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偽善者と裏切る者 二十九月目
偽善者と大湖戦線 その09
しおりを挟むあれから多くの魔物を倒しました。
位階の高い、『王』や『帝』を冠する支配者系の魔物も現れましたが、どうにか討伐に成功します。
シガン、そしてわたしの固有スキルでごり押し……といった感じでしたが。
時間を超えた斬撃、そして何度でも蘇えるゾンビアタックです。
「……クラーレ、大丈夫?」
「ええ、不思議と。メルとの特訓のお陰で、発動の際に起きる痛みはある程度気にならなくなりました」
痛みが無いわけではありませんが、それでも無視できるようになりました。
心配してくれるシガンにそう答えて、気配探知の作業に集中します。
「どう、動きは?」
「湖の中から動いていませんね。まさかとは思いましたが、やはり何かしています」
「……護衛もやらないでここに居るってことは、間違いなく何かあるわね」
空から魔物が墜落してきた際、なぜか共にメルの反応を感じました。
それからしばらく、メルの反応は湖の底から動いていません。
召喚をすれば来るでしょうが……その選択はなんだか、負けた気がします。
なのでわたしたちは魔物を倒しながら、メルの監視を行っていました。
「シガン、主戦場の状況は?」
「順調ね。だいぶ魔物を倒した結果、ついに魔族が姿を現したみたいよ」
「何か言っているとか、そういう話は?」
「…………あるみたいね。自分を殺したら後悔するとか、本当にここに居ていいのかとか言っているそうよ」
これはもう、確定ですね。
メルが湖に居る理由は、間違いなくその魔人が言う仕掛けがここに眠っているから。
そして、メルがそれに何かをしようとしている……取り除くなどのプラスな行いならばともかく、メルのことですからそうでない可能性もまだ残っています。
メルのことですので、それ自体で自由民の方々に被害が及ぶことは無いと思いますが。
しかし、死んでも蘇る祈念者ならば……と容赦なく何かしてくるかもしれませんね。
「何が起こると思いますか?」
「そうね……考えられることは大きく分けて二つ──魔物が出てくるか、物凄い魔法が発動するか、かしら? 前者は大量の魔物か強大な魔物が一体、後者ならメルの使う魔導みたいな魔法が一発ね」
「たしかに、ありそうなテンプレですね」
創作物でも、魔族が企むこととしてそれらが挙げられます。
間違いなく、成功すれば都に住まう方々に被害が出ます……防がないといけません。
「問題はそれが成功するか失敗するか、その鍵をメルが握っていることね。もしくは魔族の計画を、メルが何かに利用しようと企んでいる可能性があること。クラーレ、絶対に無いと言い切れる?」
「……できませんね。さっき考えましたが、メルのことですから悪用しないとは言い切れません。ただ、あくまで祈念者に限定してのものだと思いますが」
「それもそうね。その気になれば何でもできそうだけど、絶対にやっちゃいけない一線は分かっているもの」
メルにとって、それは生殺与奪。
触れるだけで何でも壊せる力があるからこそ、しっかりと考えて力を使っています。
わたしやシガンはそれができず、一時力に溺れてしまいました。
そう考えると、メルの力はメルが持っているからこその意味がありますね。
◆ □ ◆ □ ◆
しばらくして、メルの監視とは別に行っていた魔力探知に反応がありました。
それを伝えようとして、シガンがリーダー間のやり取りをしていることに気づきます。
「…………連絡が入ったわ。たった今、魔族が討伐されたようね。それも、最期にとっておきの捨て台詞を吐いて」
「はい、こっちでも水底に反応があります」
「もう遅い、間もなく厄災が目覚めると……どうかしら?」
「メルの反応は未だに中です。もしかしたら何か、別のことをしているかもしれません」
ナニカが湖の中から出てくる、間違いなくメルが関わっています。
……いえ、あえて関わらなかったから、魔物が出てくるという可能性もありますね。
中に居たのは阻止するためではなく、他に目的があったから。
それを聞き出すことはできませんが……何かとんでもないことな気がしますね。
「みんな、戦闘準備よ! ノエル、クラーレと替わって情報収集。相手がどういう魔物なのかを調べて」
『了解!』
「5、4、3、2、1──来るわよ!」
ノエルのカウントダウン通り、湖から激しい飛沫が吹き上がると、その中から巨大な魔物が現れました。
そこから現れたのは──巨大な恐竜。
その中でも首長竜と呼ばれる、水中や水上で活動していたという種類です。
「名前は『狂邪真首長竜』! 推定レベルは240、弱点は雷属性!」
名前がいかにもと言うほど強そうで、水上に出た際の咆哮も強烈。
なるほど、たしかにこのレイドイベントの最後を飾るに相応しい魔物です。
シガンはすぐに、他のパーティーにこの場所と魔物の情報を伝えました。
彼らも駆けつけるようですが、その間はわたしたちでなんとかしませんと。
「メルはいったい、何を企んでいるのでしょうか……」
「さぁ。きっと、誰かのためとか言ってやっているんでしょう」
「たしかに……そんな気がします」
とはいえ、今は戦闘に集中しなければいけません。
メルとの戦闘経験が、少しでも役に立てばいいのですが。
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