上 下
1,800 / 2,518
偽善者と廻る縁 二十八月目

偽善者と輸血狩り その04

しおりを挟む


 どうやら国としては、血の存在を露見させたくは無いらしい。
 広まった情報は、すべて吸血鬼ヴァンパイアの仕業ということで纏められていた。

 実際吸血鬼(半)はその場に居たし、血を奪われたと言っても過言ではない。
 大衆もそんな記事を知って、違和感を覚えることなく信じる者が大半だった。


「というか、こんなにすぐ記事を出せることに驚きを隠せないな……まあ、一部の屋敷だと結構荒れたし、その気になれば知ることもできるってことか」


 抵抗が激しかった場合、屋敷の一部が損壊するぐらいは覚悟してもらっている。
 なお、被害者は血の保有者のみ……それぐらいの配慮はちゃんとしたぞ。

 号外としてバラまかれていた新聞を、特殊な方法で記された紙を見ながら考える。
 活版印刷ではなく、職業スキルで転写した物だ……それでもギリギリだろうに。


「たしか印刷は、聖書とかを広めるのに最適なんだよな。だからこそ、ファンタジー世界だと理由を付けて問題にされている」


 他にも火薬や蒸気機関など、いろいろとやり過ぎると危険なモノが多い。
 誰にとって危険なのか、その技術発展がなぜ問題になるのかは不明だ。


「でも、実際アイリスの国は墜とされているからな……空を飛ぶ技術も、ダメなのかな」


 人が空を飛ぶ、それは地球でも遥か昔は禁忌的な扱いになっている。
 空を目指した人間が、太陽に焼かれて堕とされた……そんな話もあったし。

 ただ、神の御業が届かない地球だと、結局それらは成された。
 空を、海を、大地を我が物として振る舞うのが現在の人間たちだ。


「この世界で同じことをやろうとしても、魔物とか魔法概念に負けそうなんだよな……」


 竜が空を飛び、深海生物たちが海に潜み、強力な魔物たちが大地に住まう。
 世界のどこを探しても、人族の安寧が約束された地など存在しない。

 そして、吸血鬼もまたその一つ。
 魔族の一種であっても、彼らに疎い人族にとって吸血鬼とは血を抜き取る残虐な存在。

 人族にとっては、今回の騒動をやらかしてもおかしくはないと認識されている。
 だからこそ、吸血鬼狩りなんて行いを人族は受け入れているのだ。


「……上手く話が戻った気がする。ともあれ向こうがその気なら、こっちも考えを用意しないといけないな」


 別に皇帝へ真っ向から喧嘩を売っているわけじゃないので、策を講じる必要がある。
 まあ、最終的な血の保管場所として、襲うからこそのリスクマネジメントだけど。


「お待たせ」

「よう、メィ。しっかりと寝れたか?」

「無理。昨日、あれだけ血を見たから」


 ジト―っとこちらを見る目の下には、たしかに隈ができていた。
 半分とはいえ吸血鬼、血に酔ったか……単純に血を嫌っているのか。

 とはいえ、それをやったのは間違いなく俺なので、責任を取る必要がある。
 回復魔法で治すこともできるが……せっかくなので、相応の詫びをしようと思う。

 準備するのは赤色の液体。
 もちろん、メィはそれを見ただけでギョッとしてすぐさま離れる。


「……何をする気?」

「血にもあるだろ、傷を癒すための手段ってのが。それを使おうと思って」

「い、いらな──!」

「遠慮するな──“癒血ブラッドヒール”」


 この魔法は通常の回復魔法と異なり、魔力ではなく血液を消費して行われる。
 もちろん必要最低限の魔力は要るが、一度使えば許容量まで一気に回復可能だ。

 普通に使えば、血を消耗として行う再生のような物。
 だがどこかに新鮮な血液を保存できる手段があるなら、回復魔法より便利になる。


「問題は、自分以外の血を使った時に吸血鬼はその味を全身で浴びるような感覚になることだな……おーい、大丈夫かー?」

「……! ……ッ! ……ッ!!」

「全然大丈夫じゃなさそうだな。なら、今度は──“浄血デピュレーション”」

「ッ! ……メル」


 血を清める魔法だが、今回は浴びた血がこれ以上影響を及ぼさないように使った。
 少々見せられない顔になっていたメィも、どうにか戻ってこれたようだ。

 その後、彼女が俺の胸をポカポカ……というかドカドカ殴るという時間を挟む。
 そこまで痛くはなかったが、完全に俺が悪いのでそれは受け入れた。


「悪かったよ。けどまあ、眠気もスッキリで気力も充分だろう?」

「体は。でも、心が疲れた」

「そっちはモチベーションでなんとか誤魔化してくれ。それとも、ポーションでブーストでもしておくか?」

「い、要らない」


 血を味わうことができる吸血鬼なので、極上の血を取ればだいぶ精神も高揚するはず。
 ……同じく半吸血鬼のフィレルも、同じようにいろんな意味で盛り上がったからな。

 だが、どうやらメィもそれは望んでいないご様子。
 やることさえやってくれればいいし、それができなかったら……飲ませておこうか。


「じゃあ、これからの予定だが。メィ、もしすぐに行くと言って対応できるか?」

「……問題ない。でも、こんな状態」

「警備を配置しているらしいが、それでもまだ穴がある。そして、間違いなくその中には警備が用意された場所があるんだろうな」


 隙があると思わせて、逆に油断したこちらに反撃する。
 まあ、そういうやり方もあるだろう……そうでなくても、注意はしておくべきだ。

 ──そう、注意をしたうえで徹底的に潰せばいいだけのことだ。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?

破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。 そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。 無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた… 表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと イラストのurlになります 作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)

虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

処理中です...