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偽善者と廻る縁 二十八月目

偽善者と輸血狩り その15

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「やっぱり体術はあんまり上手くないな……魔法の方が楽だ」


 俺が一番上手に使えるのは、ファンタジーだからと努力を重ねた魔法だ。
 それからティル師匠に習った剣技で、それ以外の武具の補正再現が並んでいく。

 そのうえで、最後に残るのが体術だ。
 自分の体の性能が異常なので、それらを調整しながら戦う必要がある……人体どころが街を破壊してしまう恐れがあるからな。


「それは武具でも似たような感じだし、魔力操作はどんな状態でもほぼ同じレベルでできるから気にしなくていい。そういう事情も、その使う順に関係しているのかもな」


 吸血鬼は高い身体能力を持つ種族なので、少しだけ普段の縛りより能力値がお高めだ。
 そのためだろうか、先ほどの体術も少々威力の調整に苦労したよ。

 多少工夫をしなければダメだろう。
 そこで吸血鬼ヴァンパイアにも見せた、加工済みの血を入れた試験管をいくつか取りだす。


「さて……次が来たね──“血装ブラッドアームズ”」


 現れたのは複数の騎士。
 一人は例の魔具持ちのようだが、それ以外の者は魔道具で空を飛んでいるようだ。

 体の表面に血を流し、魔法を掛ける。
 すると液体は固体としての形を得て、鎧やら手甲などに変化していく。

 特に手甲は力を籠めた。
 吸血鬼対策に闇属性を、吸血鬼狩りやその他敵対者対策に対となる光属性への耐性を付与しているからだ。

 他にもそれぞれ各パーツが損傷後はすぐに血が補填され、再生可能になっている。
 あとからやる暇がない、そう思える相手だとやった甲斐が生まれるんだけどな。


「──“大斬撃パワースラッシュ”」

「っと……無粋だね」

「黙れ、吸血鬼共が。皇帝陛下のお膝元であるこの都に、貴様らのようなカトンボが居る場所など無い」

「そうは言ってもね……君が持っているその剣だって、その吸血鬼から搾り取った血でできたんだよ? つまり、皇帝は吸血鬼を必要としていた……要は吸血鬼の存在を暗に認めていたんだから」


 ペフリの血が無ければ、現れた騎士もそこまで強くなかっただろう。
 しかし、素のレベルがカンストし、そこにペフリの血で補正が加わった現在。

 それなりに苦戦する相手だろう……縛りを設けた状態であれば。


「認めてなどいない。皇帝陛下は貴様らを害悪してしか見ていない。だが、その中に少しはマシなカトンボが居ただけのこと。貴様らの絶滅を行える、血清を持ったカトンボをこき使っただけだ」

「血清……って、お兄さん笑わせるね。それは罪の証、君たちの皇帝が騙すことでしか頂に居られないって証拠じゃないか」

「……なんだと。貴様、皇帝陛下になんというモノ言いを!」

「へーんだ。文句があるなら、まずは勝ってから言うんだね──“血陣乱舞ブラッドダンス”」


 大量の血を刃状に固め、次々と近づいてくる騎士たちに振らせていく。
 先ほどから語っている魔具持ちの騎士はもちろん、この程度は他の騎士も耐えている。

 刃の威力が低いのもあるが、取り揃えている魔道具の優秀さもあるのだろう。
 鎧とか装飾具の効果だろう、障壁がある程度の攻撃を防いでいるようだ。


「──“灼熱血流ヒートブルード”、“凍熱血流コールドブルード”」


 血を操るための魔力を通じて、血潮魔法で更なる加工を施す。
 その結果、刃が熱くなったり冷たくなったりし、その耐性が無い騎士を墜としていく。

 熱はそれぞれ極端なレベルまで高まり、触れた者を融かし、固める。
 刃はやがて騎士の数を、三人になるまで減らした。


「──“血写人形ブラッドドール”、“串刺血杭ブラッドツェペシ”」


 血を数滴垂らすと、それを小さな人形にして襲わせる。
 それを捌こうとすれば、そこから大量の杭が突如として飛び出す。

 障壁の魔道具は砕け散り、空を飛ぶこともできなくなった騎士たちが落ちていく。


「……残ったのは、一人だけだね」

「よくも……よくも皇帝陛下の御剣を!」

「あんな紛い物はどうでもいいでしょう? それよりも、返してよその血を。必要ないでしょう、もう充分に強いんだから」

「黙れ! 強さの問題ではない、偉大なる皇帝陛下より授かりしこの証を! 貴様のような下劣で下等なカトンボに渡すことなどありえぬわ!」


 高々に宣言する騎士は、剣を俺に向けて突き付けてくる。
 今の見た目は子供サイズなのに……かなり敵意が酷いな。


「その命を以って、贖うがいい」

「断る。それよりも、速く返してくれた方が嬉しいかな──『星鯨スターホエール守護者ガーディアン』」

「! 黒い鯨……だと」


 影像眼で呼びだしたのは、かつて大量に滅ぼした鯨の一隊。
 守護者の名を冠した鯨たちは、いっせいに騎士に襲い掛かる。

 レベルは250、それは人族ではなく魔物としてのカンスト。
 能力値で勝負するのであれば、間違いなく騎士よりも上位に存在した。

 おまけに守護者の名を冠することで、俺を守るための戦闘でさらに能力値が向上する。
 苦戦することは間違いなし、時間を掛ければ下はより酷いことになる……故に。


「偉大なる皇帝陛下に万歳!」

「……うわー」


 ごくまれに、追い込まれた奴らが取る最悪の手段──体内への血液注入。
 それを実行した騎士は、しばらく体内で起きる変化に苦しむ。

 それでも、これまでの貴族たちと違って悲鳴を上げることはない。
 やがて、男は苦しみから解放され──力を手に入れる。

 ……吸血鬼として、だいぶ面倒な域までその格を高めて。


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