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偽善者と廻る縁 二十八月目

偽善者と輸血狩り その08

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 情報戦ということで、始めたのは洗脳した奴らを使った悪意の拡散だ。
 彼らには情報をバラ撒かせ、それを広めてもらっている。

 内容はシンプル──帝国が吸血鬼ヴァンパイアを使い、人体実験を行ったということ。
 最近、いろんな場所で起きている事件は、すべてその実験が原因で起きたことだ。

 そんな感じのうわさを流させて、それを信じ込ませている。
 コロシアムには偉い奴から一般人まで、いろんな奴が居た……その拡散力は高い。


「──というわけだ。俺たちはこうして、帝国が次に何をするか待てばいいだけだ」

「…………」

「張り切ってもらったところ悪いな。でも、中心は俺たちだろうと、今はその外に意識してもらう必要がある。仮に言動を規制されても、洗脳されているアイツらは止まらない」


 まったりと、お茶を飲みながら辺りでうわさが語られる様子を窺う俺とメィ。
 彼女は冷ややかな目で俺を見てくるが、それは気にせず語り続ける。


「俺のアレは別に、解除できないわけじゃないぞ。洗脳といっても、俺の指示を優先すべき行動だと認識しているだけだ。止めたいならすべての動きを止めさせればいい……生命活動もな」

「! ……メル」

「ああ、誤解するなよ。死ねなんて言ってないだろう。時魔法でも使って、ほんの一瞬時間を止めればいいだけだ。今の祈念者には使い手も多い。そうでなくとも、時空を歪める魔道具……転移門でも使えばすぐに治るさ」


 外部に漏れることも避けたかったので、ある意味ちょうどいい魔導だったんだよな。
 そもそも俺の創った魔導なんだから、永劫に束縛する魔導なんて創れないわけだ。

 彼らがするのは言葉を広めることだけ。
 そのため、反乱としてまだ認識されていない……それらが芽吹くのは、まだまだ先になるだろう。


「やがて皇帝の下にも、情報が広まっていることは伝わると思う。でも、今は取るに足らないことだと認識されるだろう。俺たちは、その噂を事実だと証明していけばいい。というわけで、今日もやるぞ」

「了解」

「うわさの中に、次の襲撃場所をいくつか適当に混ぜ込んである。そうなれば、幾人か派遣されるだろう……ここからが知恵勝負だ」


 俺には眷属という頼もしい叡智の保持者が居るので、最悪泣き寝入りすれば勝てる。
 何人襲撃すれば、帝国側は本格的に対応してくるんだろうな。


  ◆   □   ◆   □   ◆


『──来たぞ、『吸血詩人』だ!』

「……複雑」


 メィを見た兵士の一人が、周りに叫ぶ。
 いつの間にやらそんな二つ名を与えられ、なんだか落ち込んでいた。

 ちなみにこうなることはなんとなく分かっていたので、彼女は仮面を装備している。
 相貌を誤認してしまうので、二つ名も歌うことと仮定吸血鬼であることから付いた。


「まあまあ、ともかく。いつものをさっそく頼めるか?」

「はぁ……了解。~~~~♪」

「じゃあ、始めるとしようか」
《──“串刺血杭ブラッドツェペシ”、“無限血鎖ディー・エヌ・エー”》


 彼女の歌に合わせ、次々と現れる棘の杭。
 そして空から血で編まれた鎖が生まれ、至る所に伸びていく。 

 俺は姿を隠し、血を操る。
 気づかれないため、その使い手は誤認されてしまうが……吸血鬼であることを知らしめるためにも、ちょうど良かった。

 いつものように、ペフリの血を加工した魔具を貴族たちからかっぱらう。
 それは今回も成功し、いざ逃走だ……そう思っていたのだが。


「メィ、来たぞ」

「! ……そう」


 とある存在の反応を感知し、それを中止。
 兵士たちはそんな彼女(と隠れた俺)の挙動を訝しむが、それでも集中砲火をして弱らせようとしてくる。


「──悪いが、コイツは俺たちの獲物だ」
「──というわけだ、犬どもは引き下がれ」

「いやいや、ここは」
「俺たち三兄弟に」
「任せておけよ」

「「邪魔だ!」」
「「「お前たちこそ!」」」


 二人組と三人組、彼らは共に吸血鬼を狙い現れた吸血鬼狩りヴァンパイアハンター
 それはかつて、メィと出会った時に同じタイミングで見かけた連中だ。

 彼らは兵士たちの攻撃を、自分たちですべて打ち払って無効化した。
 別に俺たちを助けたいわけじゃなく、あくまで自分たちの手で殺すためだろう。


「……本当に、アレで合っているのか?」

「うん。二人組は人狼兄弟、三人組は三つ子の普人。たまに吸血鬼狩りの仕事の時に、見かけて敵対したりしてた」

「目的が違っていたから、だっけ?」

「私は別に、すべての吸血鬼が憎いわけじゃないから。事情がある人は逃がしている……けど、彼らは違う」


 獣人の二人も、普人の三人も理由はともかく徹底して吸血鬼は殺しているそうだ。
 半吸血鬼のメィの場合、敵対したときは全力で殺しに掛かってくるそうだ。

 それでも彼女は生きている。
 それは紛れもなく、彼女自身の実力。
 だが決して、彼らが弱いというわけじゃない……それはさっきの行動で理解した。


「お前が件の吸血鬼か……ふむ、その臭いは紛れもなく吸血鬼だな、兄者」
「そうだな。だが違和感を覚える……別の血が混ざっているのか?」

「なら、そっちは下りればいいさ」
「吸血鬼には違いないんだろう?」
「それだけで、殺す価値があるぜ」

「──全員纏めて、掛かってこい」

「「「「「ッ……ぶっ殺す!」」」」」


 殺したい相手に挑発されて、ぶち切れた彼らは攻撃を始める。
 さて、俺のサポートがあるとはいえ……計画通りの勝利は収められるだろうか?


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