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偽善者と廻る縁 二十八月目

偽善者と輸血狩り その06

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 ペフリの血を求め、帝国中からそれらを特定しようとしていた。
 魔法を発動させ、探った結果──鼻から血がたらーっと垂れてくる。


「……鼻血、大丈夫?」

「脳の処理能力を許容以上まで酷使した結果だな。回復魔法で治せるが、精気で回復力で高めれば勝手に戻る」

「そう……」

「あんまり心配してくれなくていいぞ。それより、情報を共有しよう──“血図ブラッドマップ”」


 これまで集めたペフリの血を触媒に、先ほど使った“探血ブラッドサーチ”の結果を反映させた。
 すると国の断面図らしき半球体が生まれ、大小さまざまな雫を浮かばせる。

 メィが首を傾げているので、しっかりとした説明を行う。


「この雫の大きさが、帝国に存在する各ペフリの血の量になっている」

「ここは……お城?」

「最大級だろうな。まあ、ここは本当に最後だから後回しにするとして。代わりに俺たちが目指すのは──ここだな」


 それは血がバラバラに点在する中、それなりに集まっている場所。
 一つひとつは小さくとも、一気に集めればそれなりに多い……と思える地帯。


「ここはたしか、コロシアムだったな」

「……もしかして、景品?」

「じゃあ、無いだろうな。でも、それに近しい可能性は高い」


 さすがに祈念者も得られるようにしてしまうと、借りパクの可能性も高くなる。
 こちらの世界から[ログアウト]先の地球に干渉する手段は、見つかってない・・・・・・・からな。

 コロシアムの辺りに点在する血の跡を、もう少し入念に調べてみる。
 魔具に数本、そして……魔物たちに何滴か混ぜ込まれているようだ。


「分かった、魔物だ。隷属の首輪で捕まえてあるから、多少暴走しても制御できると考えているんだろう」

「! ……ひどい」

「人族のエゴだからな、これは。自分たちより下に見たモノは、なんであれ都合のいいように扱う。価値があるなら愛でて、そうじゃないなら蔑んで。それが当たり前だと信じている、常識だから代えがたいんだ」


 強者ゆえの傲り、だろうか。
 この世界だとさらに上が多いから少し控えめだが、それでも他種族を隷属させたりとやりたい放題。

 時には同族すらも貶め、殺したりする。
 そして何より、その死にいっさいの意味を与えないことすらある……それが人族が獣と異なる点だ。


「というわけだ。これから行くのは、コロシアムだな。メィはどうする?」

「……行くに決まっている」

「そうか。なら、準備しておいてくれ──最悪、血を飲む覚悟もな」

「うぅ……了解」


 コロシアムにはかなりの数の祈念者も居るだろうし、それらが味方になってくれるとは思えないからな。

 ならば最初から敵対する前提で向かい、運が良ければ手伝ってもらえばいい。
 ……偽善なので、別に一から十まで二人でやらなくてもいいんだよな。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 コロシアムでは、今日も今日とで激しい戦いが繰り広げられている。
 魔物と魔物、魔物と人、人と人など組み合わせはさまざまだ。


「まあ手始めに、普通に参加してみよう」

「どうして?」

「演出だな。それに、強引に乱入すると祈念者からの反応も悪い。アイツらは基本、面白い方の味方だ。適当に扱うと、吸血鬼狩りヴァンパイアハンターたちよりも厄介になる……不死身だしな」


 死んでも蘇る以上、口封じもできない。
 封印という手段も、緊急[ログアウト]をされれば逃げられるからな。

 祈念者を懐柔する方法は、彼らが納得のいく理由を押し付けること。
 クエストに繋がる、好感度が上がる、経験値が手に入る……とかそういう感じだな。


「シナリオとしてはこうだ──俺たちは伝説の吸血鬼を復活させるため、その血を集めている集団だ」

「……嘘はない」

「真偽を見抜く祈念者もいるからな。で、かつてこの国で封印されていた吸血鬼の血を、いろんな場所から奪っているという設定だ」

「……これが面白いの?」


 メィからすれば、当然の疑問である。
 自由民が聞けば、災厄の存在が復活するというバッドな展開だからな。


「死なない祈念者にとって、すべてが娯楽になるんだ。真面目な奴もいるが、そもそもコロシアムに居る奴にそれは期待できない。奴らにとって都合のいい話を、アイツらは信じたくて信じるだけだ」

「…………」

「こっちがどれだけ真剣でも、それは世界という壁を越えて伝わらないとダメなんだ。だから今回は諦めろ」

「…………ん」


 コロシアムで歓声が鳴り響く。
 人と人と争う場合に限り、帝国では結界を作動させている。

 つまりそれ以外の時……魔物たちは互いに傷つけあっていた。


「そういった意味でも、救ってやりたくなるのは違いない。メィ、考えるのが嫌なもののことを考えるよりも、こういったやりたくなることを意識した方がいいんじゃないか?」

「そうする」

「……うん、どんどんアイデアが増えていく気がする。メィ、いくつか案を出すからやりたいものとやりたくないものを言ってくれ。そこから吟味しようじゃないか」

「分かった」


 コロシアムの結界って、燃費がだいぶ悪い代物だしな。
 吸血鬼の血で自己再生をさせれば、使わずとも長持ちするだろう。

 だがそれでも、俺は血を奪うつもりだ。
 これもまた、立派なエゴなんだろうな。


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