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偽善者と裏切る者 二十九月目

偽善者と大湖戦線 その02

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 俺、そしてクラン『ユニーク』たち初期勢では成し得なかった、グランドクエストの進行が着実に遂げられている。

 鍵となるのは『選ばれし者』たち。
 彼らはそれぞれ異なる方向性から、世界に干渉しては何かを成し遂げている。

 大陸ごとに設定されたクリア条件を果たすべく、祈念者たちは力を合わせて物語を進めている……そして、着実に祈念者の活動範囲は拡張されていた。

 さまざまな地で起きる問題を、祈念者たちは次々と解決していく。
 それにより、異なる問題が新たな場所で発生している。


「ますたーたちもモノ好きだよね。わざわざ誰かが起こした侵攻イベントに、後から救援で参加するなんて」

「善意がすべて、というわけじゃありませんよ? 今なら審査も簡略化されますし、移動用のアイテムが貰える場合もあります。功績次第では、他にもいろんなモノを得ることができますので」

「……シガンお姉ちゃん、ますたーが出会った頃より黒い考えを持っちゃったよ」

「きっと、誰かさんのせいよ。純真無垢を地で行っていた彼女を、黒く染め上げたね」


 俺の方を見ながらそう語るシガンに、ただ目を逸らすことしかできなかった。
 模擬戦を終えて、休憩も終了して目的地まであと少しという所。

 生産班の少女たちも総動員し、これから向かう場所でやるべきことの準備をしている。 それは魔物の氾濫に襲われた都市を、救うというレイドクエストのクリア。

 すでに祈念者たちが何千何百と集まっているが、それでもなお終わらない難題。
 まあ、『選ばれし者』たちが参加していない、というのが一番の理由だろうが。


「『選ばれし』者が居ると、だいたいその人が中心になってクエストをクリアに導くことになるからね……さしずめ、今回の氾濫は次の布石といったところかな?」

「後で救援に来るのよね」

「まあ、その街に誰かの庇護下にある人が居るなら、その人が殺されるギリギリとかで間に合いそうだよね。彼らに与えられた運命の力も万能じゃないから、一を救えても九十九は救えないと思うよ」

「名も無きモブはどうでもいい、そんなところかしら……まあ、分からないでもないんだけど。でも、そんな上の事情なんて関係ないわ。私たちにできることがあるなら、ただそれをするだけのことよ」


 シガンはかつて、固有スキルの侵蝕を受けていた。
 だからこそ、そういった意図された流れというものは望まないのだろう。

 そして、それは俺が『ますたー』認定して契約を交わしたクラーレも同じこと。
 彼女は彼女で、回復職なのに戦えるようにと渡した武器を念入りに手入れしている。


「メル、何でも目的地は水上都市ということです。つまり、水の上に浮いているんです。楽しみですね!」

「……観光かな? まあ、さっきも頑張っていたし、シガンお姉ちゃんが許可を出すならいいんじゃないかな?」

「シガン……!」

「はいはい、分かったわよ。ただし、ちゃんとやることをやってからね。もともと少しは見て回る気だったから、転移門まで行くついでにね」


 なんて会話をしている内に、目的地の上空まで到着したようだ。
 暇潰しに搭載したスピーカーから、音楽が流れてそれをお知らせする。

 集まった彼女たちが見下ろすのは、巨大な湖の上に浮かぶ都市──そして、それらを覆う膨大な数の魔物たちだった。


「うわー、数が多いね。あれだけいれば、その分祈念者が居ても難しいか」

「メル……なんとかなりませんか? その、魔導というものを使って」

「別に使おうと思えば使えるよ? けど、それは私の功績であって、誰がやったわけでもない。それはあそこを守ろうとしている人たちを侮辱する行為に値するから」


 範囲指定の魔導を使えば、一瞬で殲滅することなど容易い。
 しかし、それをしたら間違いなく運営神にバレるうえ、他者からも厄介者扱いされる。

 それは俺と行動を共にしていた彼女たちもだろうし、力を持つが故の咎だ。
 ……一瞬で相手を滅ぼす力は、同時に自分たちを傷つける力でもあるのだから。


「というわけで、私は後方支援に徹することにするよ。生産班のみんなの付き添いで、護衛役にでもなろうかな?」

「……そうね。メル頼りにする気は最初から無かったけど、それくらいなら任せても平気かしら?」

「何を疑っているのかはさっぱりだけど、私は生産技術の先生でもあるからね。いちおうますたーとは連絡が付くようにするから、何かあったらそっちにお願いね」


 上空、それも祈念者や魔物から気づかれないようにとだいぶ高い場所に居るため、位階ランクがどれくらいなのかは分からない。

 しかしそれでも、今の祈念者たちといい勝負ができている数なので、それなりに高いのだろうと予測は付けられる。

 どうしてそれが発生したのか、そういう理由はいずれ情報が挙げられるだろう。
 大切なのは、過程ではなく結論──街はどうなるのか、守り抜けるかどうかだけだ。


「はーい、というわけでみんなを街の外に転送するよ。内側じゃないのは、転移門も使わないで来たら怪しいからね。少しでも魔物を屠って、受け入れてもらえるようにしてね」


 なんてことを言ってから、彼女たちを浮島から地上に送り出す。
 それからしばらく、結界などの設定を済ませた後──俺も下に降りるのだった。


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