上 下
1,814 / 2,518
偽善者と廻る縁 二十八月目

偽善者と輸血狩り その18

しおりを挟む


 翌日、帝国は荒れに荒れた。
 暴れていた吸血鬼ヴァンパイアは帝国の騎士で、それは魔具によって普人族が成って起きたものだと知れ渡ったからだ。

 情報源は分からずとも、人々はその情報を信じて帝国に苦言を申し立てる。
 まあ、そんなこと関係ないと言わんばかりに、兵士たちが鎮圧作業をしていた。


「……酷いことになっているな。まあ、それは全部俺のせいなんだけども」

「死ぬかと思った」

「ブラッドポーションで回復していれば、倒せると思ったんだよ。実際、最後には力を合わせて倒すことができただろう?」


 俺が野に放った騎士の吸血鬼は、かなりの被害を出したのちに討伐されている。
 誰彼構わず暴虐の限りを尽くした後、一致団結したメィや兵士たちに倒されたのだ。

 吸血鬼、吸血鬼狩りハンター、帝国民、祈念者プレイヤー……そのすべてを脅かした偽りの吸血鬼は、最期には糧にしようとした者たちによって命を奪われるのだった。


「お陰でレベルアップしただろう? メィが強くなったようで何よりだよ」

「…………」

「軽蔑したか? 彼は俺の命を狙い、ペフリの血を提供することを拒んだ。何一つ、対話する道なんて残っていなかった。だから俺も尊厳を踏み躙り、それでも出来得る最大限の活用を選んだ……事実、生き延びたわけだ」


 普通にやっているだけでは、被害はより拡大していただろう。
 だが今回、少なくとも一般人に被害が出ることは無かった。

 奇跡と言っても過言ではない。
 殺すことを厭わない狂人が出た際、家屋に籠る人を殺すことなど、この世界では武技や魔法一発で行える単純作業なのだから。

 実際、どれだけ忠義に篤い騎士だろうが、その指向性を弄っただけであの始末。
 無論俺が関わらなければ起きなかった自体だ、しかし力を持つ責任とはそういうもの。


「血はだいぶ集まった。帝国民は疑心暗鬼を始め、上流階級たちはその嫌疑をなんとかしなければならない。そのうえで、暗躍する吸血鬼たちへの対処……祈念者は重要な人材として使われるだろう」

「それで、どうなるの?」

「これまではまだ、祈念者の中でもそこまで強くない奴らだった」

「……あれで?」


 祈念者の戦力を分けると三パターン。

 まだ種族レベルがカンストしていない。
 カンストはしたが、そこまで強くない。
 固有能力や超級職に辿り着いた奴。

 ……物凄く大雑把に分けると、こんな感じである。
 最後の奴は祈念者でも数が少なく、極めて珍しい……が、そろそろ来るだろう。


「問題が大きくなれば大きくなるほど、拒む障害も強くなる。まるでそれが、何かの思し召しであるかのように」

「何か?」

「そう、ナニカだよ。神様でも星でも、彼らの言う偉大なる皇帝陛下様でもいい。誰もの意思にせよ、行動は必ず変化を促す。安寧と変革……言い方がアレだな。要するに、挑む相手はだんだん強くなる」


 縛りなしの俺が苦戦する相手は、少なくとももう祈念者には居ない。
 たとえあのアルカが相手でも、眷属の力全てを使えば圧勝できるからな。

 だが、『超越種』や『厄災種』であれば話は別だろう。
 実際、前者であるアイはかなり強いし、どちらの候補者だったソウは理不尽の権化だ。

 最も新しい『超越種』であるニィナも、可能性という意味では俺以上。
 別に最強でも無敵でも無いので、勝てない相手なんてかなりいる。


「とはいえ、俺の考えている奴らが全員出て来るわけじゃないが。でも、間違いなく帝国に存在する戦力は出してくるだろう。このまま出し抜かれたままじゃ、アイツらも黙っていられないだろうからな」


 少なくとも、彼の騎士みたいに忠誠を誓うヤツは動き出すだろう。
 祈念者の最強候補たる『選ばれし者』は、さて……どうだろうか?


「ゆっくりと情報戦をやるつもりだ。これ以上は、バックアップだけして一度に集めさせた方がいいだろう」

「集めさせる……」

「血を魔具越しに利用している以上、その調整が必要になる。例の吸血鬼化と暴走を絡めて考えると、勝手に意識するんだ。それを修正するためにどうすればいいのかってな」

「なるほど……」


 あえて帝城の地下にある研究施設は、いっさい手を付けていない。
 そこで魔具の研究をしているので、そちらの警備が厳重なのも知っているからな。


「結局のところ、俺たちの勝利条件はかなり難しい。魔具を持っていかれたらその回収が大変だし、取り込まれて逃げられたらもっと面倒になる。たとえ皇帝を殺しても、血を集められなければ勝てないわけだ」

「殺せるの?」

「ん? まあ、それだけならな。運営……神の祝福を持っているみたいだが、神殺しの力も持ち合わせているから問題ない。けど、何度も言うが血が得られないと、目的を達成できないからな。慎重に動く必要がある」

「……慎重」


 訝しむ視線で見てくるメィ。
 いやまあ、たしかに結構計画を変えては混乱させちゃったけども。

 そもそも俺に小難しい計画は似合わない。
 そういうのは眷属に任せて、俺は言われたことだけやっていきたいものだ……それはそれで、何かしら不服に思っちゃうんだがな。


「……まあともあれ、しばらく間を置こう。というわけで報酬なんだが……どうする?」

「何が?」

「ブラッドポーション、欲しい武具、それ以外の何か。それとも後回し……何でもいいけど、雇った分の報酬を払うよ。さて、どうするんだ?」


 俺に払える物なら払っておこう。
 今回の活躍で、彼女の聖剣が一段階成長したことを確認している。

 俺にはできなかったことを、彼女はやってくれた……ならば、支払って当然だ。
 やがてメィは、俺に報酬を告げる──叶えてやらないとな。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?

破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。 そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。 無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた… 表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと イラストのurlになります 作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)

虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

処理中です...