上 下
1,809 / 2,518
偽善者と廻る縁 二十八月目

偽善者と輸血狩り その13

しおりを挟む


 さて、計画は第三段階まで進んだ。
 最初は情報をバラ撒き、次にそれを事実と認識させ、その後大規模な戦闘を行った。

 大衆は恐怖を抱き、眠れぬ夜を過ごす。
 そこは本当に申し訳ないと思うが、偽善エゴ行うとおすのだからそこは割り切るつもりだ。

 そうしてリラックスのできない日々を過ごしていけば、彼らは次第に心情を変える。
 それが帝国の情勢に、影響を与えるかどうかは……まだ分からないところだ。


「メィ、次は騎士を狙う。有能な奴には血が渡されていて、注入も結構な確率で使われるだろう。だからまず、死んでも蘇る祈念者で試してもらった……どうせ吸血鬼化するし、似たようなものだろう」

「全然違うと思う。でも、あの人の血を使うからには相当強い」

「帝国の騎士で、しかも皇帝に認められるレベルだからな。確実にレベルは250、そこに擬似的な加算が入るわけだから……300ぐらいはあるんじゃないか?」


 俺や眷属からすれば気に留める必要も無い数値だが、それは『超越者』に値する。
 何らかの手段で数値の限界を超え、辿り着く人外の領域……それに血を使うだけでな。

 そして彼らは、間違いなく俺たちの目的の邪魔をしてくる。
 理由や理屈はともあれ、阻まれるならば押し通るだけだ。


「俺はサポートをするが、徹することはできない。今回同様、指示に合わせて魔法を使うのが精々だ。形状さえ指定してくれればどんな物でも出せるし、海水が必要になったらいつでも言ってくれ」

「ありがとう、それなら依頼も達成できる」

「それは心強い。間もなく終盤、俺も可能な限り力を使おう。少なくとも、この俺にできることすべてをな」


 縛りを解除すれば、何でもかんでも思うが儘にやることができる。
 だが今までもやってきたように、あくまで抑えた範囲で偽善をやり遂げるつもりだ。

 ……いやまあ、時々変更とかしていたんだけどさ。
 今回は最初から緩々な縛りなんだから、これ以上の追加とかは控えておこう。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 今度は昼ではなく夜に、“極夜ポーラーナイト”を発動して空間を支配する。
 明るさは変わらないが、魔法の気配がするので感知能力が高ければ気づくことが可能。

 当然、お偉い様がたや騎士たちの中には気づける者が居るので、警戒される。
 それでも俺たちは、計画を成功させるために動く──覚悟はとっくに決まっていた。


「魔導解放──“統括せし狂信の共進”」


 緊張感に包まれた夜の街で、告げた魔導は洗脳による騒動。
 抵抗できなかった兵士や騎士が、仲間に向けて攻撃を始める。


「さぁ、踊り狂え──“血陣乱舞ブラッドダンス”」


 血を何滴か地面に落とす。
 その過程で雫は鋭い刃と化し、着地する寸前に浮遊を行い移動を開始する。

 無数の刃は的確に、洗脳されていない者たちの妨害を行う。
 ただし、血を持つ騎士たちは絶対に狙わない……彼女が向かっているからな。


「さて、今宵はいい夜だ……メィも充分に動くことができている」


 海の力を帯びた細剣型の聖剣を振るい、彼女は目的の魔具を持つ騎士に挑んでいく。
 主犯だと認識している騎士もまた、それを受け入れ一対一で戦いを繰り広げている。

 空でのんびりとしている俺には、誰もまだ気づけていなかった。


「──そして、お前たちもな。ここまで派手に騒いでいたら、来ると思ったぞ」

「……この地に在るのだろう? 貴様もそれに気づいたのか。先ほどの鮮やかな血魔法、どうやら同朋のようだな」

「いやいや、そういうことじゃないさ。気づいたも何も、それを気づかせたのは俺。そして、正しくは吸血鬼ヴァンパイアでも……ましてやただの普人族フーマンでもない」


 因子を使っていたわけでもないが、血を無くしていたことで正しい認識をできなかったのだろう……何より存在を偽装している現状なので、気づけなくて当然である。

 真っ先に突っ込んできた吸血鬼の男に続いて、次々と現れる吸血鬼たち。
 彼らが求めるのはペフリの血、それを取り込むことで自身を強化するためだ。


「まあ、落ち着けよ。見ての通り──お前らの求める物は、ここにもあるからさ」

『!』


 俺が“空間収納ボックス”から取り出したのは、試験官に詰められたペフリしんその血。
 吸血鬼たちは直感で気づく、それが自分たちの求めている本物であると。


「とはいえ、これは俺が帝国を相手に集めてきたものだ。わざわざお前たちにタダでくれてやることもないだろう……」

「ならばなぜ、それを見せた……いったいどういうつもりだ」

「もっとも血が残っているのは、あの城の中だ。当然、そんな場所だから警戒されているはず、お前たちが普通に挑んでも奪うこともできないだろう……そろそろ吸血鬼狩りヴァンパイアハンター共も来るだろうからな」

「チッ、忌々しい連中も来ているのか」


 吸血鬼にとって、自分たちに特化した戦い方をする彼らは厄介そのものだろう。
 自分たちのことを知り尽くしているのだ、搦手に出ても封じられるからな。


「お前たちに言っておきたいのは、俺と下で騎士と戦う娘には手を出さないこと。そして例の血を飲まないこと……それさえやってくれるなら、もっといい物をやる」

「なんだ、そのいい物とは……」


 尋ねてくる吸血鬼に、俺はもう一本の試験菅入りの血を取りだす。
 ただしその中身は、ペフリの血ではなく別人の血……まあ、俺のモノだ。


「これ。説明しなくても分かるだろう? これにどれだけの価値があるのか」

「そ、その気配……まさか!」

「飲んだだけで、そいつはあの境地に至ることができる特別な逸品。欲しくない、とは言わせないからな」

「…………分かった、少し話をさせてくれ」


 どうぞご自由に、と言って別の準備を初めておく。
 間違いなく、彼らはこの話に乗るのだ……さっさと次に移る支度をしないとな。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

