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偽善者と裏切る者 二十九月目
偽善者と魔族前線基地 その01
しおりを挟む翌日、俺は基地の中で目を開いた。
寝ていたわけじゃない、ただ目を閉じて縛りやらこれからのことについて考えていただけのこと。
この場に、魔族は誰も居ない。
死霊術師は希少なので、元から部屋は個室が用意されていた……うん、つまりここは、祈念者に殺された奴が使っていた場所だ。
睡眠不要、血液不要、そして飲食不要。
そんな不要系スキルを持ち込んでいる今の俺は、ただボーっとしているだけで時間を過ごすことができる。
そうして朝が来るまで時間を潰し、いくつか目的を定めたところで……起床した。
そして、伸びやら着替えやらを済ませて、準備ができたところで起き上がる。
「というわけで、今日も一日頑張ろうか」
「…………」
「おいおい、どうした? ちゃんと契約を交わしたんだ、付いてきてくれよ?」
「……あのときから思ってはいたが、その落差に驚いているだけだ」
俺が話しかけたのは、用意された部屋の隅で立っていた騎士だ。
そう、あれから契約を交わして、俺はこの騎士と仮初の主従関係を結んでいる。
いくつか条件は課せられたものの、基本的には俺の言うことを聞いてくれるそうだ。
……まあ、主に俺の身を守ってくれるという契約になっているぞ。
それで、俺がいつまでも素を隠すこともできないので、そこは曝け出した。
いろいろと見せることで、秘密の共有関係みたいにしてなあなあにしただけだがな。
「しばらくは、地位を上げるための活動になると思う。とはいえ、間もなく例の都市への侵攻作戦もあるから、あまり時間も無い。より干渉可能な地位に近づくため、お前にも協力してもらうからな」
「……それで無辜の民が救われるのならば、私も協力しよう」
「最初からそう言っているだろう? 俺が基本的に殺すのは、祈念者たちだけだ。アイツらは死なないし、死んでも蘇る。アンデッドよりも充分アンデッドな連中だ」
「それも含め、いずれ調べさせてもらうぞ」
俺がどんな情報を渡しても、騎士は必ず疑うだろう。
なので、そこに関しては俺も自分で調べてもらいたかった。
善いヤツも悪いヤツもいる、だがその考えがAFOという概念を基にしたものだということを。
◆ □ ◆ □ ◆
魔族の在り方はシンプル──弱肉強食だ。
一部は血による派閥などもあるが、それすらも圧倒的な力さえあれば捻じ伏せられる。
血の繋がりが生みだした最強の存在を、倒すことさえできれば反論できないからだ。
初日の夜に、勝利を重ねれば四天王にでもなれると聞いたので間違いない。
ちなみに前線基地の総大将になるなら、ここの総大将に加えて任命した四天王を倒せばいいらしい……あっ、そうだ、一番重要なことを忘れていた。
──騎士が敗北したのは、なんと四天王の一人らしい。
運がいいのか悪いのか、無双中にその四天王と戦って負けたんだとか。
むしろそれ以前はすべてを薙ぎ払う勢いで魔族を屠り、負け知らずだったそうだ。
「……つまりはそういうことだ。私、ガイストは隊長に下克上を申し立てる!」
「ほぉ、ガイスト。いずれはそうなると思ってはいたが、まさか翌日とはな」
「ふはははっ! 偉大なるネロマンテ様の威光を示すためにも、私はより強い肩書を得なければならない! 少なくとも、総大将という名で無ければな!」
下克上制度、いかにもな名前のこれで魔族たちは地位の取り合いをしている。
ルールは挑まれた側が決めて、その勝敗によって地位が変動するのだ。
問題は一定の地位は、その前提として一段階下の地位で無いと挑めないこと。
お陰で俺は、こうしてスカウトしてきた魔族のイケメンに挑まなければならない。
周りの魔族たちは大盛り上がり。
理由はシンプル、新人たちはこうしてすぐに調子に乗って下克上を挑むから。
そして、その結果はいつも判を押したように決まっている……だからこそ、その結果を望んでニヤついている。
「それで、隊長様。ルールはいかように?」
「それはいつも決めている。あらゆる手段を用いて、勝利すればいい。ただし、一撃ずつ交わし合ってだがな」
「……それはそれは、死霊術師である私にはなんとも不利な闘いでしょう」
「挑んできたのはお前だ、ガイスト。文句はあるまい?」
当然、挑まれた側は自分に有利な条件を提示してくる。
あらゆる手段、それは俺だけでなく隊長であるイケメン魔族にとってもだ。
そして、今の俺は非力な死霊術師。
そちらに才能が割り振られているので、肉弾戦は全然得意ではない。
「いいだろう。このガイスト、たとえどのような壁があろうと、それを打ち砕いて力を証明してみせよう! それこそが、偉大なるネロマンテ様だと信じ!」
「お、おう……そうか、やれるものならやってみるがいい」
うーん、ちょっと引いているな。
俺としても言ってからやり過ぎたな……と思うところがあったし。
狂信者っぽくやっている方が、何でも上手くいくんだよな。
勝手にそうだと理屈をつけてくれるし、アホだと蔑んでくれたりもするから。
「──言っておくが、あの騎士は使うなよ」
「…………当然だ」
さて、俺としては騎士に任せよう思っていたのだが……うん、どうしようかな?
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