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偽善者と廻る縁 二十八月目

偽善者と輸血狩り その11

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「それじゃあ始めるか──“極夜ポーラーナイト”」


 最近よく使っている魔法を空に打ち上げると、空は突如として暗くなる。
 それは俺たちの活動開始を告げるものとして、帝国では広く知られていた。

 それゆえに、人々は動き出す。
 力を持たない一般人は、被害を恐れて家の中に逃げ込む。

 彼らを守ることが義務である兵士たちは、武器を構えて周囲を警戒。
 そんな彼らを従える貴族たちは、とある心当たりのある者たちのみ逃げ惑う。


「さて、今日は誰からペフリの血を返してもらおうかなー」


 魔具に封じられたペフリの血を、すべて集めるのが俺の目的。
 半吸血鬼ハーフヴァンパイアのメィを雇うことで、その成功率もいっしょに高めていた……強いからな。

 だがそんな彼女、現在は機嫌が良さそうにしている。
 視線の先には一本の細剣、聖なる力を放ち海の気配を感じさせる代物だ。


「……おーい、メィさんや。そんなにその聖剣が気に入ったのか?」

「うん。聖剣なのにピリッてしないし、何より持っていると落ち着く」

「傍から聞くと、武器を持って精神を安定させている変な奴みたいだな。いや、俺は製作者だからそういう感想は嬉しいぞ。壊れたら直すから、思う存分使ってくれや」


 吸血鬼は魔族に属するので、聖剣の放つ聖気に触れるとダメージを受けて弱体化する。
 半分とはいえその血を引く彼女も、かつて遭遇した聖剣に攻撃されていたようだ。

 だが俺の創った海聖剣[マリーナ]は、そこまで聖なる力が強くない。
 代わりに海の力が強めなため、半吸血鬼で半人魚ハーフマーメイドである彼女に相応しかったのだ。


「本当にいいの? もっと、使い道があったと思う」

「無い。間違いなく、その剣はメィの物だ。どういう風に使ってくれても構わないから、その可能性を広げてやってくれ」

「……可能性?」

「誰かを助ける、誰かを傷つける、何かを壊す、何かを救う……何でもいい。その行動が必ず、聖剣の輝きに変化を生じさせる。それが見たいから、俺は人に武器を配る。正直、報酬じゃなくてもあげてよかったんだよな」


 だが、それだと罪悪感を覚える奴が多いので控えている。
 何かしらの理由を付けないと、大切に使おうという意識が薄れるみたいだしな。


「……そろそろ来るだろう。メィ、壊れることは無いだろうけど、相手は祈念者だ。理屈が通じる相手じゃない、気を付けて戦ってくれよ」

「大丈夫、依頼は守る」

「それじゃあ、始めるとしますか」


 すでに、祈念者たちが動いているのは確認してある。
 賞金首として手配されていることも調べてあるし、事前の準備は万端だ。

 ──さぁ、第三段階を始めよう。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 先日の戦いの中、俺は首都の至る所に自身の血をバラまくことに成功した。
 一部は洗い流されてしまったが、その大半は今でもこの街に潜んでいる。

 それらすべてが、俺の発動する血魔法の触媒として操ることが可能だ。
 なのでメィの動きに合わせて、それらを使うことで祈念者たちと程よく戦わせていた。


《──“串刺血杭ブラッドツェペシ”》

「うわっ、また来たぞ!」「完全無詠唱で使うとか、マジでボスキャラか?」「しかもこの規模だぜ……滾ってくるな!」「まあ、俺たちも負けられないわな──“聖光所サンクチュアリ”!」

「数が多い──“後飛跳躍ボンナリエール”」

《一人見つけたら三十人は来ると思え。ともあれ、そろそろ試してみたらどうだ?》


 刺突剣としての性能は充分に試してくれているようだが、まだまだ本領は示してない。
 俺の問いかけにコクリと肯き、魔力を聖剣に注ぎ込む。


「……いいの?」

《血のことか? もう定着しているから、気にしなくていいぞ。今回は実験だし、海水の方もこっちで提供しよう──“大津波ビックウェーブ”》


 いろんなものを溜め込んでいるので、海水の方も用意はできている。
 大規模な津波を引き起こせるほどの海水を“空間収納ボックス”から取り出し、魔法を起動。

 メィが力を注いでいた聖剣は、その海水に呼応して能力を発揮する。
 広がるはずだった津波は、一つの箇所に集中していく──その先には聖剣が。


「『大荒れ』──“貫通突ペネトレイト”」

「み、水で大きくなったぞ!」「おい、誰かなんとかしてくれ!」「間に合うわけないだろうが!」『ぎゃぁあああああ!』


 細剣など、刺突剣の特徴は速度だ。
 そして海聖剣の力で海水を纏った際、それらの重さはすべて失われる……だが質量はそのままなので、威力が向上している。

 メィが発動させた武技は、防御無視の貫通効果を重ねた刺突。
 用意した海水の量が量であるため、広範囲にその一撃は届き……大量の死者が出る。


《祈念者だから誰も死んで無いけどな。あの中に自由民がいなかったのは、最初から確認してあった。さて、具合はどうだ?》

「最高。これだけ手に馴染むなら、すぐにでも実戦で使えそう」

《それは何より。海水さえあれば、その剣はどんな大きさにもなれる。剣系の武技は全部使えると思うから、試してみてくれ》

「了解」


 やれることが多いので、その分メィ自身による操作が必要となるのが難点だ。
 しかしそれでも、使いこなしてしまえばそれは確実に彼女の力となる。

 死に戻りする分、祈念者から得られる経験値は少ないだろうが……レベルは上がる。
 どんどん強くなって、計画の成功率を高めてもらおうか。


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