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偽善者と裏切る者 二十九月目
偽善者と大湖戦線 その01
しおりを挟む俺がパーティーに混ざっている、女子だけで編成されたクラン『月の乙女』。
そのクラン拠点は空を飛ぶ小島で、まったりしながらどこにでも行くことが可能だ。
彼女たちと行動すると決めた俺は、いつものように妖女姿でそこに混ざっている。
そしてそこで、彼女たちにある提案をしていた。
「──というわけで、目的地に着くまで私といっしょに模擬戦だよ」
「何がというわけなのか、さっぱり分からないのだけど……面白いわね」
「みんなレベルは200まで育ったみたいだし、私ももう少しぐらい力を出そうかな? 生産班のみんなも、そこまでレベルを上げているなら少しは戦えるよね? 試作品のテストをするなら、そうした方がいいよ」
クランハウスの中には、俺が用意した修練場を模した部屋が存在する。
闘技場の結界も展開可能なので、デスペナや消費数に限界があるものも発動可能だ。
「魔導解放──“封じられし神宝器廠”」
『!』
「だいぶ知られてきたし、アルカも使っているからいいよね。この魔導は、某英雄王様とでも思ってくれればいいから──さぁ、それじゃあ始めようか」
慢心そのものみたいな腕組みポーズで、背後から大量の神器を射出する。
彼女たちはそれぞれの方法で力を合わせ、なんとかその猛攻を防いでいく。
ディオンは盾を構え、シガンは時魔法で仲間と神器の時間を調整、クラーレとプーチは異なる結界魔法を構築している。
斥候のノエルと近接攻撃のコパンは中で待機、近づいてきた攻撃の弾きに徹していた。
ちなみに生産班の六人は即退場、代わりに神器の詳細について語り合っているぞ。
「ふむふむ、会話を聞かれないように対策しているのはいいことだね。魔導を使っているし、神眼を使うのは止めてあげようか」
彼女たちが俺よりも優れているのは、数と職業に就いている点。
他は正直、どの祈念者よりも俺が優れていると思う。
まさに【傲慢】の権化、だがそれを肯定してくれる眷属たちが居る。
彼女たちに恥じない行動を、俺はしなければならない。
「神器はそこまで強い物じゃないから、普通なら気にしなくてもいいんだけど……たまにはこういう神器が混ざっているかもね?」
「! ……結界が、解除された?」
「正確には陣形成能力や魔法を無効化する、そんな神器だね。何かに包まれるように防御や隠形をしていると、それを暴くことができるという神器だよ」
「みんな、神器に気を付けて! どれが厄介な物なのか分からないわ」
そもそも神器とは、その名にふさわしい権能のようなものが宿っている。
神剣なら何でも斬れるし、神槍なら何でも貫けるだろう。
それらを実現するのが、器に注がれた神の力……俺は特定の信仰が無い代わりに、ある程度その権能を弄ることができる。
「暗殺用の神器、効果は毒の散布……展開」
「──“聖気解毒”!」
「うん、正解。じゃあ、今度は爆発する神器かな?」
「“集攻盾”、“絶防壁盾”」
仕込んだ神器の一つが爆発を起こす。
すると防御担当のディオンが盾を構え、二つの武技を発動させる。
一つは範囲攻撃などを自分のみに集中させる武技で、もう一つは一定時間に限り攻撃を無効化する武技。
その重ね技によって、仲間全員に向けられた攻撃すべてを抑え込んだ。
同じことを繰り返すのは難しいだろうが、一度きりの嵌め技などにも通用する。
「本当なら連発できるから、気を付けてね。うーん……神器ばっかりだと、そろそろ飽きるか。魔導解放──“旋律源永奏楽団”」
壮大な音楽が突如として、楽器の存在しないこの場所で鳴り響く。
俺には大量のバフ、彼女たちには大量のデバフが発生する。
音を掻き消せなかった以上、すでに聞こえた分はもう無効化できない。
だがそれでも、彼女たちは抵抗する──爆発音で音を掻き消し抵抗してきた。
「うん、そろそろ終わりにしようか。ちなみにだけど、魔法に近接戦闘用のモノがあるのと同じように、魔導にも接近戦用があるよ。魔導解放──“万具振るいし戦人”」
その瞬間、飛ばしていたすべての神器が俺の下へ飛んでくる。
そして、その中から剣型の神器と槍型の神器を選択し、その手で握り締めた。
「魔導解放──“天禍無葬の万場覇爛”。この魔導が効果を発揮している間、私の能力値は無限だと思ってね。それじゃあ、一気に終わらせようか!」
実際には無限ではなく、俺の知り得る最大値まで上がるだけだが……ソウという超ハイスペックな力お化けを知っている俺なので、その値は尋常ではない。
蹴れば大地は砕け散り、空を切った攻撃は空間に罅を入れる。
そこにはいっさいの魔力干渉は無く、すべてが物理の力で引き起こされていた。
彼女たちもこれまで同様に抗うが、さすがにソウの能力値と戦うのは厳しい。
ついでに言うと、アイツには無い運の高さもあるからな……異様に行動が成功する。
そうして彼女たちを何度も何度も倒し、リセットしては同じことを繰り返す。
そうし続ける理由が、彼女たちには存在する──目的地が、そういう場所だからな。
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