室長サマの憂鬱なる日常と怠惰な日々

BL
SECRET OF THE WORLD シリーズ《僕の名前はクリフェイド・シュバルク。僕は今、憂鬱すぎて溜め息ついている。なぜ、こうなったのか…。 ※シリーズごとに章で分けています。 ※タイトル変えました。 トラブル体質の主人公が巻き込み巻き込まれ…の問題ばかりを起こし、周囲を振り回す物語です。シリアスとコメディと半々くらいです。 ファンタジー含みます。

異世界転移したので、のんびり楽しみます。

ゆーふー
ファンタジー
信号無視した車に轢かれ、命を落としたことをきっかけに異世界に転移することに。異世界で長生きするために主人公が望んだのは、「のんびり過ごせる力」 主人公は神様に貰った力でのんびり平和に長生きできるのか。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

俺の義兄弟が凄いんだが

kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・ 初投稿です。感想などお待ちしています。

伯爵夫人のお気に入り

つくも茄子
ファンタジー
プライド伯爵令嬢、ユースティティアは僅か二歳で大病を患い入院を余儀なくされた。悲しみにくれる伯爵夫人は、遠縁の少女を娘代わりに可愛がっていた。 数年後、全快した娘が屋敷に戻ってきた時。 喜ぶ伯爵夫人。 伯爵夫人を慕う少女。 静観する伯爵。 三者三様の想いが交差する。 歪な家族の形。 「この家族ごっこはいつまで続けるおつもりですか?お父様」 「お人形遊びはいい加減卒業なさってください、お母様」 「家族?いいえ、貴方は他所の子です」 ユースティティアは、そんな家族の形に呆れていた。 「可愛いあの子は、伯爵夫人のお気に入り」から「伯爵夫人のお気に入り」にタイトルを変更します。

VRMMOで神様の使徒、始めました。

一 八重
SF
 真崎宵が高校に進学して3ヶ月が経過した頃、彼は自分がクラスメイトから避けられている事に気がついた。その原因に全く心当たりのなかった彼は幼馴染である夏間藍香に恥を忍んで相談する。 「週末に発売される"Continued in Legend"を買うのはどうかしら」  これは幼馴染からクラスメイトとの共通の話題を作るために新作ゲームを勧められたことで、再びゲームの世界へと戻ることになった元動画配信者の青年のお話。 「人間にはクリア不可能になってるって話じゃなかった?」 「彼、クリアしちゃったんですよね……」  あるいは彼に振り回される運営やプレイヤーのお話。

転生させて貰ったけど…これやりたかった事…だっけ?

N
ファンタジー
目が覚めたら…目の前には白い球が、、 生まれる世界が間違っていたって⁇ 自分が好きだった漫画の中のような世界に転生出来るって⁈ 嬉しいけど…これは一旦落ち着いてチートを勝ち取って最高に楽しい人生勝ち組にならねば!! そう意気込んで転生したものの、気がついたら……… 大切な人生の相棒との出会いや沢山の人との出会い! そして転生した本当の理由はいつ分かるのか…!! ーーーーーーーーーーーーーー ※誤字・脱字多いかもしれません💦  (教えて頂けたらめっちゃ助かります…) ※自分自身が句読点・改行多めが好きなのでそうしています、読みにくかったらすみません

〈本編完結〉ふざけんな!と最後まで読まずに投げ捨てた小説の世界に転生してしまった〜旦那様、あなたは私の夫ではありません

詩海猫
ファンタジー
こちらはリハビリ兼ねた思いつき短編として出来るだけ端折って早々に完結予定でしたが、予想外に多くの方に読んでいただき、書いてるうちにエピソードも増えてしまった為長編に変更致しましたm(_ _)m ヒロ回だけだと煮詰まってしまう事もあるので、気軽に突っ込みつつ楽しんでいただけたら嬉しいです💦 *主人公視点完結致しました。 *他者視点準備中です。 *思いがけず沢山の感想をいただき、返信が滞っております。随時させていただく予定ですが、返信のしようがないコメント/ご指摘等にはお礼のみとさせていただきます。 *・゜゚・*:.。..。.:*・*:.。. .。.:*・゜゚・* 顔をあげると、目の前にラピスラズリの髪の色と瞳をした白人男性がいた。 周囲を見まわせばここは教会のようで、大勢の人間がこちらに注目している。 見たくなかったけど自分の手にはブーケがあるし、着ているものはウエディングドレスっぽい。 脳内??が多過ぎて固まって動かない私に美形が語りかける。 「マリーローズ?」 そう呼ばれた途端、一気に脳内に情報が拡散した。 目の前の男は王女の護衛騎士、基本既婚者でまとめられている護衛騎士に、なぜ彼が入っていたかと言うと以前王女が誘拐された時、救出したのが彼だったから。 だが、外国の王族との縁談の話が上がった時に独身のしかも若い騎士がついているのはまずいと言う話になり、王命で婚約者となったのが伯爵家のマリーローズである___思い出した。 日本で私は社畜だった。 暗黒な日々の中、私の唯一の楽しみだったのは、ロマンス小説。 あらかた読み尽くしたところで、友達から勧められたのがこの『ロゼの幸福』。 「ふざけんな___!!!」 と最後まで読むことなく投げ出した、私が前世の人生最後に読んだ小説の中に、私は転生してしまった。

処理中です...