1,851 / 2,518
偽善者と裏切る者 二十九月目
偽善者と魔族前線基地 その13
しおりを挟む騎士との会話を終えて、俺は再び戦場に向かった。
もちろん、先ほどと同じように憑依を使っていちおうは誰にもバレないように。
まあ、念のため安全に脱出できるように細工はしてある。
俺が居ること自体、ユウから聞いているだろうし油断はできないのだ。
ちなみに、彼女たちが居る以上油断もしていられない。
必要な制限解除──新規スキル習得を可能にしたうえで、この地に降り立った。
「さて……今回は『屍赤帽子』か」
魔小鬼から派生進化する個体で、種族として赤い帽子を被っているのが特徴だ。
ちなみに進化条件が大量の血を浴びていることなので、その由来はお分かりだろう。
そんな個体がアンデッド化し、少々位階が下がったのがこの死体。
瘴気に侵され、弱体化しているが……まあ多少は使えるだろう。
「また体を動かして、それから一暴れしていこうか」
今回来ているのは南の戦場。
東に現れた俺を警戒しただろうし、その帰還先である北にも目を付けたはず。
まあ、そう差し向けていることに気づいて南にも西にも意識は向けているだろうが……そこまで考えれば多少は混乱するはず。
さっきバレたのはやり過ぎたからで、ある程度行動に制限を設ければバレづらい。
派生や進化したスキルをいくつか獲得しているので、それらを上手く使って避けよう。
「身力操作と制御、潜伏、気配遮断、隠蔽、逃足、逃走、隠密、暗躍、証拠隠滅、隠匿」
力の放出を極限まで抑え、体内で循環させた状態で隠れに隠れる。
あくまで逃げることを前提に、少しずつ戦場の中を進んでいく。
赤帽子は包丁を持っていることが多く、それで首を斬って出血させることを好む。
とはいえ、その前段階で足を傷つけて動けなくしたり……といったやり方もする。
なので俺も同じように、包丁を使って祈念者の足を斬りつけていく。
今回は武器持ちなので、しっかりと剣術スキルも交えて痛めつけていった。
「加虐、悪知恵、身体強化、魔力付与、指力強化、集中、拷問、体幹、歩行、軽業」
隠れながら作業を行っているため、まだ祈念者たちに俺の存在は気づかれていない。
だが、少しずつその被害がひどくなっていくため俺を探そうとする者が増え始める。
具体的には切り口を魔力で覆うことで、再生しづらく細工を施していた。
ついでに形状もフランベルジュのようにしており、流血がなかなか止まらないぞ。
可能な限り死角を確保しながら、動きや体勢に気を付けながら作業を続ける。
しかし、相手は祈念者……命懸けで俺の行動に気づく者も現れた。
「そこだ──“震脚”!」
「……グギャ」
「へっ、見つけ──ぎゃぁあ!」
俺を見つけたご褒美に、そいつには死をプレゼントしてやる。
軽く地面を蹴りだし、そこから心臓に差し込むだけでいい。
どうやら武闘家タイプで体には自信があったようだが、今の俺は切断強化スキルがあるので──そのまま切り裂いてやる。
「くっ、“鑑定”……コイツはレッドキャップのアンデッド! 元はゴブリンだから当たりさえすれば殺せるはずだ! 死んでても素早いから気を付けろ!」
「ギャギャギャギャ!」
《駆足、脚力強化、駈足、俊足、魔眼》
「くっ、速い……がはっ!」
これまでは使っていなかった速度向上系のスキルを重ね、速さも乗せた一撃でどんどん殺していった。
そして、魔眼スキルで目を凝らして心臓以外の弱点を見抜いていく。
筋線維まで視覚的に捉えると、それをブチブチと千切っていく感じで切っていった。
「な、なんて強いんだ……誰か、応援を呼んできてくれ!」
「無理だろ。他にももっと強い奴が居るんだし、まさかレッドキャップ程度に来てくれると思うか?」
「あっ、でもたしか、何か妙な挙動を取る魔物が居たらすぐ連絡しろって──」
「逃げた! 物凄い勢いで逃げたぞ!」
チッ、まさかユウとアルカがそこまで考えているとは……。
俺なら何かやらかすと、そう算段を付けたのだろう。
連絡しそうだったので、すぐさまこの場から逃げ去る。
ついでに総司令である『死配者王』に命令して、一部のアンデッドで妨害を行う。
「同じようにユニークな行動をする個体が現れれば、そっちに気を取られるだろう。とりあえず、さっきの『屍食鬼』の動きを再現させておけば、それだけでも気を引ける」
逃げながら、これまで同様に足を斬りつけながら移動を再開した。
身動きが取れなくなった祈念者を、周囲のアンデッドが襲おうとする。
そちらへの対応が忙しくなるので、少しは連絡も遅れるだろう。
あとはそのまま走り続けて、別の場所でまた暴れればいい。
……だがそんな俺の目の前に、地面が隆起して築かれた壁が立ちはだかる。
「グギャギャ!?」
「──やっと見つけたわよ、メルス」
「……グギャ?」
「しらばっくれるんじゃないわよ。目を凝らせば分かるわ」
まあ、それができそうだから怖いな……演技を止め、嘆息を一度。
「……で、こんな状態の俺にわざわざ勝負でも挑むか?」
「まあ、それもいいわね。別に、力が使えないわけじゃないんでしょう?」
「残念、今は本当に使えないぞ。あくまで憑依なんだから……っと、危ない危ない」
「なら好都合。一度くらい、敗北を味合わせてやるわよ」
危機感知スキルが反応を示したので動いたら、そこには光の針が刺さっていた。
たしか……『罪裁く射光』とかいう、アルカオリジナルの魔法だったな。
「ちなみにこれを避けられる時点で、もう普通のアンデッドじゃないわよ。百発百中、命中して浄化されてたわ」
「……まあ、アンデッドは危機感とか無いからなー。そりゃあ死ぬか」
「それで、どうするの? 逃げて死ぬか、抗い死ぬか」
「二択か……なら、俺は──」
その選択の先、どちらにしても俺は攻撃されるわけだ。
ならば、選ぶべきはただ一つ──アルカに背を向け、俺は勢いよく駆け抜けた。
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?
破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。
そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。
無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる
そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた…
表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと
イラストのurlになります
作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~
三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】
人間を洗脳し、意のままに操るスキル。
非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。
「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」
禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。
商人を操って富を得たり、
領主を操って権力を手にしたり、
貴族の女を操って、次々子を産ませたり。
リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』
王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。
邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる