1,835 / 2,518
偽善者と裏切る者 二十九月目
偽善者と大湖戦線 その15
しおりを挟むクランハウス
さて、今回のリザルト……報酬についての話をしよう。
後から来たとはいえ、クラーレはやらかしたし、『月の乙女』は貢献している。
都市内部でも生産班の少女たちが、かなり質のいいアイテムを生産していた。
なので最上位とは言わずとも、それなりに彼女たちの行いは評価されている。
「──その結果、学芸都市への推薦状が手に入ったわ。最初の審査も楽になるし、入りたい場所に比較的入りやすくなるわ」
リーダーとして、この水上都市の代表者と話を済ませてきたシガン。
席に着いてお行儀良く話を聞くメンバーたちに、交渉結果を話している。
「学芸都市はここから西にある学園よ。名前から分かるように、都市そのものがいくつかの学芸に関する施設を内包しているわ。そこでしか得られない武技や魔法もあるし、行っておいて損は無いわね」
システムで得られる武技や魔法は、よく言えば安定して使うことのできるものだ。
だが、悪く言えば……リソースを一定以上使うようなものが得られないのである。
もちろん、スキルとしての格を上げる──つまり進化をすれば性能は上がっていく。
使えるリソース量が増えるので、その分高い性能を誇るものが使えるからだ。
しかし、下級のスキルで上級や超級のモノが使えないように制限されているなど、ある程度システム側で習得可能な武技や魔法に制限が設けられている。
「学芸都市には優秀な人が集まっているし、強力な武技や魔法を教えてもらえるわ。祈念者がオリジナルの武技や魔法を売っていることもあるし、自分たちで寄贈することで報酬が貰えた……なんて話もあるわね」
魔法が魔本で保存できるように、武技も似たような感じで収めることが可能だ。
だがそれよりも、実際にそれを習得してもらう方がコスパ的に楽である。
オリジナルの武技や魔法は、あくまで個人用のモノなのな場合が多く、癖が強い。
ただ、システムでは習得できない利便性の高いモノなども、習得可能になるのだ。
それらを後世に伝えていくことを、学芸都市では推奨している。
報酬を支払い、価値のある武技や魔法を蒐集しているわけだ。
「メルのなんて、結構売れそうよね。どう、やってみる気は無い? 魔導、とかいうのもかなり売れそうよね」
「あははっ、止めておくよ。前提として、魔導は基本的に個人のものだから無理。オリジナルの武技や魔法はあるにはあるけど、私のスペックだからできることが多いから。使えるようにしても、体が耐えられないよ?」
「……たしかに、そうかもしれないわね」
オリジナルの武技は主に夢現流のモノなのだが、魔法の方はネタ的なモノも含めてさまざまな魔法を揃えてある。
なので、そちらであれば、寄贈してもさほど問題にはならないが……他の誰かが寄贈するチャンスを残してやるのも優しさだろう。
「ますたーたちはすぐそっちに行くの?」
「それは……まだ、かしらね。期限がいちおう設定されているけど、一年は持つから気にしなくていいわ。メルはどうするの?」
「私、というか私の分体がしばらくは魔族として活動するよ。ちょうど学芸都市を襲うことになるから、行くタイミングは考えてね」
「…………ハァ。いつものことだけど、メルには報連相が欠けているわね」
具体的なことは、そういえばまだ何も説明していなかったっけ?
魔族に分体を潜り込ませること、これだけはちゃんと伝えたんだがな。
◆ □ ◆ □ ◆
とりあえず、改めてクラーレやシガンたちに俺がやったことを伝えておいた。
死霊術どうこうなどは説明せず、魔族と話したことのみだが。
「……前線基地、そして侵攻ね。貴方は本当に攻め滅ぼす気なの?」
「攻め滅ぼす、とは言ってないからね。今はまだ、何をしたいか分からないから内部でそれを調査する気なんだよ。ますたーたちは、私を止める?」
俺は彼女たちと共に行動をしているが、独断専行が多いことから分かるように、彼女たちと同じ目的を抱いているわけではない。
俺は目的のためならば、手段を選ぶ気は無い……そして、彼女たちとそれを共有する気も無いからな。
さて、彼女たちの反応は……うん、物凄く引いている。
ただ、軽蔑とか侮蔑の視線なのは……まあ一人だけで、他はどちらかというと──
「メル、というよりメルス。そもそも、わたしたちは、そこまで善人ではありません」
「その台詞、そういえばここに来る前にも聞いた気がするよ。でもますたーたちって、全然打算的じゃないからね。いろんな人に親切だし、善い人ばっかりだよ」
「善いことをするのが、善い人というわけではありませんよ。それはメル、あなたが一番理解しているのでは?」
「むむっ、たしかにそうかも」
偽善者である俺が、そこを肯定しないわけにはいかない。
偽善者たるもの、善意を以って善行を成すわけじゃないからな。
「一人ひとり理由に違いはありますが、わたしたちもメルが思っているほど善人ではありませんよ。ですからメル──あまりわたしたちを、舐めないでください!」
「ッ……!」
舐めたつもりは無かったが……たしかに、受け入れてくれないとは思っていたな。
「じゃあ、私といっしょに学芸都市を落とす手伝いをしてくれるんだね?」
「あっ、いえ。そのようなことは決してしませんよ。メルがわたしやシガンを助けてくれたように、どんなことであれその先を共にするだけです。メルが本当に悪いことをするならば、全力で防がせていただきます」
「へぇ……なら、そのときは勝負だね」
「はい、覚悟してくださいね」
うんうん、成長したものだ。
今の彼女たちであれば、俺の偽善を阻むこともできるだろう。
俺も戦闘狂たちと共に過ごし、そういうことに楽しさを覚えるように感じてるな。
確定した強大な壁の存在を前に──とてもわくわくしている俺が居るよ。
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?
破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。
そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。
無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる
そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた…
表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと
イラストのurlになります
作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~
三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】
人間を洗脳し、意のままに操るスキル。
非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。
「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」
禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。
商人を操って富を得たり、
領主を操って権力を手にしたり、
貴族の女を操って、次々子を産ませたり。
リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』
王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。
邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる