上 下
1,811 / 2,519
偽善者と廻る縁 二十八月目

偽善者と輸血狩り その15

しおりを挟む


「やっぱり体術はあんまり上手くないな……魔法の方が楽だ」


 俺が一番上手に使えるのは、ファンタジーだからと努力を重ねた魔法だ。
 それからティル師匠に習った剣技で、それ以外の武具の補正再現が並んでいく。

 そのうえで、最後に残るのが体術だ。
 自分の体の性能が異常なので、それらを調整しながら戦う必要がある……人体どころが街を破壊してしまう恐れがあるからな。


「それは武具でも似たような感じだし、魔力操作はどんな状態でもほぼ同じレベルでできるから気にしなくていい。そういう事情も、その使う順に関係しているのかもな」


 吸血鬼は高い身体能力を持つ種族なので、少しだけ普段の縛りより能力値がお高めだ。
 そのためだろうか、先ほどの体術も少々威力の調整に苦労したよ。

 多少工夫をしなければダメだろう。
 そこで吸血鬼ヴァンパイアにも見せた、加工済みの血を入れた試験管をいくつか取りだす。


「さて……次が来たね──“血装ブラッドアームズ”」


 現れたのは複数の騎士。
 一人は例の魔具持ちのようだが、それ以外の者は魔道具で空を飛んでいるようだ。

 体の表面に血を流し、魔法を掛ける。
 すると液体は固体としての形を得て、鎧やら手甲などに変化していく。

 特に手甲は力を籠めた。
 吸血鬼対策に闇属性を、吸血鬼狩りやその他敵対者対策に対となる光属性への耐性を付与しているからだ。

 他にもそれぞれ各パーツが損傷後はすぐに血が補填され、再生可能になっている。
 あとからやる暇がない、そう思える相手だとやった甲斐が生まれるんだけどな。


「──“大斬撃パワースラッシュ”」

「っと……無粋だね」

「黙れ、吸血鬼共が。皇帝陛下のお膝元であるこの都に、貴様らのようなカトンボが居る場所など無い」

「そうは言ってもね……君が持っているその剣だって、その吸血鬼から搾り取った血でできたんだよ? つまり、皇帝は吸血鬼を必要としていた……要は吸血鬼の存在を暗に認めていたんだから」


 ペフリの血が無ければ、現れた騎士もそこまで強くなかっただろう。
 しかし、素のレベルがカンストし、そこにペフリの血で補正が加わった現在。

 それなりに苦戦する相手だろう……縛りを設けた状態であれば。


「認めてなどいない。皇帝陛下は貴様らを害悪してしか見ていない。だが、その中に少しはマシなカトンボが居ただけのこと。貴様らの絶滅を行える、血清を持ったカトンボをこき使っただけだ」

