスキルをいくつか獲得しているので、それらを上手く使って避けよう。


「身力操作と制御、潜伏、気配遮断、隠蔽、逃足、逃走、隠密、暗躍、証拠隠滅、隠匿」


 力の放出を極限まで抑え、体内で循環させた状態で隠れに隠れる。
 あくまで逃げることを前提に、少しずつ戦場の中を進んでいく。

 赤帽子は包丁を持っていることが多く、それで首を斬って出血させることを好む。
 とはいえ、その前段階で足を傷つけて動けなくしたり……といったやり方もする。

 なので俺も同じように、包丁を使って祈念者の足を斬りつけていく。
 今回は武器持ちなので、しっかりと剣術スキルも交えて痛めつけていった。


「加虐、悪知恵、身体強化、魔力付与、指力強化、集中、拷問、体幹、歩行、軽業」


 隠れながら作業を行っているため、まだ祈念者たちに俺の存在は気づかれていない。
 だが、少しずつその被害がひどくなっていくため俺を探そうとする者が増え始める。

 具体的には切り口を魔力で覆うことで、再生しづらく細工を施していた。
 ついでに形状もフランベルジュのようにしており、流血がなかなか止まらないぞ。

 可能な限り死角を確保しながら、動きや体勢に気を付けながら作業を続ける。
 しかし、相手は祈念者……命懸けで俺の行動に気づく者も現れた。


「そこだ──“震脚シンキャク”!」

「……グギャ」

「へっ、見つけ──ぎゃぁあ!」


 俺を見つけたご褒美に、そいつには死をプレゼントしてやる。
 軽く地面を蹴りだし、そこから心臓に差し込むだけでいい。

 どうやら武闘家タイプで体には自信があったようだが、今の俺は切断強化スキルがあるので──そのまま切り裂いてやる。


「くっ、“鑑定”……コイツはレッドキャップのアンデッド! 元はゴブリンだから当たりさえすれば殺せるはずだ! 死んでても素早いから気を付けろ!」

「ギャギャギャギャ!」
《駆足、脚力強化、駈足、俊足、魔眼》

「くっ、速い……がはっ!」


 これまでは使っていなかった速度向上系のスキルを重ね、速さも乗せた一撃でどんどん殺していった。

 そして、魔眼スキルで目を凝らして心臓以外の弱点を見抜いていく。
 筋線維まで視覚的に捉えると、それをブチブチと千切っていく感じで切っていった。


「な、なんて強いんだ……誰か、応援を呼んできてくれ!」

「無理だろ。他にももっと強い奴が居るんだし、まさかレッドキャップ程度に来てくれると思うか?」

「あっ、でもたしか、何か妙な挙動を取る魔物が居たらすぐ連絡しろって──」

「逃げた! 物凄い勢いで逃げたぞ!」


 チッ、まさかユウとアルカがそこまで考えているとは……。
 俺なら何かやらかすと、そう算段を付けたのだろう。

 連絡しそうだったので、すぐさまこの場から逃げ去る。
 ついでに総司令である『死配者王リッチキング』に命令して、一部のアンデッドで妨害を行う。


「同じようにユニークな行動をする個体が現れれば、そっちに気を取られるだろう。とりあえず、さっきの『屍食鬼グール』の動きを再現させておけば、それだけでも気を引ける」


 逃げながら、これまで同様に足を斬りつけながら移動を再開した。
 身動きが取れなくなった祈念者を、周囲のアンデッドが襲おうとする。

 そちらへの対応が忙しくなるので、少しは連絡も遅れるだろう。
 あとはそのまま走り続けて、別の場所でまた暴れればいい。

 ……だがそんな俺の目の前に、地面が隆起して築かれた壁が立ちはだかる。


「グギャギャ!?」

「──やっと見つけたわよ、メルス」

「……グギャ?」

「しらばっくれるんじゃないわよ。目を凝らせば分かるわ」


 まあ、それができそうだから怖いな……演技を止め、嘆息を一度。


「……で、こんな状態の俺にわざわざ勝負でも挑むか?」

「まあ、それもいいわね。別に、力が使えないわけじゃないんでしょう?」

「残念、今は本当に使えないぞ。あくまで憑依なんだから……っと、危ない危ない」

「なら好都合。一度くらい、敗北を味合わせてやるわよ」


 危機感知スキルが反応を示したので動いたら、そこには光の針が刺さっていた。
 たしか……『罪裁く射光』とかいう、アルカオリジナルの魔法だったな。


「ちなみにこれを避けられる時点で、もう普通のアンデッドじゃないわよ。百発百中、命中して浄化されてたわ」

「……まあ、アンデッドは危機感とか無いからなー。そりゃあ死ぬか」

「それで、どうするの? 逃げて死ぬか、抗い死ぬか」

「二択か……なら、俺は──」


 その選択の先、どちらにしても俺は攻撃されるわけだ。
 ならば、選ぶべきはただ一つ──アルカに背を向け、俺は勢いよく駆け抜けた。


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