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偽善者と裏切る者 二十九月目

偽善者と潜入試験 中篇

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 それからしばらく、アンデッドを生みだしては騎士と戦わせた。
 死霊術師とはもともと、そういう後方で戦うタイプだからな。

 死体、霊体、魂魄タイプのアンデッドをそれぞれ出して倒す速度に差が無いかを調べては、相手がどういった戦い方をしているのか探っている。

 ネロがストックしていたアンデッドは膨大で、今の俺はそれを使い放題だ。
 複製魔法でそのストックも増やせるので、文字通り無尽蔵の死の軍団を使役していた。


「まだ諦めないか。魔族を屠る刃……長い、刃で良かろう。こちらはいつまでもこの戦いが続けられる。しかし、貴様はそうではなかろう? 大人しく命を差し出すのであれば、苦しまず殺してやると約束しよう」

「黙れ! 貴様は屠る、たとえこの身がどうなろうとも!」

「……そのようなことは申すな。貴様の体はすでに貴様だけのものではない。死後、この私の物になるのだ。無茶はせず、後の実験で使われるように心がけるのだ」

「どこまでも見下げた種族だ……やはり、魔族とは相容れぬ!」


 向かわせた死体系のアンデッドを、ばらりずんと切っていく。
 ……なお、ばらりずんとは一刀両断、清々しいほどに魔物は綺麗に切られていたよ。


「西洋剣でそこまで行くとは……力技とはいえ、よくぞここまでと言ったところか」

「何を言っている!」

「いや、こちらの話だ。さて、そろそろ茶番は終わりにしよう」

「茶番……だと?」


 それなりに真面目だったけどな。
 ちゃんと武器と魔法を組み合わせて攻撃したり、それなりに位階の高いアンデッドを騎士に向かわせたりもした。

 しかし、まだまだ強化幅を上げる方法を残していたのだ。
 魔族たちも飽き始める者が現れたので、それを使うことにする。


「闇よ目覚めよ──“冥界顕現シェオル”」

「ッ! こ、これは……!?」

「そう、驚くことではない。師の研究が編み出した、アンデッドたちの性能を上げることができる魔法だ。これまで通り、倒せるとは思わないことだな」


 辺り一帯から光が失われ、闇がこの場を支配する。
 アンデッドたちは俺のバフで強化されていたが、さらにこの魔法の影響で強くなった。

 ……似た魔法で『冥域顕現メイイキケンゲン』があるが、こちらは俺のオリジナル魔法だ。
 こっちの方が騎士が苦戦する要素を入れてあるので、通常版を利用していた。

 単純に闇属性を強化するのだが、単純だからこそその強化量が尋常では無くなる。
 まあ、死霊魔法は殺傷数で強化される固有魔法なため、今はそう高くないんだけど。

 それでも、これまでの闘いで善戦していた騎士も、アンデッドすべてが同時に強くなってしまえば多少は苦戦することになる……つまり、ここで勝敗が決まるのだ。


「ついでだ。貴様に相応しい相手を用意してやろう──“上位死体召還リコール・ハイ・カーカス”」


 ネロが保存しているアンデッドの中から、一体を選んでこの場で起動する。
 割と強いので、出すかどうか悩んだが……まあ、なんとかなるかと適当にやってみた。

 現れたのは漆黒の甲冑に身を包んだ騎士。
 巨大な大剣を握り締め、冑の隙間から生きとし生きる者すべてに恨みがましい殺意の視線を向けている。


「私のお気に入り、『恐慌騎士テラーナイト』だ。果たして、乗り越えられるかな?」

「なんという禍々しさ……くっ」

「殺せ、とでも言ってくれるのか? そうだな、死を以って忠誠を誓うというのであれば応えてもよいが」

「……何度でも言おう。たとえこの身がどうなろうとも──“限界突破”!」


 体の中からエネルギーを一気に解放し、体内を高速で循環させる。
 エネルギーを漏れないよう制御し、漏れた物は剣に注ぐことで誤魔化していた。

 エネルギーを解き放ち、肉体の限界を超えた強度で身体強化を行う──それが限界突破の仕組みである。

 騎士はスキルとして限界突破を習得しているようで、それを奥の手として残していた。
 しかし、完全な制御ができていないからこそ、剣に余剰エネルギーを注いでいる。


「完全では無いようだな。これこそ、諸刃の剣というものか……貴様が死んだ暁には、上手く使えるようにしてやろう。さぁ、恐慌騎士よ──れ」

『コォオオオオ……』

「いざ、尋常に──」

「しなくていい──“死改糧工デッド・カスタム”」


 これまで倒されたアンデッドたちは、すべてこの魔法に還元していた。
 アンデッドの改造を行えるこの魔法で、恐慌騎士に力を注いでいく。

 その効果もまた、“冥界顕現”の効果で高められるため、恐慌騎士は騎士を上回る力をあっさりと手に入れる。


「……人族とは儚い存在だ。自身の力を己で抑制し、たとえ解放してもその身を傷つけてしまう」

「…………」


 騎士は恐慌騎士に抑え込まれた。
 地に組み伏せられ、その首には武骨な大剣が押し付けられている。

 周囲の魔族は大盛り上がり。
 殺せ、殺せというコールが響いている。


「……いったい、何をするつもりだ」

「ふっ、安心しろ。これからは、貴様は貴様の体を十全に扱うことができるのだからな。刃よ、その体は頂くぞ──“魂魄憑依ポセッス”」

「止めろ……止めろぉおおお!」

「ふははははっ、もう遅い! 我が忠実なる僕となり、魔族のための刃となるのだ!」


 抵抗虚しく、やがて騎士はその目から光を失った。
 その体はアンデッドの魂魄に乗っ取られ、俺の前に跪く。


「皆様、お楽しみいただけたでしょうか! この私ガイストであれば、どのような相手であろうと魔王軍の力として見せましょう!」

『ウォオオオオオオオオ!』

「──賛成多数! ガイスト、今ここに君を魔王軍に所属すると認めよう!」

「ありがたき幸せ! このガイスト、全身全霊を以って活躍してみせましょう!」


 それからしばらく、魔王軍としてのあれやこれを先輩から学ぶことに。
 ここを担当する上位魔族と会ったり、今後の侵攻作戦を少しだけ教えてもらったり。

 そうして時間が経ち、真夜中となり──俺はひそかにこの地から移動した。


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