1,840 / 2,518
偽善者と裏切る者 二十九月目
偽善者と魔族前線基地 その02
しおりを挟むというわけで、再び俺は前日同様に砦の外で戦うことになった。
軽く準備体操をして体の調子を整え、仕込みのために魔力を周囲に散らしておく。
死霊術師はアンデッドの使役に負の魔力が必要なので、周囲に瘴気を散らしてその量や質を上げておく必要がある。
基本的に大規模な闘いなどでは勝手に増えるので、そういう場所だと死霊術師は大活躍なんだよな……だが、それができないからこそ、こうして地道に用意しているのだ。
「準備はいいか、ガイストよ」
「ふっ、望むところ」
「ならば……おい、この場を綺麗にしろ!」
俺に確認を取った隊長は、なぜか魔族の魔法術師団に声を掛ける。
何をするのかと思えば……うん、強化魔法と周囲の洗浄をやらせていた。
うわぁと思っても、俺は悪くない。
仕込みはすべて消されたし、隊長は強化された……いやはや、ここまで圧倒的に差を見せつけられるとは。
「文句はあるまいな?」
「……いや、あるな。隊長、あの騎士以外であればアンデッドを出しても良いのか?」
「無論だ。貴様自身にバフを施すでも、好きなことをするがいい」
「では──“死体蒐集”」
亜空間から取り出すのは、同じく魔法系のアンデッドだ。
そして、いくつかの魔法を発動させ──俺にはデバフ、隊長にはバフを掛けた。
「……何の真似だ?」
「いや、素晴らしい仕込みだと思ってな。私の小さな行いなど、なんてちっぽけなことかと後悔してしまった。ゆえに、こうして新たな仕込みをしただけだ──対等に戦うため、のだがな」
周囲は大盛り上がり、どこからともなく血祭コールが上がっている。
うん、目の前の隊長もイケメンフェイスのはずなのに、その目が笑っていないや。
「なかなかに、面白いことを言うな」
「ならば、心の底から笑うが良い。これから起きるそのすべてが、大衆の爆笑を生む名喜劇となるのだからな」
「……なるほど、つまりガイストはこういいたいのか。私が、貴様程度の者に完膚なきまでに叩きのめされると?」
「はて、何を仰っているのか。そのようなことは言っていない──ただ、自然と笑みが零れる、そんな微笑ましい戦いになるだけだ」
要するに、まるで児戯に等しい戦いになると言っていることになるのか?
もちろんそれは、俺の闘いが縛りプレイ前提だから言っているわけだが……。
「いいだろう。ならば、こちらも全力で応えてやろうではないか」
「さすがは隊長。いえ、これからは元隊長ですね……覇道の礎、その始まりとして刻んでおきましょう」
あえて丁寧語に戻して、敬意を表しているはずなんだがな……全然変わらないや。
これ以上の関係改善は無理だろうなぁと内心思いつつ、決闘の準備を始める。
「改めてルールの確認だ。貴様と私、互いに一撃ずつ攻撃を交わす。戦闘不能になる、もしくはリタイアを自身の口から告げることが勝敗の決定条件だ」
「……いいだろう、いろいろと裏がありそうではあるが、それも含めて満喫してみようではないか」
というわけで、戦いは始まった。
一撃を受けるだけでいいというシンプルなルールではあるが、それゆえに先ほど繰り広げられたような仕込みが行いやすい。
「では、互いに一度目だ。準備は良いな?」
「うむ、いつでも」
静寂が場を支配する。
共に魔力を高めると、いつでも一撃を放てるようにその状態を維持していた。
そして、準備を整え終えたそのとき、砦から落ちたナニカの音に合わせて……動く。
「喰らえ、“死──」
「──『縮地』」
「「「「「はっ?」」」」」
何やら即死しそうな魔法を撃ちそうな隊長だったが、それが発動する前に俺は隊長に向けて──突進していた。
魔力は高めていたが、別に魔法の準備をしていたわけじゃない。
ただ単に、身体強化をして突撃する際に耐え得る体作りをしていただけのこと。
「し、死霊術師が……」
「体を鍛えるはずがない、と? 私が偉大なるネロマンテ様に師事を受ける前、ただ何もしていなかったとでも? そして、それ以降もある程度策は整えていた……このように、誰もが愚行に走るからな」
あくまで演じているだけなので、スキルが無くとも身体強化そのものはできる。
今回はその死霊術師が肉弾戦をするわけないという、隙を突いただけのこと。
「さて、回復魔法もこのアンデッドは使えるのでな。施しだ、先に治しておくがいい」
「……なんのつもりだ?」
「敗北条件は二つ、戦闘不能か本人の意思による降参。だがしかし、隊長はまだそれを言いそうにないからな。全身全霊、心の底からそれを言わせるためにも、しっかりと回復してもらわねば困るよ」
魔族たちは、これまた歓声を上げる。
大番狂わせの展開に加え、俺が送った応援に感動しているのだから。
意識して言ったつもりだが、どうやらこれもしっかりと受け取ってもらえたようで……回復魔法を受けて体を万全な状態に戻した隊長は、一言呟く。
「……ルール変更だ」
「ほぉ、一向に構わないが。いったい、どのようなものとなる?」
「──ここからは、真剣勝負だ!」
うん、挑発をし過ぎたみたいだな。
だがまあ、そのルールはこちらとしても好都合だ──さて、こうなれば最初から決めていた通りにやろうじゃないか。
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?
破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。
そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。
無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる
そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた…
表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと
イラストのurlになります
作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~
三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】
人間を洗脳し、意のままに操るスキル。
非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。
「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」
禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。
商人を操って富を得たり、
領主を操って権力を手にしたり、
貴族の女を操って、次々子を産ませたり。
リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』
王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。
邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる