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偽善者と裏切る者 二十九月目

偽善者と出力実験 中篇

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 しばらく魔法を撃ってもらい、彼女たちの状態を逐一確認する。
 系統の異なる魔法、特殊な方法で発動可能な擬似魔法などもついでに調べてみた。


「アイリスの顕現技リアライズは、魔力技術でも科学技術でも立証できないな」

「機械で演算して、それを現実に反映している……って感じなんだけど。あくまで、私のスキルを使って強引にやっているからね」


 転生者としてこの世界を訪れた彼女は、電脳関連のチートスキルを持っていた。
 ありとあらゆる機械を支配し、自身もその中に潜り込める……そんな能力だ。

 その力を応用し、俺が外側だけ完成させていたネタ武器『顕在武装[リアライズ]』を自在に使いこなしている。

 ……出会った時も、彼女は機械の中で隠れていたもんな。
 そんな彼女は、魔力をほぼ用いずに魔導級の魔法をほぼ無制限に使用可能なのだ。


「けど、これはやっぱり出力云々の参考にはならないな。カナタ、お前もそう思うか?」

「……ハァ、ハァ。お前ら、なんでそんなに余裕なんだよ。素振りをずっとやってるメルスも、あんなに凄い魔法を出してたアイリスも。というか、なんで俺だけこんなに疲れなきゃなんねぇんだよ!」

「俺は無尽蔵な魔力があるから、どれだけスキルを使っても減らないし。まあ、カナタだけが非常に疲れることをやってたしな」

「私はそもそも、魔力じゃなくて脳の方を疲れさせているだけだから。カナタほど、消耗してないんだよ」


 対するカナタがやっていたのは、魔力を利用した迷宮罠の起動だ。
 本来同等の魔法を使うのに必要な魔力を消費せず、罠を介して魔法を使う方法である。

 だいぶ前に祈念者の迷宮イベントで、オブリに持ち帰ってもらった罠のスキル。
 それらを解析し、カナタの持つ罠魔法に組み込んでいた。

 迷宮に設置できる罠を魔法で生成し、発動したらすぐに別の魔法で再生成。
 足元に設置、発動方向の指定が面倒という条件付きなので普通よりもお得なのだ。

 だがまあ、それでも魔力はその一つ一つに掛かるので、カナタは魔力欠乏気味である。
 そこでポーションを二本取りだして、二人に渡しておく。


「カナタのは普通に魔力ポーション、アイリスのは脳の疲労に効くシュガーポーションにしてある。甘いけど、カロリー的にはゼロだから安心してくれ」

「そんなこと、気にしたことはないんだけどね。うん、甘いものは好きだし、ありがとうメルス!」

「……俺のは普通のかよ」

「ああ、普通にポーションだな」


 甘いと聞いてすぐにゴクゴクと飲み干したアイリスに対し、カナタはまだ口を付けないでいた。

 溜め息を吐いて、それからゆっくりと……なぜか艶めかしく口に含むと、目をパチパチさせた後、一気に飲み干す。


「ねぇねぇ、カナタは急にどうしたの?」

「普通にポーションを出しただけだぞ。コアさんに聞いた、カナタが好きなチョコ味を付けておいたポーションを」

「えー、私もチョコが良かったかも~」

「ははっ、まあ今度な。フィレルに怒られるぞ、甘いモノばかり取ったらダメだって」


 前に言われているのを見たし、たぶん間違いなく言われるだろう。
 彼女もそれを理解しているのか……うっ、と唸った後は何も強請ってこなかった。


「ぷはぁ……美味いな、これ!」

「コアさんに感謝するんだな。リンゴ味とかミカン味を作って、もうこれ以上味を作る気は無かったんだから。ちなみに、依頼されたからアポ□味とかも用意してあるぞ」

「「本当(か)!?」」

「そっちの世界でも人気だっただな……他にもお菓子はいくつか再現してあるが、それはまあ別の機会にしよう」


 今はあくまで、魔法の出力に関することを実験している最中だ。
 頑張った後のご褒美は、ポーションで我慢してもらおうか。


  ◆   □   ◆   □   ◆


「──結論から言えば、見た限り籠められる魔力にはやはり限界がある。それを解決するには、体外の魔力を自分用にしたうえで魔法に供給する必要があるわけだ」

「つまり……外側ならいいってことか? けど、普通はできないだろう?」

「まあな。魔法は基本、外と内の両方から混ぜ合わせて使っている。魔力が体内に保存されているもので、全部体内でやっているとすぐに枯渇するからだ。だから外側の魔力をある程度混ぜて、魔法に使っている」


 人によってその比率は違うが、自分の魔力で魔法を使う方が性能は上がる。
 ただし、乱発していると死ぬので、しっかりとした制御が必要だ。

 制御できていないと内側から引き出してしまい、上がった性能を自分の実力だと錯覚してしまい、さらに内側から引き出そうとして死にかけるようになる。

 だが、外側の魔力は自分用に加工されていない大気中のモノ。
 そちらから引っ張り出してばかりいると、全然性能が高くない魔法になってしまう。


「出力に限界が出るのは、外側の魔力で不純物が入るからだ。分かりやすい例えなら……うん、ゴミが詰まって何も出てこなくなる感じだな」

「……血管に引っかかるって感じか?」

「吸い込むイメージになっちゃうけど、掃除機とかそんな感じだよね」

「そうそう、そういうのでいい。やっぱり地球人だと説明がすんなりいくよ」


 自分じゃ考え付かないことも、他者と共に考えることで辿り着ける。
 本当、三人寄れば文殊の知恵とは、まさにこのことだな。


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