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偽善者と廻る縁 二十八月目

偽善者と輸血狩り その09

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 五人──二人組と三人組の吸血鬼狩りヴァンパイアハンターが、俺たちの計画を邪魔しに来た。
 彼らは裏事情を知らないが、実行犯を演じているメィは半分だが本物の吸血鬼ハーフヴァンパイア

 だからこそ、彼らもまた相手が吸血鬼だと確信しつつある。
 噂を流し、彼らをここに誘き寄せたのもまた計画通りなのだ。

 現在、彼らの攻撃をメィは避けているだけで反撃はしていない。
 愛用の武器などは足が着くという理由で、持ってきていないからだ。


《──“共血ブラッドリンク”。以降の会話は、意識して念じるだけでいい。口を動かすだけでも、時間の無駄になるからな》

《……なんでできるの?》

《そりゃあ、条件を満たしているからな》

《……また騙された》


 発動条件の大半が、触媒として血を使うことである血魔法。
 なので他者に使う場合は、強引にその者の血を使うか自分の血を取り込ませる。

 今回は後者、散々飲み物やらポーションやらに入れていた血を媒介にした。
 最初に言ったのだから、他の物にも入れていると気づいていたと思うんだがな……。


《俺の方でサポートをするから、メィはとりあえず指示をしたら逃げられるように準備をしておいてくれ。初回で全滅させるのは、さすがに早すぎる……もう少し、泳がせてからにしておく》

《どうするの? 剣も無いし、歌うとバレるから戦えない》

《任せておけ、もう布石は敷いてある》


 俺が事前に発動していた、二つの魔法に再度魔力を籠める。
 棘を生み出す“串刺血杭ブラッドツェペシ”と、無限に伸びる鎖を放つ“無限血鎖ディ・エヌ・エー”だ。


《それっぽく言っておいてくれ》

「ハァ……血の棘、血の鎖」

「来たぞ、兄者!」
「おうよ、、弟よ!」

「へっ、この程度!」
「どうってことねぇぜ!」
「“血槍ブラッドランス”と“血鎖ブラッドチェイン”か? へぇ、結構やるじゃねぇか……」


 大量の血が棘や鎖となって彼らを襲うが、それらはすべて弾かれたり避けられている。
 俺も適当に遠隔操作をしていただけだし、少しずつ馴染めば精度も上げれるだろう。


《──“血獣ブラッドビースト”、“血装ブラッドアームズ”》

「血の獣、血の武装……なにこれ、凄い」

《おーい、素が出てるぞ。本当は俺のステータスを複写できる魔法を使ってもいいけど、それだと圧勝になるからな。悪い、今回は我慢してくれ》

《……絶対に要らない。あの獣、強すぎる》


 何度も言うが、触媒としているのはすべて俺の血液。
 そう、レベルと能力値を自在に偽装することのできる俺の血だ。

 獣はだいたいレベル200、他は150程度の吸血鬼に流れる血に調整してある。
 獣は彼らを相手に余裕そう、つまりは彼らの実力もその程度というわけだ。

 たぶん、対吸血鬼用のアイテムやスキルなどで補っているのだろう。
 ちなみにメィもレベルは180、最近俺とつるんだ結果急激に上がったとのこと。

 剣を模った血を振るっているのだが、五人相手によくやっている。
 獣がサポートをしているのもあるが、それ以上に俺との連携に慣れてきたのかな?


《……よし、もういいか。なんかそれっぽい時間稼ぎとかできるか?》

「……。全部解除」

《了解っと。さてさて、ここいら一帯を一気にやるとしますか──“血溜袋ブラッドポーチ”》

「! ち、血袋……」


 すべての魔法を解除して、メィには時間稼ぎを指示する。
 すると彼女はここいらで一番高い場所へ登り、そこで手を掲げた。

 当然、彼らはその先にあるモノを確認しようとする。
 隙だとか、そういう考えはないだろう……膨大な魔力が、それを証明していた。

 そこに在るのは、巨大な水の塊。
 ただしそれはすべてが赤で構成された、異常なまでに魔力の籠められた代物。


《さぁ、次に移行しよう──“血滝ブラッドフォール”》

「ハァ……血の滝」


 彼女の声に合わせて、魔法を起動する。
 水は──いや、血は弾けて都の至る所に降り注いでいった。

 滝の名を冠した魔法だが、俺が完全に制御することで雨のように散らばっていく。
 何度も言うが、これは俺の血……ならばそれにも、たしかな意味があった。


「これは……不味いぞ兄者!」
「チッ、いったん引き上げるぞ弟!」

「結界を張れ!」
「魔道具で……よし、できた!」
「なんてこった。こりゃあもう、俺たちだけじゃ無理だろうな」


 吸血鬼を狩ってきた彼らは、それゆえに俺がやったことの意味を理解している。
 降り注ぐ血のすべてが、俺の支配できる魔法の触媒……どこに居ようと監視は続く。

 彼らはその後、正しい判断をする。
 逃走──血を浴びないように、全速力でこの場から去ることしか生き残る術など残っていない。


「ふぅ……もう、限界」

「ハハッ、お疲れ様。それならここで、もう一本飲んでおくか?」

「絶ッ対! に要らない」

「そこまで嫌われるような物か? 味も性能も、最大限まで高めてあるんだがな」


 現人神しての力を注ぎ、血を混ぜ込むことで更なる進化を遂げるポーション。
 世には出せないからと渡していたが、どうやらお気に召さない様子。


「そうか……残念だな。なら、そのうち廃棄処分にでもしておこう」

「…………。ほ、保存用を一本だけ」

「毎度あり、お嬢さんは可愛いからサービスで一ダースにしておくよ」

「……全然嬉しくない」


 在庫処分の押し付けだったが、最終的にはメィも折れてくれた。
 飲まなければいいだけだしな……別に、誘惑とかそういうのも無いだろうし。


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