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偽善者と裏切る者 二十九月目
偽善者と魔族前線基地 その12
しおりを挟む今の俺はいちおう鬼のはずなのに、逃走者側として鬼ごっこをさせられている。
「逃がさないよ──“陽光弾”!」
「うぼぁああ!」
《俯瞰、魔眼、拡視、我慢》
鬼役の断罪者ユウが放つ太陽の弾丸。
それをどうにか逃げながら捉え、走りながら躱す。
残念ながら回避スキルを持っておらず、そこに至るためのスキルも所持していないので自力で回避するしかない。
それまでに使っていたスキルは今も起動中で、時折アクティブ状態で使ってはリキャストタイムを待って再度使用している。
ただその間、パッシブ状態で使えなくなってしまうスキルもあるのでそれは使わない。
特に今、重用している軽業スキルなどは切らしてはいけないのでずっとパッシブだ。
「くっ、アンデッドなのに凄い身のこなし。もしかして特殊個体?」
「うぼぁあああああか!」
《加虐、挑発、二枚舌、悪知恵》
「……なんか、バカにされている気がする。そっちがその気なら──“日照”!」
少しでも思考を鈍らせるために挑発してみたら、予想以上に怒りだしたユウ。
放たれたのは光魔法の目晦ましよりも、強く目に焼き付く陽光。
だが、すぐに腕も使って目隠しをすることでどうにか防ぐ。
それでも網膜越しに光を感じる辺り、結構な光だったのだろう。
「……頃合いかな?」
「えっ? その声……」
「いくらなんでもそれだけの光を出せば、アルカもユウが強敵か面倒な相手と出くわしているって気づく。となれば、俺が逃げようとしても捕まるからなー」
「その言い草って……師匠!? えっ、どうして師匠が……」
どうやらクラーレから、何か聞いていたわけではないようだ。
まあ、お陰でちょうど動揺もしている、なので逃げるのにもピッタリだ。
「──なんて話している内に、アルカが来そうだからもう帰るぞ。じゃあな、ユウ」
「待って、少しだけ──!」
「いや、殺されるから」
「師匠ぉおお!」
憑依を解除して、霊体と僅かな魂魄をアンデッドから引き剥がす。
それと同時に、ユウのすぐ傍に誰かの気配が感じ取れた。
……危ない危ない、あと少しでアルカに捕まる所だったよ。
◆ □ ◆ □ ◆
肉体に霊体と経験を積んだ魂魄を還元し、少しだけ休憩を取る。
馴染ませるためにも必要だし、先ほどまでの苦労を思うと……普通に休みたかった。
「……貴様」
「ん? ああ、騎士か。いちおう言っておくが、ちゃんと祈念者だけに絞って攻撃しているから、俺が攻撃される筋合いは無いと思うが……どうしたんだ?」
「アレは、アレはいったい何なのだ!?」
「アレ? えっと……たぶん、さっきの魔法のことだよな。アレはアルカっていう祈念者が単独で、しかも一から術式を組み上げたオリジナルの魔法だ。アイツは【賢者】でもあるから、だいぶイカれた魔法が使えるぞ」
どうやらこの花畑からでも、アルカの流星雨は観測できたようだ。
今の俺では分からないが、おそらく瘴気追尾型の魔法だったのだと予測ぐらいできる。
そんな魔法なので、こちらにも間違いなく来たはずだ。
被害がいっさい見受けられないのは……なるほど、騎士が全部防いだからか。
「祈念者とは、これほどのことができる者たちなのか」
「あー、アレは特別だ。祈念者でも最高峰の魔法使いだし、他の追随を許していない。他の祈念者があの域に達するのは、もう何年も後のことになるだろう」
できないとは言わないが、それには膨大な時間と経験が必要になるはずだ。
原始人にいきなりタイムマシンを作れと指示しても、無理なのと同じである。
騎士がアルカの魔法をどう捌いたのかは不明だが、祈念者の膨大な数で攻められれば敵うまい……そういった意味でも、警戒を強めたのだろう。
「分かってくれたか? 祈念者は死んでも終わらない、つまり何度でも同じことができるわけだ。仮に命を代償により強い力を発揮できるのであれば……」
「……貴様がそれほどまでに祈念者に固執するのは、そのためか?」
「さて、どうだろうな。いつまでもこのままもアレか……ふははは! 騎士よ、貴様は私の言葉に従えばよい。あの娘は違うが、中にはその力を悪意に、無辜の者たちに使う連中もいる……そのための刃となるのだ」
アルカという力の権化を見たことで、考えも改めただろう。
何もしなければ、自由民には蹂躙されてしまう者たちが居る。
もちろん祈念者にも弱者は居るが、彼らには死に戻りがあるのでやり直しが効く。
しかし自由民は一度切りの人生、同じように扱ってはいけないのだ。
「貴様の目的はなんだ」
「ふっ、知れたことを……はぁ、そんな目で見るなよ。祈念者でも自由民でも、人族でも魔族でも、悪は裁く。ただ、俺はあくまでも偽善としてそれをやる」
「偽善だと?」
「そう。絶対の正義なんて狂っているし、悪の美学なんて面倒臭い。あくまで俺は俺のために、正義を振りかざす奴や悪事を働く奴らに手を出すんだ」
別に騎士が賛同してくれなくても、契約の効果でしばらくは傍観に徹するだろう。
今は魔族を殺すことしか考えていないみたいだが……うん、いろいろと考えてほしい。
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