上 下
1,844 / 2,518
偽善者と裏切る者 二十九月目

偽善者と魔族前線基地 その06

しおりを挟む


 魔族、そして二人の人族をアンデッド化を施して後に使役した。
 後腐れなくやることができるのは、やはり視た魂魄からして薄汚れていたからだろう。


「……ふむ、他の隊長が依頼者か」

「…………はい」

「ならば、殺して……いや、いい。それはこちらでやるべきことだったな」


 従順になった魔族の刺客から、今回の依頼内容を聞き出した。
 どうやら成り上がりのガイスト君が気に食わなかったらしく、手を出したそうだ。

 ちなみに人族の方は何も知らなかった。
 やはり過去に捕らえた奴らを、簡易で暗殺者に仕立て上げただけらしい……つまり、まだ居るわけだな。

 要は済んだので、刺客たちは“死屍蒐集ゴーストコレクト”の中へ押し込んでおく。
 残ったのは俺と騎士、そして前隊長の三人である。


「我が騎士よ」

「……いいのか?」

「先の件で、貴様でも人族を屠ることができると分かったからな。こうして他の魔族が隷属させられる現状よりは、一部を解放してでもアンデッドを確保した方が良いだろう」


 騎士は連れていかれなかったようだが、大半の人族は一度牢屋に入れられるらしい。
 今回の連中もそこから引っ張り出されて、俺の暗殺に使われたようだ。

 なので今回、それを根こそぎ奪ってやろうという計画を立てた。
 善人は解放、悪人は……殺してアンデッドにするつもりだ。


「互いに益のある話だ。それに、善人はアンデッドにしてもあまり強くならないからな」

「……礼は言わない」

「構わぬよ──それでいいだろうか?」

「…………」


 ちらりと前隊長の方を確認するが、彼は何も言わない。
 俺がただ純粋に魔王軍に貢献したいなど、もう毛ほども思っていないだろう。

 だが彼の脳内において、俺は逆らえば死をもたらす死神のような存在。
 ここぞというタイミングと手段を持たない限り、従順で居続けるであろう。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 まあ、あり得る可能性はあった。
 人族が囚われていて、こうして隷属させては何かしらの目的に用いているのだ。

 今は祈念者という何でもありな存在がのさばり、自由に行動している。
 つまりはここで拘束され、また自決で死に戻り逃げた奴もいる可能性も……。


「──というわけで、これが祈念者だ」

「…………」

「命をなげうち、人族を救いに来た……と言えば聞こえはいいが、要は覚悟も無く命を捨てて情報を集めに来ただけだ。多少隠れることに力を伸ばしているようだが、こうして捕まれば先ほどのようなことをする連中でもある」


 前隊長の案内で人族を捕らえた牢を訪れたそのとき、檻の外に居る人族と遭遇した。
 脱走かとも思ったが、その格好から違うと察する。

 でまあ、少し会話をしたらすぐにコイツが祈念者だと判明した。
 言っていることが、自由民では分からないことだったからな。

 さて、そんな祈念者の男は現在気絶して何もできないでいる。
 最初は猿轡だけだったんだが、意外と器用に[メニュー]を操っていたからな。


「……自決とは?」

「ピンチになると、どんな場所でも死ぬことができる彼らの権能だ。囚われていても、隷属させられていても、自身が望まぬ結末に至る時、奴らは己を殺すことで再び肉体を異なる場所で再構築するのだ」

「……覚悟を持たないとはそういうことか」

「お陰で奴らを実験する際は、意識を奪わねばならない。そうしていても、命の危機となれば強制的に自決扱いとなって消える場合があるのだがな」


 まあ、それもネロがだいぶ研究して、いくつか手段は考えているらしいが。
 俺にはできない方法なので、逃がしてしまうことになるだろうな。


「さて、騎士よ。これが私の忌々しい敵だ。その実態を見て、どう思った?」

「……たしかに、彼らは救う必要のない存在なのだろう。一方的に殺すというのであれば協力はしないが、人となりを見て、判断次第では協力しよう」

「今はまだ、それでよかろう。さて、この祈念者が成そうとしていたことを成そう」


 縛った祈念者は前隊長に預けて、俺と騎士は人族が囚われた牢の部屋へ向かう。
 そして内部には、予想通り多くの人族がだいぶ弱った状態で捕えられていた。


「ふっ、なんとも臭い場所だ。こんな場所には居られないな」

「……何を?」

「我が騎士よ、代わりに善悪の選別は貴様がやっておくのだ……これがポーション、そしてこの中に────おくのだ」

「そのようなことが、できるのか?」


 俺が渡した二つのアイテム、その片方でやるべきことに違和感を覚えているようだ。
 まあ、普通ならできないだろうしな……だが俺は生産神の加護持ちなのでできました。


「気絶させることが好ましいがな。内部を認識して、どう考えるのか分からぬ」

「……了解した」


 騎士が胸に手を当ててポーズを取る姿を見た後、俺は部屋を出ていく。
 しばらくしたら、無数の死体を運び込んでくれるだろう。


「もういいのか、ガイストよ」

「うむ。私は死霊術師ではあるが、あまり悪臭には耐性が無いからな。あの騎士に、すべてを委ねてきた」

「……大丈夫なのか?」

「構わぬよ。これで奴は、よりいっそう私に逆らえなくなる。雑魚の命の使い方とは、こういったものだろう」


 まあ実際、今回の作戦も俺が居たからこそできたと認識するはずだ。
 こういうことの積み重ねが、本来は必要なことなんだろうな……。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?

破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。 そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。 無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた… 表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと イラストのurlになります 作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)

虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

俺と異世界とチャットアプリ

山田 武
ファンタジー
異世界召喚された主人公──朝政は与えられるチートとして異世界でのチャットアプリの使用許可を得た。 右も左も分からない異世界を、友人たち(異世界経験者)の助言を元に乗り越えていく。 頼れるモノはチートなスマホ(チャットアプリ限定)、そして友人から習った技術や知恵のみ。 レベルアップ不可、通常方法でのスキル習得・成長不可、異世界語翻訳スキル剥奪などなど……襲い掛かるはデメリットの数々(ほとんど無自覚)。 絶対不変な業を背負う少年が送る、それ故に異常な異世界ライフの始まりです。

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

処理中です...