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偽善者と裏切る者 二十九月目

偽善者と大湖戦線 その13

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 眼下では、アンデッドと化した首長竜を相手に祈念者たちが善戦する光景が広がる。
 その原因は俺であり、仕込みから何まで全部が俺のやったことだけどな。

 現在の俺は、体内に魔人族の因子を注入して死霊術師プレイに徹していた。
 少し考えて、こうした方が面白くなると考えたからだ。


《──では、一度こちらに戻ってきてくれ》

「はっ、畏まりました!」


 そんな俺に届いた念話による指令。
 それはクラーレたちと離れ、湖で仕込みを終わらせた後に接触した、魔族の一人から送られてきたもの。

 俺はすぐに準備を終えて、この場から指定の場所へ移動する。
 飛行系の魔法は使えない設定なので、だいぶ前にやったアンデッドを使っての飛行だ。

 現在使っているのは、主に魔術と死霊術という感じだ……いわゆる『○○術』限定というのが、今の縛りである。

 ちなみに死霊術と死霊魔法、その違いは固有スキルかどうかだけなんだとか。
 冥魔法やその他の闇魔法、他の属性でも頑張ればアンデッド化は可能である。

 さらに言うと、究極的な話、瘴気を操ることさえできればアンデッドは創れるのだ。
 太古は魔法として死霊を生み出せなかったので、あくまで技術扱いだったんだとか。


「それに加えて精霊術とか、そういうものが使えるのが現状だ。縛ってた分、魔族との絡みも大変だったけどな」


 そこまで深く思い返すことでもないが、まあ最初はだいぶ怪しまれた。
 何でも今のご時世、なかなか野良なんて生きていられないそうだ。

 まあ、そこは適当に吐いたブラフで誤魔化したのだが……いろいろと、変なことになったのは間違いない。


  ◆   □   ◆   □   ◆


「──うむ、来たか『ガイスト』」

「はっ!」


 目の前の魔族は男だ。
 イケメン、それですべての説明ができるのでいいだろう……付け加えるなら、名前はまだ教えられないと言われている。

 まあ、今回のことを評価して、たぶん教えてもらうとは思うけど。
 祈念者に敵対し、アンデッドを使って何かする……それが条件だったからだ。

 さて、ここで気になったであろう俺の偽名であるガイスト。
 ほぼすべての関係者が忘れていると思うのだが、これはある人物の名前の一部だ。


「さすがは、彼の【不死魔王】の名を継いだと自称する男だ。ガイスト、どうやら貴様の実力は本物だったようだな」

「お褒めに与り、光栄でございます!」

「……まさかあれほど早く魔王様の贄が殺されるとは思っても居なかったが、それを再び死霊術で操れるとは。【不死魔王】の力とはこれほどまでなのか」

「私は名、そして技術を継承しただけ。申し訳ありませんが、貴方様の求める情報に答えることはできません」


 答え合わせをすると、俺はネロの継承者という役になっている。
 設定としては、ネロの分霊に出会って死霊術を習った……という感じだな。

 いちおう本人も確認したが、そこはあっさりと了承が貰えた。
 むしろ、俺が名乗ってくれることが光栄だとか言ってくれたぞ……借りができたけど。


「ふむ……いいだろう、貴様を前線基地へまずは連れていくことにしよう」

「ありがとうございます! しかし、前線基地とはいったい」

「当然理解しているとは思うが、貴様をいきなり我らが魔王様の下へ案内することはできない。ありとあらゆる容疑が掛けられている現状ではな。まずは下積みをし、実績を示してからになるだろう」


 まあ、迷宮ダンジョンに行っただけで評価され、いきなりSランク冒険者と模擬戦をしたら王城に案内される……なんて超展開は、あの人たちだからこそ、できたことなんだろうな。

 魔王の居城で何かしようと思っているわけではないので、別にそれで構わなかった。
 ……まあ、潜り込めたら潜り込めたで、いろいろとやろうとは思っていたけどな。


「こほんっ……前線基地とは、学芸都市を落とすための場所だ。人族が建てた要塞を乗っ取り、使っているのだが……祈念者たちの影響で、あまり上手くいってなくてな。ガイスト、貴様のような者でも使っているのだ」

「なるほど。しかし、祈念者ですか……もし初代様が生きておられたら、必ずや研究していたでしょうに」

「そうなれば、我々としても心強かったのだがな。ガイスト、貴様には【不死魔王】が如き活躍を期待しているぞ」

「はっ、畏まりました!」


 魔族のイケメンは、そう言って一本のスクロールを取りだした。
 そこに記載されているのは……うん、どうやら転移系の術式だな。


「ガイスト、準備期間を与える。時間は今日が終わるまで。翌日、貴様には前線基地での活躍を期待している」

「承知いたしました。必ずや、ご期待に沿えるよう念入りな準備をいたします」

「……では、貴様のことを報告してくる。裏切るでないぞ」

「はっ!」


 術式を発動させ、この場からその場所へ転移する魔族。
 ……術式は神眼で把握したので、すぐにでも行けるようになったな。


「さて、一度水上都市の方に戻って、これからのことを伝えておかないとな。別に裏切ったわけじゃないからな……よし、ますたーの所にレッツゴー!」


 変身魔法で姿をメルに変え、俺もまた転移の魔術でここから移動した。
 ……なんとなくクラーレが怒っていそうだが、どうにかなるだろうさ。


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