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偽善者と裏切る者 二十九月目
偽善者と魔族前線基地 その06
しおりを挟む魔族、そして二人の人族をアンデッド化を施して後に使役した。
後腐れなくやることができるのは、やはり視た魂魄からして薄汚れていたからだろう。
「……ふむ、他の隊長が依頼者か」
「…………はい」
「ならば、殺して……いや、いい。それはこちらでやるべきことだったな」
従順になった魔族の刺客から、今回の依頼内容を聞き出した。
どうやら成り上がりのガイスト君が気に食わなかったらしく、手を出したそうだ。
ちなみに人族の方は何も知らなかった。
やはり過去に捕らえた奴らを、簡易で暗殺者に仕立て上げただけらしい……つまり、まだ居るわけだな。
要は済んだので、刺客たちは“死屍蒐集”の中へ押し込んでおく。
残ったのは俺と騎士、そして前隊長の三人である。
「我が騎士よ」
「……いいのか?」
「先の件で、貴様でも人族を屠ることができると分かったからな。こうして他の魔族が隷属させられる現状よりは、一部を解放してでもアンデッドを確保した方が良いだろう」
騎士は連れていかれなかったようだが、大半の人族は一度牢屋に入れられるらしい。
今回の連中もそこから引っ張り出されて、俺の暗殺に使われたようだ。
なので今回、それを根こそぎ奪ってやろうという計画を立てた。
善人は解放、悪人は……殺してアンデッドにするつもりだ。
「互いに益のある話だ。それに、善人はアンデッドにしてもあまり強くならないからな」
「……礼は言わない」
「構わぬよ──それでいいだろうか?」
「…………」
ちらりと前隊長の方を確認するが、彼は何も言わない。
俺がただ純粋に魔王軍に貢献したいなど、もう毛ほども思っていないだろう。
だが彼の脳内において、俺は逆らえば死をもたらす死神のような存在。
ここぞというタイミングと手段を持たない限り、従順で居続けるであろう。
◆ □ ◆ □ ◆
まあ、あり得る可能性はあった。
人族が囚われていて、こうして隷属させては何かしらの目的に用いているのだ。
今は祈念者という何でもありな存在がのさばり、自由に行動している。
つまりはここで拘束され、また自決で死に戻り逃げた奴もいる可能性も……。
「──というわけで、これが祈念者だ」
「…………」
「命を擲ち、人族を救いに来た……と言えば聞こえはいいが、要は覚悟も無く命を捨てて情報を集めに来ただけだ。多少隠れることに力を伸ばしているようだが、こうして捕まれば先ほどのようなことをする連中でもある」
前隊長の案内で人族を捕らえた牢を訪れたそのとき、檻の外に居る人族と遭遇した。
脱走かとも思ったが、その格好から違うと察する。
でまあ、少し会話をしたらすぐにコイツが祈念者だと判明した。
言っていることが、自由民では分からないことだったからな。
さて、そんな祈念者の男は現在気絶して何もできないでいる。
最初は猿轡だけだったんだが、意外と器用に[メニュー]を操っていたからな。
「……自決とは?」
「ピンチになると、どんな場所でも死ぬことができる彼らの権能だ。囚われていても、隷属させられていても、自身が望まぬ結末に至る時、奴らは己を殺すことで再び肉体を異なる場所で再構築するのだ」
「……覚悟を持たないとはそういうことか」
「お陰で奴らを実験する際は、意識を奪わねばならない。そうしていても、命の危機となれば強制的に自決扱いとなって消える場合があるのだがな」
まあ、それもネロがだいぶ研究して、いくつか手段は考えているらしいが。
俺にはできない方法なので、逃がしてしまうことになるだろうな。
「さて、騎士よ。これが私の忌々しい敵だ。その実態を見て、どう思った?」
「……たしかに、彼らは救う必要のない存在なのだろう。一方的に殺すというのであれば協力はしないが、人となりを見て、判断次第では協力しよう」
「今はまだ、それでよかろう。さて、この祈念者が成そうとしていたことを成そう」
縛った祈念者は前隊長に預けて、俺と騎士は人族が囚われた牢の部屋へ向かう。
そして内部には、予想通り多くの人族がだいぶ弱った状態で捕えられていた。
「ふっ、なんとも臭い場所だ。こんな場所には居られないな」
「……何を?」
「我が騎士よ、代わりに善悪の選別は貴様がやっておくのだ……これがポーション、そしてこの中に────おくのだ」
「そのようなことが、できるのか?」
俺が渡した二つのアイテム、その片方でやるべきことに違和感を覚えているようだ。
まあ、普通ならできないだろうしな……だが俺は生産神の加護持ちなのでできました。
「気絶させることが好ましいがな。内部を認識して、どう考えるのか分からぬ」
「……了解した」
騎士が胸に手を当ててポーズを取る姿を見た後、俺は部屋を出ていく。
しばらくしたら、無数の死体を運び込んでくれるだろう。
「もういいのか、ガイストよ」
「うむ。私は死霊術師ではあるが、あまり悪臭には耐性が無いからな。あの騎士に、すべてを委ねてきた」
「……大丈夫なのか?」
「構わぬよ。これで奴は、よりいっそう私に逆らえなくなる。雑魚の命の使い方とは、こういったものだろう」
まあ実際、今回の作戦も俺が居たからこそできたと認識するはずだ。
こういうことの積み重ねが、本来は必要なことなんだろうな……。
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