「血清……って、お兄さん笑わせるね。それは罪の証、君たちの皇帝が騙すことでしか頂に居られないって証拠じゃないか」

「……なんだと。貴様、皇帝陛下になんというモノ言いを!」

「へーんだ。文句があるなら、まずは勝ってから言うんだね──“血陣乱舞ブラッドダンス”」


 大量の血を刃状に固め、次々と近づいてくる騎士たちに振らせていく。
 先ほどから語っている魔具持ちの騎士はもちろん、この程度は他の騎士も耐えている。

 刃の威力が低いのもあるが、取り揃えている魔道具の優秀さもあるのだろう。
 鎧とか装飾具の効果だろう、障壁がある程度の攻撃を防いでいるようだ。


「──“灼熱血流ヒートブルード”、“凍熱血流コールドブルード”」


 血を操るための魔力を通じて、血潮魔法で更なる加工を施す。
 その結果、刃が熱くなったり冷たくなったりし、その耐性が無い騎士を墜としていく。

 熱はそれぞれ極端なレベルまで高まり、触れた者を融かし、固める。
 刃はやがて騎士の数を、三人になるまで減らした。


「──“血写人形ブラッドドール”、“串刺血杭ブラッドツェペシ”」


 血を数滴垂らすと、それを小さな人形にして襲わせる。
 それを捌こうとすれば、そこから大量の杭が突如として飛び出す。

 障壁の魔道具は砕け散り、空を飛ぶこともできなくなった騎士たちが落ちていく。


「……残ったのは、一人だけだね」

「よくも……よくも皇帝陛下の御剣を!」

「あんな紛い物はどうでもいいでしょう? それよりも、返してよその血を。必要ないでしょう、もう充分に強いんだから」

「黙れ! 強さの問題ではない、偉大なる皇帝陛下より授かりしこの証を! 貴様のような下劣で下等なカトンボに渡すことなどありえぬわ!」


 高々に宣言する騎士は、剣を俺に向けて突き付けてくる。
 今の見た目は子供サイズなのに……かなり敵意が酷いな。


「その命を以って、贖うがいい」

「断る。それよりも、速く返してくれた方が嬉しいかな──『星鯨スターホエール守護者ガーディアン』」

「! 黒い鯨……だと」


 影像眼で呼びだしたのは、かつて大量に滅ぼした鯨の一隊。
 守護者の名を冠した鯨たちは、いっせいに騎士に襲い掛かる。

 レベルは250、それは人族ではなく魔物としてのカンスト。
 能力値で勝負するのであれば、間違いなく騎士よりも上位に存在した。

 おまけに守護者の名を冠することで、俺を守るための戦闘でさらに能力値が向上する。
 苦戦することは間違いなし、時間を掛ければ下はより酷いことになる……故に。


「偉大なる皇帝陛下に万歳!」

「……うわー」


 ごくまれに、追い込まれた奴らが取る最悪の手段──体内への血液注入。
 それを実行した騎士は、しばらく体内で起きる変化に苦しむ。

 それでも、これまでの貴族たちと違って悲鳴を上げることはない。
 やがて、男は苦しみから解放され──力を手に入れる。

 ……吸血鬼として、だいぶ面倒な域までその格を高めて。


しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

異世界転生? いいえ、チートスキルだけ貰ってVRMMOをやります!

リュース
ファンタジー
主人公の青年、藤堂飛鳥(とうどう・あすか)。 彼は、新発売のVRMMOを購入して帰る途中、事故に合ってしまう。 だがそれは神様のミスで、本来アスカは事故に遭うはずでは無かった。 神様は謝罪に、チートスキルを持っての異世界転生を進めて来たのだが・・・。 アスカはそんなことお構いなしに、VRMMO! これは、神様に貰ったチートスキルを活用して、VRMMO世界を楽しむ物語。 異世界云々が出てくるのは、殆ど最初だけです。 そちらがお望みの方には、満足していただけないかもしれません。

劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す! 無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。 カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。 唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。 学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。 クラスメイトは全員ライバル! 卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである! そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。 それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。 難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。 かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。 「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」 学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。 「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」 時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。 制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。 そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。 (各20話編成) 1章:ダンジョン学園【完結】 2章:ダンジョンチルドレン【完結】 3章:大罪の権能【完結】 4章:暴食の力【完結】 5章:暗躍する嫉妬【完結】 6章:奇妙な共闘【完結】 7章:最弱種族の下剋上【完結】

最弱テイマーの成り上がり~役立たずテイマーは実は神獣を従える【神獣使い】でした。今更戻ってこいと言われてももう遅い~

平山和人
ファンタジー
Sランクパーティーに所属するテイマーのカイトは使えない役立たずだからと追放される。 さらにパーティーの汚点として高難易度ダンジョンに転移され、魔物にカイトを始末させようとする。 魔物に襲われ絶体絶命のピンチをむかえたカイトは、秘められた【神獣使い】の力を覚醒させる。 神に匹敵する力を持つ神獣と契約することでスキルをゲット。さらにフェンリルと契約し、最強となる。 その一方で、パーティーメンバーたちは、カイトを追放したことで没落の道を歩むことになるのであった。

拝啓、お父様お母様 勇者パーティをクビになりました。

ちくわ feat. 亜鳳
ファンタジー
弱い、使えないと勇者パーティをクビになった 16歳の少年【カン】 しかし彼は転生者であり、勇者パーティに配属される前は【無冠の帝王】とまで謳われた最強の武・剣道者だ これで魔導まで極めているのだが 王国より勇者の尊厳とレベルが上がるまではその実力を隠せと言われ 渋々それに付き合っていた… だが、勘違いした勇者にパーティを追い出されてしまう この物語はそんな最強の少年【カン】が「もう知るか!王命何かくそ食らえ!!」と実力解放して好き勝手に過ごすだけのストーリーである ※タイトルは思い付かなかったので適当です ※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました 以降はあとがきに変更になります ※現在執筆に集中させて頂くべく 必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします ※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください

パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。

荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品 あらすじ  勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。  しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。  道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。  そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。  追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。  成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。  ヒロインは6話から登場します。

World of Fantasia

神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。 世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。 圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。 そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。 現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。 2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。 世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。

異世界サバイバルゲーム 〜転移先はエアガンが最強魔道具でした〜

九尾の猫
ファンタジー
サバイバルゲームとアウトドアが趣味の主人公が、異世界でサバゲを楽しみます! って感じで始めたのですが、どうやら王道異世界ファンタジーになりそうです。 ある春の夜、季節外れの霧に包まれた和也は、自分の持ち家と一緒に異世界に転移した。 転移初日からゴブリンの群れが襲来する。 和也はどうやって生き残るのだろうか。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...