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偽善者と廻る縁 二十八月目

偽善者と輸血狩り その17

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「──“血幻ブラッドイリュージョン”」


 騎士を地上に誘導しながら、剣を振るいつつ魔法を発動させる。
 媒介は先日、帝国中にバラまいた血……このための布石というわけじゃないがな。

 だが、どうせすぐにバレる。
 騎士が思いのほか強化されたので、計画に土壇場だが組み込んでみる……メィには悪いが、雇用主ということで許してもらおう。

 ともあれ、そんな雇用者をも巻き込む追加の計画は、“血幻”が引き起こす集団幻覚。
 血に含まれた魔力の濃度が高いほど、その成功率は高い……その血はすべて俺のモノ。


「失敗するわけがない。さて、どっぷり血を浴びせた騎士はどうなるかな?」


 まあ、レベル250かつ装備もだいぶ高級品なので、幻覚への抵抗値はかなり高い。
 普通なら効かなかったかもしれないが……今の彼は、吸血鬼ヴァンパイアなのだ。


「うぐぅ……うがぁああ!」

「血を媒介にした魔法である以上、その本能が多くの血を欲する。まして、まだ成ったばかり。それを制御する術はないのに、消費したエネルギーを補給するために取り込まないといけないんだよ」


 俺の言ったことはすべて事実、フィレルにも協力してもらって調べ上げている。
 吸血鬼は血に関する事象において、通常よりも多くのものを得られるのだ。

 だがそれは、すべてがイイことというわけでもない。
 実際、フィレルは酔ったらアレだし、今回の件のように……吸血鬼は血で狂うのだ。

 だからこそ忌み嫌われ、地球と同じような扱いを受けている。
 それこそアンデッドである『吸血飢バンパイア』と、同列の扱いを受けるという屈辱付きで。

 共に聖属性に弱いという弱点はあるが、それは加護とかいろんな理由があるのだ。
 それゆえに、同じとか言ったら普通に吸血鬼はキレる……みんな、気を付けてね♪


「とかなんとか言っている間に、完全に夢に堕ちたな……さて、設定を弄ろーっと」


 騎士の空腹感を煽り、認識を書き換える。
 もっとも重要な部分、つまり皇帝云々さえそのままにしておけば気づかれない。

 むしろそこに意識を集中させ、それ以外への思考を騎士自身に排除させる。
 そうして作った意図的な認識を、さらに動かし──向ける相手を調整すれば完成だ。


「うぎぎっ、ぐがぁあああ……!」

「ちょっと弄りすぎたかな? 仕方がない、ズルいけど──“認識誘導ガイダンス”」

「ぐぐぐ……吸血鬼、殺す。血、吸い取ってやる!」

「うんうん、その調子その調子。それじゃあさっそく、行ってみよー!」


 俺の言葉を引き金に、騎士は動き出す。
 彼の意識の中では、それを行うことこそが皇帝陛下のためになる……とかそういう結論に至っているはずだ。

 なまじ万全の耐性で挑んでいたからこそ、俺のやったことが上手くいくとは思わない。
 そして、それに気づかないまま……すべてが終わるまで暴れ続ける。


「ど、どうしてこちら──ぎゃぁあああ!」「止めてください! 私たちは──カッ!」「な、なぜ……どうして……」

「吸血鬼殺す! 血を寄越せ!」

「「「ぎゃぁああああ!」」」


 剣を振るっては血を集め、それを吸い上げていく……まだ牙ではない辺り、完全では無いみたいだが。

 それでも血を集め、何度も体内に取り込み続けている。
 兵士や騎士を切って斬って、どんどん数を減らしてくれていた。

 しばらくすれば、帝国民たちもそれを知っていく……そして、声が聞こえる。


「──様は吸血鬼になった。なぜ、どうしてこんなことに……」「奴らの仕業だ! 奴らが、何か魔法でやったんだ!」「いや、アイツらは吸った相手を吸血鬼にできるんだ!」


 様々な情報が錯綜した。
 だが、それらすべてを気にする必要などない……これもまた、すべて仕込みだ。

 魔導“統括されし狂信の共進”の影響は、情報戦でも役に立つ。
 次第に話は変化し、帝国に責を求めるような意見に変わっていく。


「……だが聞いたぞ、これは皇帝陛下が指示したことだと」「吸血鬼を幽閉し、吸血鬼となる技術を得たらしいな」「他にも──」


 真実と嘘の情報を交え、それらを洗脳状態にある奴らから流していく。
 すべてが嘘ではないことで、その情報をある程度考えに入れてしまう。

 少しずつそれは埋伏の毒と化し、ゆっくりと真綿で首を締めるように、帝国を蝕んでいくことになる。


「でも、これはまだ後の話。そろそろ終わりにしようかな」

「血を、血を寄越せ!」

「[血涙]──『搾り取れ』」

「血を──がぁあああああ!」


 呪剣を取りだして力を解放。
 何度か使っている内に、呪剣も自分が呼ばれた際に何をすればいいのか学んだ。

 可能な限りペフリの血を抽出すると、余計な血液は勝手に処理してくれる。
 ……まあ、それはいずれ何かをするために溜め込んでいるんだとは思うが。

 ともあれ、ペフリの血にはいっさい手を付けずにこちらに提供してくれる。
 血を奪われた騎士は、飢餓状態を逃れようと足掻くために手をバタつかせていた。

 血を奪ってもまだ生きているのだ。
 そして、また血を啜れば生き残るだけの可能性を秘めている。


「──さぁ、悲劇を。より藻掻き、この地に最悪をもたらおうとしてくれ……安心してくれ、ちゃんと救いはあるさ」


 それからしばらくして、吸血鬼はしっかりと駆除されることに。
 ただしその数は一体、綺麗な鎧を血で染め上げた個体のみだった。


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