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偽善者と裏切る者 二十九月目

偽善者と潜入試験 前篇

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 夜、祈念者たちが残党狩りに励むその頃。
 俺はとある場所を目指して、真っ暗な森の中を徘徊していた。

 術式によって場所は隠匿され、最初からその場所を知らなければ来ることができない。
 魔人族の因子を注入して来たこの場所で、それなりの魔力を持つ魔族が待っていた。


「──約束通り、来たようだな。てっきり、逃げる物だと思っていたが……」

「そ、そのようなことは! このガイスト、仰られた通りに準備を済ませました!」


 死霊術師ロールをしながら、魔族と接触を図っている。
 イケメンな姿に少々腹は立つが、それでも俺は役割に徹し続けた。

 いちおう、ネロがあまり使わないアンデッドも拝借してある。
 なので、仮にそういうこと・・・・・・になっても、対応することは可能だろう。


「うむ。では、これより我々魔王軍の前線基地へ案内しよう。覚悟があるのであれば、この転移陣へ足を載せろ」


 その言葉を聞き、迷わず魔法陣へ向かう。
 ニヤっと笑みを浮かべた魔族に連れられ、俺はこことは異なる場所へ向かった。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 歓声を浴びる中、俺は周囲の様子を調べていく。
 転移の影響で少々眩しかった視界も、次第に収まり大量の気配の正体を教えてくれた。


「さぁ、皆の者歓迎しよう! 新たな魔人族の同朋、ガイストを!」

『~~~~~~~~~!』


 皆、思い思いの言葉をぶつけている。
 そこには純粋な歓迎もあれば、それ以外の挑発や暴言などもいくつか聞き取れた。

 だがまあ、それに関してはどうでもいい。
 彼らは砦の上から俺を見下ろし、俺と──俺が向き合う相手を見ていた。

 俺は隣に転移していた魔族の男を見て、この件について尋ねる。
 だがそれは分かっていたようで、したり顔で魔族は答えた。


「これは……いったい」

「いいか、ガイスト。これは試験だ。貴様の実力を、コイツで発揮するのだ」

「騎士、ですか。人族の、しかもそれなりに優れた武人のように思えますが」

「その通りだ。奴は流れの騎士として、この地を訪れ剣を振るった。そして、多くの魔族がコイツによって殺された……近く、処刑をしようと思っていたが、貴様がタイミングよく来たからな」


 武器も鎧も没収され、みすぼらしい恰好をさせられている。
 だが、その目だけは異様なまでに爛々と輝き、人を殺せるレベルで睨んでいた。


「果たして、彼は騎士を殺せるのか!? 弱い奴は必要ない、殺さないのであれば責任を取れるだけの力を示せ! 殺すのであれば、より残虐的に知らしめろ!」


 先ほどから聞こえる誰かのアナウンスが、要点を分かりやすく説明してくれる。
 幸いなのは、騎士を倒すことさえできれば何でも許される点だな。

 今の俺は死霊術師だし、やり方も考えなければならない。
 力を示せば認めてもらえる……そういう職場で助かったよ。


「──“中位死霊創造クリエイト・ゴースト”」

「……貴様、死霊術師か」

「ふっ、我が名はガイスト! 偉大なる魔王が一柱、ネロマンテ・ガイストの力を継ぎし新たなる不死の王である!」

「ネロマンテ……知らない名だ。しかし、その魔力とアンデッドの強さ。なるほど、たしかに実力のある魔族のようだな」


 用意した霊体系のアンデッドの気配から、騎士は俺のことを警戒し始める。
 しかしまあ、流浪の騎士でもネロのことは分からないのか……当然だけども。

 別大陸から来たらしい魔王軍の方が、情報収集能力が高いらしいな。
 少なくとも異大陸でやらかしたネロを、把握していたわけだし。


「奴らの思惑に乗るのは癪だが、少しでも魔族を屠れるこの機会は捨てがたい。特に、貴様のような戦場において、悪意を振りまくであろう因子は取り除くべきだ」

「ふぅ……やれやれ、何を言っているのか理解に苦しむ。いいか、人族。貴様には、これから二つの道しか無いのだ。この私の配下として死んで仕えるか、名も無きアンデッドとして人族に悪意をバラ撒くかだ」

「やはり、貴様のような死霊術師は殺しておくべきだろう。たとえ身を窶そうと、この身は魔族を屠る刃である!」

「ふむ……魔族を屠る、か。これからは、人族を殺す刃と改めるべきだろう。安心するが良い、死した後のことだ。貴様自身が気にする必要は無いさ、安心して死ぬのだな」


 そう言って、アンデッドたちを動かす。
 周囲の魔族が盛り上がる中、騎士はボロボロの剣に精気を流し込む。

 ……ここでそれができなかったら、物理攻撃しかできない騎士を相手に、だいぶ楽ができたんだけどな。

 霊体たちは精気を帯びた剣によって、スパスパと切り裂かれていく。
 西洋剣タイプなので、重厚な刃で圧し切るといった形だな。

 しばらくはこれを続けるべきだろう。
 適度なタイミングでアンデッドを用意し、相手がどれほど戦えるか見ておくべきだ。


「ここに御座す魔族の方々よ、どうか長い目で見守ってもらいたい! 私はまだ、偉大なる師には遠く及ばす! しかし、必ずやその力が意味を成すことを証明したい! それをこの騎士で、示してみせましょう!」


 挑発と宣伝を兼ね、叫ぶ。
 魔族たちはそれを、歓声で受け入れた。
 騎士も少々苛立ったようだが、剣技の冴えは変わらない。

 だがそれでも、着実に騎士は体内のエネルギーを消耗していく。
 さてさて、最期はどういう風に演出するか考えないと……うん、だいぶ楽しいです。


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