1,823 / 2,518
偽善者と裏切る者 二十九月目
偽善者と大湖戦線 その03
しおりを挟むコーロン大湖 水上都市ネイシー
ベネチアのような街並みが広がる都に降り立つと、辺りを見渡す。
クラン『月の乙女』の少女たちは、現在ここを目指して外から頑張っているはずだ。
俺がここに居るのは単純に、誤魔化すだけの術を心得ているから。
縛りとは関係なく、存在を任意で偽るスキルは常時発動可能だ。
どこにでもいそうなモブ……つまり普段の俺を映し出し、家の壁に背を預けて一休み。
慌ただしく動く人々の姿を、ボーっと眺め続ける。
俺に気づけるのは、俺が許可した者だけ。
この場に『月の乙女』のクランメンバーは居ないので、これまで俺が知り合った関係者ぐらいしか気づけない。
「よう、久しぶりだな」
「ああ……って、なんでいるんだよ」
「別にいいだろ、俺の自由だし。それよりお前こそ、なんでいるんだ?」
「いや、普通来るだろ。こんな大規模なレイドイベント、見逃す方がおかしいぞ」
そんな俺と合わせるように、壁に背を預けて佇む男に話しかけた。
黒尽くめ、二振りの魔剣を持った男は、当たり前のように俺を認識して話している。
彼はリヴェル、相殺と吸収の魔剣を持つソロの祈念者。
現在は、俺の援助で動く……いちおうは同じクランのメンバーだ。
「……そういうものか? まあ、別に制限しているわけじゃないし、いいんだけどな。それより、このイベントにはいつから?」
「こっちで一日前からだな。[掲示板]に要請が入ってすぐに着たつもりだが、結構ヤバい状態だった」
「ふーん……詳細を話してくれるか」
「了解。上手く纏められるか分からないが、知っている限りは話す」
今回は本当に緊急だからか、いちいちロールプレイはしないで説明をしてくれた。
問題は数日前、突然現れた『蜥蜴人』たちが暴れ始めたらしい。
それだけならば普段は対応できていたが、森から大量の魔物が侵攻してきた。
だんだんそれに対応できなくなり、救援の要請をしたそうだ。
祈念者が街のお偉いさんに関われるところに居たのも幸いだった。
突然[クエスト]が発令され、その難易度が高いことを伝えることができたのだ。
お偉いさんたちはその情報を信じて、光学の報酬を用意。
ギルド間で情報のやり取りが行われ、対応できるレベルまで戦力を集められた。
「リヴェル、戦闘はしたか?」
「まあな。おれは蜥蜴を主に相手にしたが、結構強かったな。位階もレベルも、苦戦している奴らが多かったぞ」
「お前がそう言うってことは、かなりみたいだな。見た限り、一番ヤバいのは?」
俺が渡したアイテムで、リヴェルは空を飛ぶことができる。
なのでこの質問にも、答えられるだろうと分かっていた。
「魔人族の反応があったな。だから多分、そういうことだと思う」
「…………あー」
「おい、なんだよその反応」
「前に一回、魔人族が来たのを対処したことがあってな。魔物が強いのは、そいつが使ってたアイテムのお陰なんだろうと思っただけだから気にするな」
クラーレたちが森の中で遭遇した魔族、彼らが残したアイテムを俺は回収している。
だいぶ前のことなので、眷属たちが解析済みなのだが……。
「それが──人工的に【魔王】を生み出すことができるアイテムなんだよ」
「……マジかよ」
「前回は使われる前に回収したからいいんだが、今回はどうだろうな……おそらく、もう使われているだろう」
「つまり俺たちは、【魔王】を相手にしないといけないってことか」
人族の【勇者】と【英雄】、その両方のイイとこ取りなのが【魔王】である。
少数精鋭を『四天王』と化し強化、有象無象も配下として強化できるからな。
「その個体がどこにいるかは分からないが、まあ最後には出してくるだろう。問題はそいつを倒しても、魔人族の方をどうにかすることができないことだ。テンプレだと、最後に宣戦布告をするアレだな」
「こっちの世界なら、その瞬間に殺すこともできそうだが……なんとかなんねぇか?」
「いや、無理だと思うぞ。知り合いに魔人族がいるんだが、戦闘系の魔人族は常時結界を展開しているらしいからな。それを砕いてからじゃないと、攻撃が通らない」
普人族も、本能的に膜のように張っているのだが……厚みがまったく違う。
魔人族のリュシル曰く、魔力の籠もっていない武器などでは絶対壊せないらしい。
とはいえ、そちらに関しては対策も用意してあるし、強硬策に出れば突破できる。
もしクラーレが、本当にそれを望むのであれば……俺も手を出すことにしよう。
「ふぅ……それで、貴様はどうする気だ?」
「今さらなロールプレイだな。俺はまあ、妖女になって女の子たちの護衛だよ」
「………………いや、ちょっと待て。何がどうなったら、そんな話になるんだよ」
「別にいいだろ。それに、騙しているわけでもないからな。ちゃんと向こう側も、俺を理解したうえで協力し合っているだけだぞ」
俺としてはちゃんと説明したつもりだが、リヴェルはまだ納得していないようで。
彼女たちのプライバシーに配慮したうえ、懇切丁寧に説明することになった。
だから犯罪とか、そういうことを言わないでくれよ……自覚とか、結構あるんだから。
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?
破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。
そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。
無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる
そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた…
表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと
イラストのurlになります
作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
俺と異世界とチャットアプリ
山田 武
ファンタジー
異世界召喚された主人公──朝政は与えられるチートとして異世界でのチャットアプリの使用許可を得た。
右も左も分からない異世界を、友人たち(異世界経験者)の助言を元に乗り越えていく。
頼れるモノはチートなスマホ(チャットアプリ限定)、そして友人から習った技術や知恵のみ。
レベルアップ不可、通常方法でのスキル習得・成長不可、異世界語翻訳スキル剥奪などなど……襲い掛かるはデメリットの数々(ほとんど無自覚)。
絶対不変な業を背負う少年が送る、それ故に異常な異世界ライフの始まりです。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる