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偽善者と裏切る者 二十九月目
偽善者と魔族前線基地 その07
しおりを挟むある意味、結果は同じだったのだろう。
記憶の消去などは行わなかったので、必ず魔族が占拠した砦の情報は人族側に漏れてしまっている。
そのうえ、俺がクラーレたちに侵攻があること自体は伝えていた。
だからだろうか、こちらの準備が終わる前に事が始まりだす。
「──人族共が愚かにも、我らへの反攻を企てているようだ。どうやら昨晩、賊が潜り込み解放を行ったようだ。奴を拷問した際、その情報が判明した。なお、そいつは祈念者であったため、すでに逃げているだろう」
総隊長である魔人が、俺たち魔族を集めてそう告げた。
ザワッとなった空気をすぐに沈め、より細やかな情報を開示しだす。
とりあえず昨日の出来事は、すべて例の祈念者がやらかしたことということにした。
彼は無事、挑発をしたうえ情報を漏らし、死に戻りをして消える。
まあ、なんとなくそうするだろうなぁという予感はしていたし。
魔族側も厄介なゾンビ集団のことは分かっているので、こうして準備を始めている。
「今回の足掻きには間違いなく、厄介な祈念者共が介入してくるだろう。先の水上都市侵攻作戦が失敗に終わった以上、そこに注がれていた戦力もこちらにやって来る。完全に終結する前に、こちらから打って出るのだ!」
『うぉおおおおおおおお!』
「決行は日の出と共に! 偉大なる魔王様に栄光あれ!」
『──栄光あれ!』
なんともまあ、盛り上がれるものだ。
ちなみにこの情報は漏らさない、このままだと魔族が不利なのは事実だし。
……だからこそ、手助けぐらいはな。
「──“蔓延混手”!」
「貴様は……ガイストか、何を──」
『うわっ、くそ……自決できな……ごっ!』
「ご覧のように、ネズミを」
魔法を使った直後は怪しまれたが、遠くで聞こえた悲鳴でそれは収まる。
魔法で触手を生成して、隠れていた間者を捕縛したのだ。
さらに魔法を操作して、捕らえた下手人を運び出す。
相手は祈念者、どうやらギリギリまで情報収集をしたかったようだな。
「このガイスト、愚かにも魔王軍に歯向かう輩を捕らえて見せました」
「うむ、よくやったぞ。先の下剋上といい、なかなかの手練れであるな」
「お褒めに与り恐悦至極。侵攻の際は、ぜひ我が死霊軍団にご期待を」
大半の魔族は、純粋に力を持った俺を賞賛している。
割と弱肉強食な環境なので、こういうことでも人気は上がるのだ。
ただ、そういう成り上がりを好ましく思わない奴らも居るわけで……先の刺客といい、俺は一部の魔族からは嫌われている。
さすがに全員から嫌悪されるのは不味いと思い、<畏怖嫌厭>に引っかからないようにしているので、スキルの影響ではなく純粋に立ち振る舞いのせいだろう。
「……貴様、本気か?」
「私は少しでも早く、そして広くネロマンテ様の異名と威光を轟かせねばなりません。どのような場所でも扱いでも構いません。どうか私に、前線で死者を使う許可を」
「本来であれば、そのような発言は許されざるものではない……が、今は非常時。貴様のような者が独断で、独りで動くというのであれば何も言うまい」
「ハッ! その慈悲に感謝を!」
とりあえず、俺が前隊長から引き継いだ部下は全員没収。
そのうえで、俺だけで都市の一角を攻撃するということに。
要は囮、その間に魔族たちは何かをすることになるわけだ。
俺が捕まった際にその情報が漏れないように、隔離されてしまったのでそれは不明だ。
……なんてことはなく、死霊を使ってそちらの情報はバッチリである。
「我が騎士よ」
「──なんだ?」
「祈念者であれば、構わないか? 殺さずとも良い、無力化できないか?」
「何のために? 祈念者の反攻を許せば、そのまま魔族を屠ることができるというのに」
騎士の目的は魔族を殺すこと。
いちおう俺の言うことは聞いてくれてはいるけども、その根幹は変わらない……交渉もしっかりとやらないといけない。
「大局的に考えてみろ。なぜ、敗北した? 驚異的な戦力が確認されれば、敵対勢力もまた相応の戦力を出してくるだろう……四天王が現れたようにな」
「っ……!」
「いずれは魔王の下へ辿り着くだろう。その手段を有しているのであれば構わんが、今の私にそれはない。さて、どうする?」
「……了解した。祈念者は無力化、だが民たちはこちらの采配でやらせてもらうぞ」
別に逃がしてもらっても構わないので、そこは受け入れる。
互いに最低限徹すべきことを理解すれば、これ以上揉めることは無い。
……さぁ、俺たちの戦争を始めよう。
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