1,813 / 2,518
偽善者と廻る縁 二十八月目
偽善者と輸血狩り その17
しおりを挟む「──“血幻”」
騎士を地上に誘導しながら、剣を振るいつつ魔法を発動させる。
媒介は先日、帝国中にバラまいた血……このための布石というわけじゃないがな。
だが、どうせすぐにバレる。
騎士が思いのほか強化されたので、計画に土壇場だが組み込んでみる……メィには悪いが、雇用主ということで許してもらおう。
ともあれ、そんな雇用者をも巻き込む追加の計画は、“血幻”が引き起こす集団幻覚。
血に含まれた魔力の濃度が高いほど、その成功率は高い……その血はすべて俺のモノ。
「失敗するわけがない。さて、どっぷり血を浴びせた騎士はどうなるかな?」
まあ、レベル250かつ装備もだいぶ高級品なので、幻覚への抵抗値はかなり高い。
普通なら効かなかったかもしれないが……今の彼は、吸血鬼なのだ。
「うぐぅ……うがぁああ!」
「血を媒介にした魔法である以上、その本能が多くの血を欲する。まして、まだ成ったばかり。それを制御する術はないのに、消費したエネルギーを補給するために取り込まないといけないんだよ」
俺の言ったことはすべて事実、フィレルにも協力してもらって調べ上げている。
吸血鬼は血に関する事象において、通常よりも多くのものを得られるのだ。
だがそれは、すべてがイイことというわけでもない。
実際、フィレルは酔ったらアレだし、今回の件のように……吸血鬼は血で狂うのだ。
だからこそ忌み嫌われ、地球と同じような扱いを受けている。
それこそアンデッドである『吸血飢』と、同列の扱いを受けるという屈辱付きで。
共に聖属性に弱いという弱点はあるが、それは加護とかいろんな理由があるのだ。
それゆえに、同じとか言ったら普通に吸血鬼はキレる……みんな、気を付けてね♪
「とかなんとか言っている間に、完全に夢に堕ちたな……さて、設定を弄ろーっと」
騎士の空腹感を煽り、認識を書き換える。
もっとも重要な部分、つまり皇帝云々さえそのままにしておけば気づかれない。
むしろそこに意識を集中させ、それ以外への思考を騎士自身に排除させる。
そうして作った意図的な認識を、さらに動かし──向ける相手を調整すれば完成だ。
「うぎぎっ、ぐがぁあああ……!」
「ちょっと弄りすぎたかな? 仕方がない、ズルいけど──“認識誘導”」
「ぐぐぐ……吸血鬼、殺す。血、吸い取ってやる!」
「うんうん、その調子その調子。それじゃあさっそく、行ってみよー!」
俺の言葉を引き金に、騎士は動き出す。
彼の意識の中では、それを行うことこそが皇帝陛下のためになる……とかそういう結論に至っているはずだ。
なまじ万全の耐性で挑んでいたからこそ、俺のやったことが上手くいくとは思わない。
そして、それに気づかないまま……すべてが終わるまで暴れ続ける。
「ど、どうしてこちら──ぎゃぁあああ!」「止めてください! 私たちは──カッ!」「な、なぜ……どうして……」
「吸血鬼殺す! 血を寄越せ!」
「「「ぎゃぁああああ!」」」
剣を振るっては血を集め、それを吸い上げていく……まだ牙ではない辺り、完全では無いみたいだが。
それでも血を集め、何度も体内に取り込み続けている。
兵士や騎士を切って斬って、どんどん数を減らしてくれていた。
しばらくすれば、帝国民たちもそれを知っていく……そして、声が聞こえる。
「──様は吸血鬼になった。なぜ、どうしてこんなことに……」「奴らの仕業だ! 奴らが、何か魔法でやったんだ!」「いや、アイツらは吸った相手を吸血鬼にできるんだ!」
様々な情報が錯綜した。
だが、それらすべてを気にする必要などない……これもまた、すべて仕込みだ。
魔導“統括されし狂信の共進”の影響は、情報戦でも役に立つ。
次第に話は変化し、帝国に責を求めるような意見に変わっていく。
「……だが聞いたぞ、これは皇帝陛下が指示したことだと」「吸血鬼を幽閉し、吸血鬼となる技術を得たらしいな」「他にも──」
真実と嘘の情報を交え、それらを洗脳状態にある奴らから流していく。
すべてが嘘ではないことで、その情報をある程度考えに入れてしまう。
少しずつそれは埋伏の毒と化し、ゆっくりと真綿で首を締めるように、帝国を蝕んでいくことになる。
「でも、これはまだ後の話。そろそろ終わりにしようかな」
「血を、血を寄越せ!」
「[血涙]──『搾り取れ』」
「血を──がぁあああああ!」
呪剣を取りだして力を解放。
何度か使っている内に、呪剣も自分が呼ばれた際に何をすればいいのか学んだ。
可能な限りペフリの血を抽出すると、余計な血液は勝手に処理してくれる。
……まあ、それはいずれ何かをするために溜め込んでいるんだとは思うが。
ともあれ、ペフリの血にはいっさい手を付けずにこちらに提供してくれる。
血を奪われた騎士は、飢餓状態を逃れようと足掻くために手をバタつかせていた。
血を奪ってもまだ生きているのだ。
そして、また血を啜れば生き残るだけの可能性を秘めている。
「──さぁ、悲劇を。より藻掻き、この地に最悪をもたらおうとしてくれ……安心してくれ、ちゃんと救いはあるさ」
それからしばらくして、吸血鬼はしっかりと駆除されることに。
ただしその数は一体、綺麗な鎧を血で染め上げた個体のみだった。
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
ガチャと異世界転生 システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!
よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。
獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。
俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。
単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。
ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。
大抵ガチャがあるんだよな。
幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。
だが俺は運がなかった。
ゲームの話ではないぞ?
現実で、だ。
疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。
そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。
そのまま帰らぬ人となったようだ。
で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。
どうやら異世界だ。
魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。
しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。
10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。
そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。
5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。
残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
スキル喰らい(スキルイーター)がヤバすぎた 他人のスキルを食らって底辺から最強に駆け上がる
けんたん
ファンタジー
レイ・ユーグナイト 貴族の三男で産まれたおれは、12の成人の儀を受けたら家を出ないと行けなかった だが俺には誰にも言ってない秘密があった 前世の記憶があることだ
俺は10才になったら現代知識と貴族の子供が受ける継承の義で受け継ぐであろうスキルでスローライフの夢をみる
だが本来受け継ぐであろう親のスキルを何一つ受け継ぐことなく能無しとされひどい扱いを受けることになる だが実はスキルは受け継がなかったが俺にだけ見えるユニークスキル スキル喰らいで俺は密かに強くなり 俺に対してひどい扱いをしたやつを見返すことを心に誓った
転生初日に妖精さんと双子のドラゴンと家族になりました
ひより のどか
ファンタジー
ただいま女神様に『行ってらっしゃ~い』と、突き落とされ空を落下中の幼女(2歳)です。お腹には可愛いピンクと水色の双子の赤ちゃんドラゴン抱えてます。どうしようと思っていたら妖精さんたちに助けてあげるから契約しようと誘われました。転生初日に一気に妖精さんと赤ちゃんドラゴンと家族になりました。これからまだまだ仲間を増やしてスローライフするぞー!もふもふとも仲良くなるぞー!
初めて小説書いてます。完全な見切り発進です。基本ほのぼのを目指してます。生暖かい目で見て貰えらると嬉しいです。
※主人公、赤ちゃん言葉強めです。通訳役が少ない初めの数話ですが、少しルビを振りました。
※なろう様と、ツギクル様でも投稿始めました。よろしくお願い致します。
※カクヨム様と、ノベルアップ様とでも、投稿始めました。よろしくお願いしますm(_ _)m
VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました
鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。
だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。
チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。
2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。
そこから怒涛の快進撃で最強になりました。
鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。
※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。
その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
魔導具士の落ちこぼれ〜前世を思い出したので、世界を救うことになりそうです〜
OSBP
ファンタジー
科学と魔導が織りなす世界。そんな世界で、アスカ・ニベリウムには一つだけ才能があった。それは、魔導具を作製できる魔導具士としての才だ。だが、『かつて魔導具士は恐怖で世界を支配した』という伝承により、現状、魔導具士は忌み嫌われる存在。肩身の狭い生活をしいられることになる‥‥‥。
そんなアスカの人生は、日本王国のお姫様との出会い、そして恋に落ちたことにより激動する。
——ある日、アスカと姫様はサニーの丘で今年最大の夕陽を見に行く。夕日の壮大さに魅入られ甘い雰囲気になり、見つめ合う2人。2人の手が触れ合った時……
その瞬間、アスカの脳内に火花が飛び散るような閃光が走り、一瞬気を失ってしまう。
再び目を覚ました時、アスカは前世の記憶を思い出していた‥‥‥
前世の記憶を思い出したアスカは、自分がなぜ転生したのかを思い出す。
そして、元の世界のような過ちをしないように、この世界を救うために立ち上がる。
この物語は、不遇な人生を送っていた少年が、前世を思い出し世界を救うまでの成り上がり英雄伝である。
貞操逆転世界の温泉で、三助やることに成りました
峯松めだか(旧かぐつち)
ファンタジー
貞操逆転で1/100な異世界に迷い込みました
不意に迷い込んだ貞操逆転世界、男女比は1/100、色々違うけど、それなりに楽しくやらせていただきます。
カクヨムで11万文字ほど書けたので、こちらにも置かせていただきます。
ストック切れるまでは毎日投稿予定です
ジャンルは割と謎、現実では無いから異世界だけど、剣と魔法では無いし、現代と言うにも若干微妙、恋愛と言うには雑音多め? デストピア文学ぽくも見えるしと言う感じに、ラブコメっぽいという事で良いですか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる