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偽善者と裏切る者 二十九月目

偽善者と魔族前線基地 その10

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 ──屍食鬼グール

 生物の肉、特に人肉を喰らったアンデッドが進化する種族。
 生者の肉を喰らうことで、彼らはより強大な身体能力と種族性質を獲得する。 

 その代償は更なる餓え、中でも必ず生物を捕食することでしか満たすことのできないという枷を与えられてしまう。

 中でも職業名を冠した屍食鬼は、その種族に類似した職業を持つ生者を食べねば満腹感が得られないようになる。

 だがその代わりに、食えば食うほど通常よりもその職業名に応じた能力が高くなるという特殊な性質も兼ね揃えていた。

 これは捕食系のアンデッドに多く見受けられる性質だが、その性質が顕著に見受けられる理由は──食らうことで、職業名を獲得する個体が発見されたからだ。

 そのため屍食鬼には、多くの職業名を有した個体が見つかっている。
 それは貴族階級を有する吸血鬼よりも、ある意味において厄介な種族であろう。

 参考文献:『アンデッド図鑑 第九十版』

  □   ◆   □   ◆   □


 ──なんて図鑑を読んだ記憶があったのでなってみたが、その恩恵は使えない。

 祈念者は死に戻りするので、職業を食らえる確率が低いのだ。
 自由民を食べた場合も、その個体の優劣で変化はあるが二、三割程度だろう。

 さらに言うと貰える職業はランダム、なぜならそれまでに就いていた職業すべての中から抽選されるからだ。

 しかも、下級職の方が当選確率は高い。
 ……なんて情報もネロマンテと解析班で調べ上げてくれているので、図鑑に載っているほど便利な種族ではないのだ。


「細胞活性で指の爪を伸ばして、指力強化を調整して爪まで延長。ついでに身力制御でさらに強さを高めて──『引爪クロー』」

「あが……っ!」

「次は駆足と脚力強化で近づいて、怪力と剛力と握力強化、それと指力強化で一気に強くして……ギュッと」

「うぎゅっ!?」


 身体機能が高いことを生かして、それでもいろいろとやっている。
 ノゾムではできないこと──それは暗殺、なので少々やりたい放題していた。

 いちおうスキルに関しては、新規習得だけ封じているが派生は可能にしてある。
 要はこれまで習得したスキルを、この状態でどれだけ応用できるかということだ。


「北東制圧っと……このまま東まで行くか」

『うごぁあああ……』

「行け、アンデッド共。祈念者限定で、恐怖と絶望を叩き込め」


 祈念者、そして一部の学生や教員たちで防衛している現状だが、彼らは南にのみ集中しているので暴れたい放題だ。

 他は祈念者だけ。
 もともと祈念者は統率が取れない烏合の衆でもあるので、そちらの方が楽なのだ。

 ついでに言うと、魔族は全方位から来ているが、西と東はどちらかというと……というより思いっきり南に近い形で来ている。

 だから北側は、少しだけ薄い。
 今ではもう死に戻りした祈念者が報告を重ねているため、もうそろそろ厄介な連中が来ると思うが……俺も準備はできている。


「さて、少し探知を広げ──ッ!?」


 一気に距離を広げ、ここを取り返そうとする祈念者を見ようとした。
 それが功を奏し、この後起きうる事態を把握できた俺は──すぐに逃げる。

 何が起こるのか、それはこの戦場のどこに居ても分かっただろう。
 それはすべての戦場で、同時に起きた出来事──空から降り注ぐ、流星の雨。

 アンデッドだけでなく、他の場所で戦っていた魔族にもそれは向けられている。
 聞こえなかったはずの声も今ならば聞こえてくる……そう、阿鼻叫喚の悲鳴が。


「このタイミングで来るか……アルカ」


 魔法を避けた段階で、防壁の内部に逃げ込み部屋の一室に入った。
 どうやら周りに配慮してか、ギリギリ建物などが壊れないようにしているみたいだし。

 魔眼スキルというか、前提である視力強化スキルを得ていたので同時に使用。
 それらが視認したのは、中央にある学園の上空で佇む一人の少女。

 その手には長杖を握り締め、今なお主戦場である南に鋭い視線を向けていた。
 そして、再びその杖を振るった時──激しい雷が至る所で降り注ぎ始める。

 まだ俺には気づいていないようだが、いずれはバレるだろう──肉体の方が。
 そしてそこに俺の意識が無いことに気づいて、さらにキレるところまでが一連の流れワンセット

 今は主戦場の南以外は無差別に攻撃して、魔法をぶちかましているだけだろう。
 他の祈念者たちの邪魔をしないように、魔法の調整もあるだろうから時間はある。


「隠蔽、隠密、暗躍を起動っと、身力は漏れないように操作して制御しよう」


 隠れ潜む内に潜伏スキルを獲得。
 今は状況が状況なので、きっとスキルの方が俺を救うために配慮してくれたのかもしれないな。

 すぐに起動して、さらにその身が周囲に溶け込めるようにする。
 ついでに我慢スキルで、体のいっさいが動かないようにすることも忘れないぞ。


「見つかったらマジで殺されるだろうし、まさに命懸けのかくれんぼだな」


 並列思考と高速思考で悪知恵スキルをさらに加速させ、集中スキルで考えを深める。
 言葉で説得……は不可能だし、力づくで抵抗……も難しいだろう。

 結局のところ、普通の手段で勝てないのが現状である。
 だからこそ、頭を使って今あるスキルでどうにかしようと考えないとな。


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