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偽善者と裏切る者 二十九月目
偽善者と魔族前線基地 その08
しおりを挟むというわけで、たった一人の死霊術師が行う侵攻作戦の始まりだ。
同時に魔族たちも攻めることになるが、ある意味独立しているのであまり関係ない。
俺は都市を北側から攻めろと言われ、その指示通りにまず移動した。
そこで隠れ潜んだまま、魔族が行動を開始する瞬間を待つことにする。
「──そっちはもう着いたのか?」
《ええ、すでに侵攻に備えて防衛を始めています……指示された通り、あくまでもそちらから分からないように》
「勘づかれたと分かれば、怪しむだろう。攻め始めて気づきました、そう思わせないといけないんだよ」
その間、クラーレとやり取りをして人族側の情報収集も忘れない。
学芸都市ライフィア側も、優秀な学生たちの力も借りて防衛をする気なんだとか。
《わたしもこの世界であれば、より学校を楽しめたかもしれませんね。魔法や職業の授業などもありますので》
「そんな現代ファンタジーみたいな話は、夢物語だからこそいいんだよ。自分がやりたいことだけできるわけじゃない、勉強だってその分面倒なことが多いはずだぞ?」
《うぐっ……たった今、シガンにも似たようなことを言われてしまいました》
「まあ、現実でそんなつまらない授業だったからこそ、シガンと出会えたって思っておいた方が気が楽だぞ。合縁奇縁、何でも都合よく考えた奴が一番幸せなんだよ」
俺は……うん、思い出さなくてもいいか。
臭い物に蓋をする、じゃないけどわざわざ過去を詮索する必要なんてない。
というか、そんなにエピソードが無いありふれた生活だったからな。
《そういった考え方もあるのですね……ところで、メルスはいったいどちらへ? なぜか気配を消しているようですが?》
「まあ、男には内緒にしたい時間だってあるみたいな理由じゃダメか?」
《……別にいいですけど。わたしには、メルスの時間を束縛などできませんので》
「悪いな。ただ、近い内に今の状態で顔を合わせるかもしれないから、そのときはちゃんと加減してくれよ」
クラーレは聖職者なので、死霊術師プレイ中の俺には最悪の相性だ。
ガーが認めないので使わないとは思うが、[ベネボレンス]有りなら大敗だろう。
《……どこを、攻めるのですか?》
「さて、どこだろうな。攻めること自体は否定しないから、じっくり見つけてくれ。分からないように存在は偽っているから、スキルレベリングにも最適だぞ」
《そう、ですね。では、すぐにメルスを見つけます──あのお二人といっしょに》
「ん? えっ、ちょっと、今クラーレと居るのって誰なんだ──!?」
言い終わる前に念話が遮られてしまい、その正体は暴けなかった。
だがなんだろう、とても嫌な予感が……物凄い強敵が居るのかもしれない。
「なら、こっちもそれなりに力を注いだ方がいいかもな──[屍魂の書]展開っと」
自分専用の魔本[夢現の書]を開き、特定のページを選択する。
それはネロと俺で共有している、アンデッド系の存在を蒐集した魔本。
嫌な予感もするので、こちらもそれに対抗できるだけの戦力を揃える必要がある。
……本来なら元死者の都の方々のコピーを使いたいが、さすがにそれはやり過ぎだ。
「となると……これだな──『死配霊』」
位階1の『堕霊』が、二段階進化を遂げて至ることができる死を統べる霊体。
まずは仮初の指揮官として、このアンデッドを配置しておく。
「あとは『悪夢霊』、『恐慌騎士』、それに『魂剥英霊』と『邪骨《イビルスケルトン》』や『僵尸』とかでも配置しておこうか」
あとはある程度指揮下に収めることができる個体をチョイスして、召喚していく。
ネロが有り余るほど保有しているので、ストックは気にせず大量にだ。
……魔本に保存してあるのは、持っているアンデッドの中でも中の上ぐらいだし。
アイツのお気に入りは、俺が渡した指輪の中に保存されているだろう。
「あとは状況に合わせて召喚していけばいいかな。そうそう、支援しておかないと」
アンデッドたちすべてに支援を行き届かせたいならば、[屍魂の書]を介して魔法を使えば実現可能だ。
相応の魔力をごっそりと消費するが、まだ戦いは始まっていないのでちょうどいい。
すぐにポーションを飲んで準備を整え、次の作業に移行する。
「──“死体蒐集”。どうだ、騎士よ。これが我が死霊軍団よ」
「……これだけの数のアンデッドを」
「その数およそ数千。我が師ネロマンテ様が保有する万の軍勢に比べれば劣るが、善戦することはできるだろう」
「…………」
まあ、無職の人族がやることではないのはたしかだが。
それでもこれだけの数を用意したのは、二つの目的があるからだ。
「だが、これだけ揃えても善戦程度。やはり祈念者たちには劣る」
「話していた、真の強者たちか」
「死を繰り返すことに捕らわれず、その生を足掻く者もいる。そういう者たちの中から、時折現れるのだ。強大な力を有し、私の覇道に異を唱える者が」
騎士はまだ、牢の前で見つけた祈念者しか知らないので見解も狭いだろう。
だが今回、無双する祈念者を見れば考えを改めると思われる。
どうせ無双されるのは確定事項なので、どれだけそれがえげつないのかをその目で見てもらいたい。
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