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偽善者と廻る縁 二十八月目
偽善者と輸血狩り その14
しおりを挟む結局というか当然というか、吸血鬼たちは俺の提案に乗った。
さすがはフィレルの認めた、特殊加工がされた俺の血である。
「お前たちに武器をくれてやる。吸血鬼狩りたちもいるからな、それに対抗できるだけの力が無いとダメだろう──“影保管”」
影を、そして影を有する存在を保存しておける魔法から取り出すのは、予め移しておいた武器の数々。
ただ、少しだけ銀や聖なる光に耐性を持っているという代物。
そしてその効果を、その装備者にも与えるというだけのこと。
だがそれだけでも、彼らからすれば目から鱗が落ちるほどの逸品。
何度か、本当にこれをくれるのかと言ってきた……いや、貸すって言っただろ。
「貴様は……いったい、何者なのだ?」
「俺は俺、ただの紛い物。だが、本物以上に力だけは持っている正体不明の存在ってところだ。ほら、もういいだろう。さっさと地上に赴き契約を履行するがよい」
「わ、分かった──よし、行くぞ!」
代表者の号令で彼らは、いっせいに地上で兵士や騎士たちに攻撃を仕掛ける。
メィにはいちおう“共血”で連絡してあり、誤解はせず訝しむ視線を向けるだけだ。
「ともあれ、このままやっていけばいいか」
《……何をするの?》
「上空で攻撃と支援を行う吸血鬼が居れば、誰かしらが飛んでくるだろう? そいつから魔具を奪い取る」
変身魔法で前回と同じ姿を取って、魔法で創られた存在だと誤認させる。
あの時と違って解除しても消えないが、そこは転移で補えばいいさ。
《ねぇ、どうして彼らを使ったの?》
「メィは嫌だったか? 吸血鬼を臨時で雇って、簡単な仕事をさせるのは? 言ってみれば、メィがやっているのは本命の仕事。彼らにやらせるのはそのサポートだな。どうせ払う物は安易な血、気にしなくてもいい」
《──陽光に耐えられるようになる血、それが欲しい吸血鬼は多い。それは日の下でも、暴れることを望んでいるから》
「早計だった、と言いたいわけか。でも、そこは気にしなくてもいい。俺の血はある加工がされているから、そこまで長くは続けられない。曰く、耐性スキルが有っても耐えられない中毒性があるだけなんだとか」
それを聞いたメィの反応ときたら。
嫌がり方が尋常じゃなかった……それはそれで、その血の持ち主は結構辛い思いをすると分かってもらいたい。
「まっ、ともかく。そろそろこっちにも誰か来るだろう。メィ、その前に何かやっておきたいこととかあるか?」
《……海水が欲しい》
「了解──“潮吹”」
広範囲に塩水を飛ばすという、まあ鯨のアレを再現したような魔法。
しかし魔力を大量に注ぎ、強化することでまんま海水を飛ばすことに成功した。
至る所に降り注ぐしょっぱい雨。
それこそ先日降り注いだ赤い血を、洗い流すかのように膨大な量を。
「そして、これだけ大規模に魔法を使えば、さすがに探知される。これは間違いなく誘いだと思われるが、それでもここに来ざるを得ない……可哀想だな、仕える奴は」
現在、俺は上空という主導権を確保している……空から攻撃でもやりたい放題だ。
それを阻止するためには、防がなくてはならない──具体的には敵の排除を行って。
「来たか……吸血鬼化していない。そうか、普通に風魔法か飛行系の魔法を付与されて、ある程度ここで戦えるようにしているのか」
「貴様、いったいここで何をしている!」
「これだけやったのに、まだ気づかないんだね……やれやれ。じゃあ、始めようか──血の舞踏会をね」
「ッ……!」
吸血鬼の戦闘スタイルは、血での遠隔戦闘と人外の身体能力を用いた近距離戦闘。
これまでさんざん前者で戦っていたので、今回は後者でやってみる。
「──“血意複写”、“灼熱血流”」
ペフリの血を取り込み、重ねて血系統の魔法を行使した。
それは血を熱くすることで、体自体に熱を帯びさせることができる魔法だ。
人外の身体能力と相手を焼く熱、これら二つを得たことで準備は整った。
空で十全に戦えない騎士を相手に、宙を蹴りだして接近する。
「──“鋼鉄爪”」
「くっ、“刃防御”!」
「その程度で……無駄だよ、この爪は鋼をも切り裂くんだから!」
魔力で強度を上げているようだが、血が籠められた魔具でない以上強度は高くない。
逆に俺は高いステータス値をごり押しし、強行突破──爪で剣を削り切った。
「小癪な……!」
「どれだけカッコイイ言葉が言えたって、そのまま死んだら無様だよね」
「何だと……」
「要するにこういうこと──“猛虎烈爪”」
先ほどの単発武技とは違う、高速で手を動かして行う連続攻撃。
虎の名を冠したその猛攻は、騎士の防御を容易く掻い潜り……鎧すら切り裂いた。
「つまりね、もっと強いヤツを連れて来いってこと。ほら、生かしてあるから早く伝えて来てね……こういうのを、生き恥を晒すって言うんだよ」
「きさ……きさまぁああああああああ!」
「あはっ、あはははは! お使いもできないとか、そんな低知能なんて思わせないでね。ほーら、早く行って──“踵落撃”」
「がはっ……!」
踵落としを打ち込み、強引に空から下へ叩き落す。
ちゃんと加減はしているので、落下ダメージ含めて生き延びているはずだ。
「ちゃんとお願いしたから、これで次は魔具持ちが来てくれる……かな? メィに吸血鬼たち、それに俺。予想外の展開にならないといいんだけど」
人はそれをフラグという。
自分でもなんとなくそう思うが……それでも目的を果たしてこそ、偽善者を目指すものに与えられた試練なのだ。
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