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偽善者と裏切る者 二十九月目

偽善者と大湖戦線 その03

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 コーロン大湖 水上都市ネイシー


 ベネチアのような街並みが広がる都に降り立つと、辺りを見渡す。
 クラン『月の乙女』の少女たちは、現在ここを目指して外から頑張っているはずだ。

 俺がここに居るのは単純に、誤魔化すだけの術を心得ているから。
 縛りとは関係なく、存在を任意で偽るスキルは常時発動可能だ。

 どこにでもいそうなモブ……つまり普段の俺を映し出し、家の壁に背を預けて一休み。
 慌ただしく動く人々の姿を、ボーっと眺め続ける。

 俺に気づけるのは、俺が許可した者だけ。
 この場に『月の乙女』のクランメンバーは居ないので、これまで俺が知り合った関係者ぐらいしか気づけない。


「よう、久しぶりだな」

「ああ……って、なんでいるんだよ」

「別にいいだろ、俺の自由だし。それよりお前こそ、なんでいるんだ?」

「いや、普通来るだろ。こんな大規模なレイドイベント、見逃す方がおかしいぞ」


 そんな俺と合わせるように、壁に背を預けて佇む男に話しかけた。
 黒尽くめ、二振りの魔剣を持った男は、当たり前のように俺を認識して話している。

 彼はリヴェル、相殺と吸収の魔剣を持つソロの祈念者。
 現在は、俺の援助で動く……いちおうは同じクランのメンバーだ。


「……そういうものか? まあ、別に制限しているわけじゃないし、いいんだけどな。それより、このイベントにはいつから?」

「こっちで一日前からだな。[掲示板]に要請が入ってすぐに着たつもりだが、結構ヤバい状態だった」

「ふーん……詳細を話してくれるか」

「了解。上手く纏められるか分からないが、知っている限りは話す」


 今回は本当に緊急だからか、いちいちロールプレイはしないで説明をしてくれた。
 問題は数日前、突然現れた『蜥蜴人リザードマン』たちが暴れ始めたらしい。

 それだけならば普段は対応できていたが、森から大量の魔物が侵攻してきた。
 だんだんそれに対応できなくなり、救援の要請をしたそうだ。

 祈念者が街のお偉いさんに関われるところに居たのも幸いだった。
 突然[クエスト]が発令され、その難易度が高いことを伝えることができたのだ。

 お偉いさんたちはその情報を信じて、光学の報酬を用意。
 ギルド間で情報のやり取りが行われ、対応できるレベルまで戦力を集められた。


「リヴェル、戦闘はしたか?」

「まあな。おれは蜥蜴を主に相手にしたが、結構強かったな。位階もレベルも、苦戦している奴らが多かったぞ」

「お前がそう言うってことは、かなりみたいだな。見た限り、一番ヤバいのは?」


 俺が渡したアイテムで、リヴェルは空を飛ぶことができる。
 なのでこの質問にも、答えられるだろうと分かっていた。


「魔人族の反応があったな。だから多分、そういうことだと思う」

「…………あー」

「おい、なんだよその反応」

「前に一回、魔人族が来たのを対処したことがあってな。魔物が強いのは、そいつが使ってたアイテムのお陰なんだろうと思っただけだから気にするな」


 クラーレたちが森の中で遭遇した魔族、彼らが残したアイテムを俺は回収している。
 だいぶ前のことなので、眷属たちが解析済みなのだが……。


「それが──人工的に【魔王】を生み出すことができるアイテムなんだよ」

「……マジかよ」

「前回は使われる前に回収したからいいんだが、今回はどうだろうな……おそらく、もう使われているだろう」

「つまり俺たちは、【魔王】を相手にしないといけないってことか」


 人族の【勇者】と【英雄】、その両方のイイとこ取りなのが【魔王】である。
 少数精鋭を『四天王』と化し強化、有象無象も配下として強化できるからな。


「その個体がどこにいるかは分からないが、まあ最後には出してくるだろう。問題はそいつを倒しても、魔人族の方をどうにかすることができないことだ。テンプレだと、最後に宣戦布告をするアレだな」

「こっちの世界なら、その瞬間に殺すこともできそうだが……なんとかなんねぇか?」

「いや、無理だと思うぞ。知り合いに魔人族がいるんだが、戦闘系の魔人族は常時結界を展開しているらしいからな。それを砕いてからじゃないと、攻撃が通らない」


 普人族も、本能的に膜のように張っているのだが……厚みがまったく違う。
 魔人族のリュシル曰く、魔力の籠もっていない武器などでは絶対壊せないらしい。

 とはいえ、そちらに関しては対策も用意してあるし、強硬策に出れば突破できる。
 もしクラーレが、本当にそれを望むのであれば……俺も手を出すことにしよう。


「ふぅ……それで、貴様はどうする気だ?」

「今さらなロールプレイだな。俺はまあ、妖女になって女の子たちの護衛だよ」

「………………いや、ちょっと待て。何がどうなったら、そんな話になるんだよ」

「別にいいだろ。それに、騙しているわけでもないからな。ちゃんと向こう側も、俺を理解したうえで協力し合っているだけだぞ」


 俺としてはちゃんと説明したつもりだが、リヴェルはまだ納得していないようで。
 彼女たちのプライバシーに配慮したうえ、懇切丁寧に説明することになった。

 だから犯罪とか、そういうことを言わないでくれよ……自覚とか、結構あるんだから。


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