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偽善者と廻る縁 二十八月目
偽善者と輸血狩り その12
しおりを挟むメィが祈念者との戦闘を行っている間、俺も俺で動くことに。
いちおう国民である母娘のための偽善なので、縛りはだいぶ緩めだ。
変身魔法で体躯を弄り、メィとほぼ同じぐらいに調整する。
そのうえで、魔力体スキルをダウンロードして起動後、血魔法をその身に纏う。
「傍から見たら、血の分身みたいに思えるかもな。さて、動きますか」
彼女の方は千思万考スキルでサポートを続けているので、問題なく戦えている。
祈念者も勝手に自分たちで理屈付けて、そろそろ撤退しようとしているし。
「──“激震脈動”、“血意複写”」
前者は血を介した身体強化、後者はステータスそのものを一定時間複製する。
今回用いたのはペフリの血を<複製魔法>で増やしたモノ、劣化が酷いがそれでも良い。
「魔眼“影像眼”──『狂邪真竜』」
彼女の眼も使えるので、それを起動して呼び起こす。
レベル250の、存在そのものを複製した紛い物の竜種だ。
不憫な彼に今回は、いつもの色ではなく影に染まった漆黒デザインで出てきてもらう。
そして、そのまま暴れ狂う……名前に相応しい暴れっぷりを見せている。
いちおう場所は考えており、帝国上空に呼びだしたうえで屋敷を壊してもらっていた。
貴族の大半が関与している問題なので、好き放題させた方が楽なのだ。
「たまには豪快に行かないとな……メィにはこういうことは向いてないだろうし」
地道に暗躍を続けていたが、さすがに帝国も黙ってはいられない。
なので今回狙うのは、相応の警戒がされた施設──皇帝の住まう居城である。
別にここで勝利したいわけではなく、情報収集に徹するつもりだ。
そのための偽物、そのための複製体というアピールをしている。
「──“血潮槍・極大”」
大量の血を捧げ、生みだしたのは真っ赤に染まった巨大な槍。
わざわざ<極大魔法>まで使ったのは、そうせざるを得ない理由があったから。
魔眼で命令をして、狂邪真竜に息吹を全力で吐かせる。
禍々しい真っ黒な魔力がレーザーのように城へ飛んでいく──が、それは弾かれた。
城が持つ防衛機構の一つ、外部からの攻撃に対する障壁の魔法だ。
それが機能する以上、並大抵の攻撃では突破することができない。
それゆえに、先に息吹を吐かせて視認した結界に向けて槍を飛ばす。
顕在化したことで視えた、術式のもっとも弱い部分に向けて──激しい衝撃が起きる。
「突破成功……さぁ、行け!」
無言で咆えるという難しいことをして、竜は勢いよく帝城に突っ込んでいく。
俺はそれを見届けると、一番最初に使っていたスキルを解除する。
「──{多重存在}、終了っと」
それだけで、わざわざ帰還するまでも無くこの場に居る俺は存在を抹消できた。
……こういうの、モブの精神じゃ普通耐えられないはずだよな。
◆ □ ◆ □ ◆
メィの影に潜ませてもらっていた俺は、彼女が戦地から離れたところで浮上する。
最初からそういう打ち合わせだったので、彼女もそれ自体には何も言わない。
だが、ジトーっと訝しむ視線がすべてを物語っていた。
いったい何をしたのか、そう問う心の声が聞こえてくる。
「……なに、さっきの」
「ああ、やっぱり見えたか? いやー、思いのほかさっさと排除されたな」
「やっぱり、メルの仕業? あの竜、あの人の魔眼で創る魔物だった」
「さすが影を見抜く魔眼の持ち主。まあ、自分たちで行くのはまだ後だが牽制をしておかないと。このままゆっくりやっていると、城には来れないから、戦力を城下に出そうという考えになるからな」
前に帝城で暴れ回ったが、まだまだ戦力は残されている。
彼らを解き放たれては、メィだけだと難しい……それが、今回の挑発行為に繋がった。
「そういえばメィ、祈念者の相手はどうだったか? ある程度把握はしているが、意識の大半はあっちだったからな……メィ自身の口から聞きたい」
「メルの言う通り、良くも悪くも流されやすい? 人たちだった。あの竜を見て、一目散に城に向かったし」
「…………ああ、そうだな。まあ、それでも強かっただろう? 世の中には、確固たる意思が無くとも強くなれる奴が居る。そして、そういう奴らが理不尽にもいろんなことをかき乱していくんだよな……俺も含めて」
「…………」
少々重い話みたくなったが、実際にそういうこともあるので言っておく。
うん、俺みたいな奴が世の中をかき乱しているわけだしな。
誰かが幸福を得れば、その分誰かが損をしている。
誰かが欲を満たすことで、誰かが何かを失うことに。
「さて、話を戻そう。ここいらに居る祈念者はだいたい、レベルが200だ。けど、スキルの数が決まっていたりして、レベルが低くとも工夫さえすれば自由民でも倒せる。それで、あの後はどうだった?」
「固有スキルを使おうとしていた。遊びはここまでとか言ってた……けど、そのときの竜が出てきた。もしかしたら、スキル次第じゃ負けていたかもしれない」
「普通はレアだからな……。祈念者は何らかの手段で、一人一つは持っていると言っても過言じゃない。特に、ここまで辿り着いている連中はな」
「……理不尽」
それでも、しっかりとした戦術を取れば勝つことができるんだよな。
彼女の種族と武器、そしてセンスを合わせて頑張ってもらおうか。
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