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偽善者と裏切る者 二十九月目
偽善者と潜入試験 後篇
しおりを挟む真夜中、今日は雲によって月が陰に隠れ、より深い闇が支配していた。
魔族といえど、生物である以上睡眠は必要だ……大半の者たちが眠りに着いている。
おまけに今回、俺の歓迎会という名目で大騒ぎをしていたからな。
情報収集もできたし、こうして酔わせて警備を薄くすることもできた。
「──さて、ここでいいだろうか?」
俺は基地を抜け出し、少し離れた場所にある森の中へやってきていた。
泉が在るそこは、本来月の光が入って神々しいのだろうが……今は曇っている。
それでも場所的に、魔族から気づかれないだろうしここに来た。
使っていた隠蔽系の魔法を解除して、念のため結界を構築させておく。
……うん、魔法は自分ではなく魔法使い系のアンデッドに使わせていました。
そして今、自分で魔法を準備してこの場で発動する。
「──“死屍蒐集”」
本来、亜空間に使役したアンデッドを保存しておく魔法だが……少し用途が違う。
意外と制限が緩く、この魔法は特定の条件さえ満たせば、生きたまま保存が可能だ。
そしてその条件は──肉体を完全に密封した状態で、アンデッドに憑依された存在。
要するに、全身甲冑を装備した騎士などはそれに該当するわけだ。
「……ここは」
「ここはあの場所から少し離れた、魔物が出てこないセーフティスポットである。貴様は私の魔法で、生きたまま亜空間に移されてここにやってきた」
「ッ! 貴様!」
状況の説明も終わり、騎士自身が認識できたことで剣を抜いた。
だが、それは向けられたまま俺の首を刎ねることは無かった。
……正確には、それができないと言った方が正しいか。
鎧に憑依したアンデッド──『霊動鎧』が体の動きを抑制しているからだ。
「無駄だ。あれからいったい、どれだけ時間が経っていると思う? すでに貴様の聖鎧も我が霊体が掌握済みだ。先ほどはとっさだった故油断したが……もう不可能だ」
「くっ……」
「そう邪険にしないでもらいたい。そもそもこのような機会があるのだから、それは貴様自身が理解しているだろう」
体の束縛を緩め、ある程度自由にする。
俺を攻撃したり逃亡することはできないだろうが、それ以外はほぼできるだろう。
「……なぜ、すぐにアンデッドにしない。こうして動く自由を与えて、何が目的だ?」
「それを問うということは、貴様自身話し合うことができると感じているな? 舌を噛んで死ぬこともできるはずだが、それでも話を聞くという選択肢を取ったのだからな」
「死んでしまえば、この体は貴様の物となり果ててしまう。無為な死を遂げるよりは、貴様の目的ぐらいは聞いておかないとな」
「くっくっく……そうか、そうであったか。まあよい、さっそく本題に入ろう」
自身の意思で剣を鞘に納めたことを確認して、俺も満足といった表情を浮かべる。
……なぜか苦々し気な表情なんだが、それでも会話は止めない。
「私の出自は一部を除いて本物だ。偉大なる不死の魔王、ネロマンテ・ガイスト様の継承者。死霊術師であり、貴様を下した者……だが、種族が異なる」
「! 人族を……裏切ったのか!」
「ふぅ……なぜそのような結論に至るのか、理解に苦しむよ。私がネロマンテ様に師事したのも、こうして魔王軍に加担するのも同じ理由だ──そう、面白いからだよ」
「面白い、だと……」
わなわなと震える騎士が、何を思うか不明だ……上手い言い訳が思いつかなかったし。
うん、正直計画していた展開ではないのだが、普段通り困ったらアドリブで押し切る。
「私の目的は人族のためでも、魔族のためでもない。私自身が、目的を果たすためにあらゆるものを利用するというものだ。そして、そこには貴様も含んでいる」
「……何が目的なのだ、答えろ!」
「やれやれ、結界を張っていなければ魔族たちがこちらに来ていたかもしれないぞ?」
「承知の上だ。それに、もし来たとして私は魔族を屠るだけのこと」
対して俺は、この行動自体を怪しまれるうえ騎士の生存を気づかれてしまう。
なるほど、仮定の話ではあるが実に騎士に好都合な流れだったわけだ。
「ふっ、その覚悟に免じて教えてやろう。私はある存在を恐れている。たとえ殺そうと、その身は何度でも蘇るだろう。そのくせ、決してアンデッドにはならない厄介な器……奴らを調べるために、魔王軍は好都合なのだ」
「……なんだ、それは」
「知らないのか? そいつらは祈念者と呼ばれ、突如この世界に現れた。神々の寵愛を授かり、容易くレベル250の境地へ近づくことのできる不死の軍勢だ。人族であることから、魔王軍とは敵対している者が多数だ」
「……待て、少数はまさか」
頷くだけで、騎士は察しただろう。
俺が語った通りの──化け物が、魔王軍として力を振るう悪夢を。
どれだけ殺しても死なない、それは味方だからこそ安心できる力だ。
しかし、祈念者たちに善悪など関係ない、面白いかどうかが動く起因に成り得る。
「無名の騎士よ、どうだ? 今しばらく、私の指示の下で動くというのは」
「……どういうことだ」
「単純な話だ。私が殺すのは、その何度でも蘇える祈念者のみ。存在に関しては、後ほど調べればすぐに分かる。すでに貴様が訪れた街にも祈念者が居るはずだからな」
「……貴様を信じるわけではない。しかし、ある一点において協力できるのだと理解できた。いいだろう、話に乗ろう。だが、もし貴様の力が民たちに振るわれた暁には──今度こそ、死を以って贖うことになると思え」
騎士は鎧で縛られている以上、本当に命を捨てる覚悟で無いと俺は倒せない。
だからこそ、少しでも確率の高い方に……という話でも無いんだろうな。
騎士の方で何かしらの覚悟が決まった、ということだ。
そして、俺すらも利用して成し得たいことがあると。
まあいいさ、俺だって似たようなものなんだから……偽善のため、この騎士にも踊ってもらおうか。
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